( 261731 ) 2025/02/07 17:13:34 0 00 公明党の斉藤鉄夫代表(写真:時事)
30年ぶりの少数与党下での通常国会は、与野党双方が掲げる「熟議」の裏側で、「夏の政治決戦」をにらむ各党・各会派が、水面下での激しい駆け引きを展開している。その中で、永田町関係者の注目を集めているのが、斉藤鉄夫・公明党代表のいわゆる「連立離脱発言」だ。
斉藤氏が1月24日の通常国会召集に先立ち、朝日新聞の単独インタビューなどで、巨額裏金問題の解明に消極的な自民党を、まず厳しく批判した上で、自民と政策が一致できなかった場合の連立離脱について「常にその緊張感はある」と発言し、政界全体に大きな波紋を広げたからだ。
もともと、昨年暮れの臨時国会での与野党攻防時から、公明党の“自民離れ”が目立ち始めていた。このため、今回の発言も「その延長線上での自民への牽制球」(自民幹部)との受け止めが大勢だが、自民内には「今後の与野党攻防を見据えると、状況は思った以上に深刻」(長老)との危機感も広がっている。
そもそも、「宙づり国会」に苦闘する石破茂首相にとって、斉藤氏は「最も信頼し、心を許し合える盟友」(首相側近)のはず。その斉藤氏の“不穏”な発言の裏には、「石破政権の続投の可否を握るのは公明」との認識も透けてみえる。
それだけに、石破首相が目指す「来年度予算の年度内成立」「企業・団体献金」「選択的夫婦別姓」という“3大関門”突破に向け、「今後は石破、斉藤両氏の協力関係の可否が政権維持への重要なカギとなる」(政治ジャーナリスト)ことは間違いなさそうだ。
■国民民主と維新の政策要求に「柔軟な対応」を促す
斉藤氏の件の発言は、1月22日に行われた朝日新聞の単独インタビューの中で飛び出した。斉藤氏はまず、少数与党下での厳しい政権・国会運営についての基本認識を問われると、「衆院選は大変厳しい結果となった。結党60年の節目だったが重く受け止め、結党の原点に立ち返って再スタートしたい」と“原点回帰”の必要性を強調。その上で「公明党は与党の時も野党の時も合意形成の要になってきた自負がある。野党の賛成が得られなければ予算案も法案も通らない中、国民生活本位という視点から合意形成の要になり、存在感を示す」と語った。
さらに、自民党が消極姿勢を維持している核兵器禁止条約の締約国会議への戦争被爆国としてのオブザーバー参加について「法案とは関係ないが、核廃絶というのは我が党の原点。参加を実現したい」と明言。
併せて、当面の国会攻防の焦点となる、国民民主党の「年収の壁の引き上げ」や日本維新の会の「高校授業料の無償化」の要求についても、それぞれ「国民民主が訴える178万円は厳しいと思うが、(現時点の合意である)123万円にこだわるものではない」「高校授業料の無償化を4月から実施するには準備時間が足りないと思う。ただ方向性は理解できるので、建設的に議論したい」と、自民に柔軟な対応を促した。
その一方で、野党がそろって求める「政治とカネ」の問題解明のための旧安倍派元会計責任者の国会への「参考人招致」問題でも「民間人の参考人招致を多数決で決定することは、民主主義のあり方として危険性をはらんでおり、あくまでも全会一致を主張している。ただし、もう一つ同じように大切なことは全容解明への姿勢だ。だからこそ自民には『自浄能力を発揮してください』と言っている」とあえて自民の対応に不満を示した。
■「選択的夫婦別姓」で野党案賛成の可能性も示唆
また、四半世紀を超える自民との蜜月関係が「げたの雪」と揶揄(やゆ)されていることに関して「連立を選択した最大の理由は政治の安定で、長期的視野に立って政策実現もできた。ただ、自民に寄りすぎとの批判はある。衆院選の結果は、その指摘が当たっていたところもあるだろう」などと自公関係見直しの必要性も認めた。
その上で、昨秋の衆院選で問題視された「自民の裏金関連候補者の推薦」に絡めた次期参院選での自公連携については「自民と公明が選挙協力して改選過半数を目指すことが基本的な姿勢だ。(裏金関連議員の推薦については)疑念を払拭(ふっしょく)する努力をしているのか、地元の意見を聞いて判断する」と選挙時の状況次第との考えを表明。
さらに、国会終盤の与野党攻防の最大の焦点とみられている「選択的夫婦別姓」の導入問題については「今国会で結論を出さなければいけない時が来ている。(法相の諮問機関である)法制審議会が答申をしてから、幅広い議論が20年来されてきた。公明が最も大切にしている人間の尊厳に関わることであり、実現したい」と明言。
併せて「通称使用の拡大で対応すべきだ」という自民保守派の主張についても「通称使用拡大なら公明はオッケーと言わない。自公でまとめるのが第一原則だが、仮に自民と案がまとまらないという事態になれば、実現するためにいろいろなことを考える段階に入るだろう」と野党案への賛成の可能性も示唆。
その上で、「実現しなければ、連立離脱もあり得るか」との問いに「何があっても自公連立は崩しません」ということはない。我が党が譲れないもので意見が対立し、合意が得られなかった場合に連立離脱というのはあり得る。そういう緊張感をもって自民もやってくれていると思うし、我々も緊張感をもってやっている」と連立離脱の可能性にまで踏み込んだ。ただ、選択的夫婦別姓が「譲れないもの」に入るのかについては「これからの議論次第だ。この場で『入る』と言っても『入らない』と言っても、問題だから」と言及を避けた。
さらに、石破政権の存否にもかかわる「衆参同日選」については「解散は首相が考えることだが、衆院選から数カ月しか経っておらず、まだ次の選挙のタイミングについて考えることはない。衆院選と参院選は選挙制度が違う。いろんな民意はわけて聞いた方がいい。その大原則から、衆参同日選には反対する」と強い反対姿勢を明確にした。
■「同日選」「大連立」…問われる石破・斉藤盟友関係の“真価”
こうした斉藤氏の一連の発言は「まさに、自公関係の危うさを際立たせるためあえて語ったもの」(政治ジャーナリスト)と受け止められている。そこで今後の想定される政治日程をみると、公明が極めて重視し、党の存亡も左右しかねない都議選(6月22日投開票)が12年に1度の参院選との「同時実施」となることが斎藤氏の危機感につながっていることが分かる。
これについて自民幹部は「石破首相に、都議選について参院選と切り離す日程を強く求めたのは斉藤氏」と明かした上で、「その席で石破首相が年末年始に言及した『同日選』や『大連立』を巡る強い不満を突き付けたはず」と解説する。
公明党内ではかねて「公明は自民の暴走を止める錨の役目を果たしてきたが、長期にわたった安倍・菅政権下では自民独裁への怒りも抑えきれなくなっていた」との声が少なくなかった。しかも、「目前に迫る夏の政治決戦は、公明党・創価学会にとって『結党以来最大の難局』とされるだけに、参院選までの“中継ぎ”を託された斉藤氏は『強い覚悟』で臨むしかない」(政治ジャーナリスト)のは否定しようがない。
このため、石破首相がこの斉藤氏の「覚悟」にどう対応するかが、今後の政局展開を占う最大の焦点となる。とりわけ「二人とも『鉄っちゃん』と呼ばれる鉄道好きで、同じ中国地方出身の政治家としても長年の親交がある」(同)だけに、「自公の2人のリーダーの盟友関係の“真価”が厳しく問われる局面が続く」(自民長老)ことだけは間違いなさそうだ。
泉 宏 :政治ジャーナリスト
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