( 261756 )  2025/02/07 17:41:35  
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 石破茂首相が訪米し、2月7日にドナルド・トランプ米大統領と初の対面による日米首脳会談が行われる。安全保障や経済・貿易など多岐にわたる分野で日米両国が共通認識を持つ機会は重要だ。ただ、人々の関心は「今度は何をトランプ氏から要求され、国民の負担増が強いられるのか」にある。経済アナリストの佐藤健太氏は「『トランプ関税』をめぐるディール(取引)を見ると、石破氏は子供扱いされるだろう。目指すべき国家像を持たず、ご機嫌をうかがいに行く石破氏が“安易な妥協”をしてこないのか国民は厳しくチェックしなければならない」と指摘するーー。 

 

 評論家・石破茂―。首相就任から4カ月が経った宰相の評価は「通信簿」に現われている。1月の主要メディアによる世論調査を見ると、石破内閣の支持率は最も高い産経新聞で43.5%(1月18~19日実施、前回から2.4ポイント減)で、朝日新聞の33%(同、3ポイント減)が一番低かった。注目すべきは支持率よりも不支持率がかなり高くなっている点にあり、産経は48.7%(1ポイント増)、朝日は51%(8ポイント増)に達している。 

 

 1月25、26日実施の共同通信による調査では支持率が35.7%(0.8ポイント減)、不支持率は49.2%(6.1ポイント増)。JNNの調査(2月1、2日実施)でも支持率は前月から4.3ポイント下落し、37.1%。不支持率は同4.5ポイント増の59.7%と下落傾向は同じだ。 

 

 史上最長の長期政権を築いた安倍晋三内閣と異なり、石破首相は少数与党となっている。昨年の衆院選で大惨敗を喫し、今や来年度予算案の成立すら危ぶまれている状況だ。5度も自民党総裁選に挑戦したのだから、よほど実現したい政策や国家理念があるのかと期待した向きもあるだろうが、実際には何もなかった。唯一と言えるのは「楽しい日本」などという曖昧模糊としたスローガンだけだ。 

 

 当然ながら、他国は交渉相手が「長期政権」になるのか否かを考慮する。安倍氏がトランプ氏との仲を深め、主要国で存在感を発揮できたのも「長期安定政権」になると判断されたところが大きいだろう。一方、石破政権はどうか。内閣発足前に「アジア版NATO」や日米地位協定の見直し、日朝連絡事務所の開設などを掲げていながら、動くどころか言及すらしなくなった日本のトップリーダーに対する視線は極めて冷たいものとなっているのは間違いない。 

 

 

 石破氏は政府高官や与党幹部らと連日のように「対米戦略」を練ってきた。だが、いくら机上で論じ合おうとも今度の相手は「ディール」を得意とするトランプ米大統領だ。安倍政権時代にトランプ氏から「タフネゴシエーター」と評された自民党の茂木敏充前幹事長はSNS上に公開した動画で「(トランプ米大統領は)ものの言い方もストレートですし、直球勝負。トランプさんは具体的な話が好きなんですね」と指摘。さらに「そんなに詳しくない話でも絶対に自分が正しいんだという感じで話をするんです。そこで『いや、あなたは間違っていますよ』って言うと、大体倍返しで反論が返ってくるから、そこはゆっくり聞くことですね」とした上で、「まずは否定しない、相手の話をよく聞いて、真意がどこにあるか、特に交渉になってきますと、ウインウインになるような合意をどう見つけていくか、解決策をどう見いだしていくか、これがコツだ」と指摘している。 

 

 最近の国会論戦を見ていると、質問者の主張に耳を傾ける一方で、自らの持説を長々と展開する石破氏がトランプ米大統領の“地雷”を踏むのではないかとの不安は尽きない。石破首相は麻生太郎元首相に助言を求めたところ、麻生氏からは「(トランプ米大統領には)結論から言いましょう」とアドバイスを授かったという。ただ、石破首相にとっては「一番苦手なこと」とされ、会話そのものが成立するのかさえ懸念されている状況だ。 

 

 昨年11月、石破首相とトランプ氏の電話会談は「5分間」で終わった。同盟国と言いながら切望していた2024年中の対面会談が実現できず、さらに政府は「米国の『ローガン法』で大統領就任前は外国要人と接触してはいけない規定のため」と説明していたが、他国の要人はトランプ氏と重ねてきた。1月中の訪米についても「大統領就任後の方が意味はある」(首相周辺)と対応が遅れ、ようやく2月頭に面会できる準備が整ったという。 

 

 トランプ米大統領は2月4日からのメキシコ、カナダに対する25%の関税について発動を土壇場で1カ月延期。中国には10%の追加関税を発動した。温暖化対策の「パリ協定」や国連人権理事会から離脱する大統領令に署名し、パレスチナ自治区ガザでの停戦合意をめぐり「ガザは米国が所有する」と発言するなど、政府内に「常識では考えられないスピード、力強さがある」(外務省関係者)などと驚きの声が広がる。 

 

 

 トランプ氏は「日本に敬意を抱いている」「日本が好き」などと、石破首相との首脳会談を楽しみにしているとされるが、米政権高官と連絡を取り合う人物に話を聞くと「トランプ氏は石破氏を嫌っている」という。数々の「サプライズ」で世界中をビックリさせるトランプ氏が石破氏、日本に対してどのようなディールを突きつけるのか注視しなければならないだろう。 

 

 懸念されるのは、さらなる「防衛費の増額」だ。岸田文雄前政権時代に関連予算は国内総生産(GDP)比2%に倍増することが決まったが、「いや、それでは足りない。3%に増額すべきだ」と要求してくることも予想されている。初めての対面会談でただちに突きつけてくるのかは別にしても、石破首相が「それならば、アジア版NATOや日米地位協定見直しが必要だ」と主張できるのか。日本政府内の事務方は「同盟関係のさらなる深化に向けて合意した」などと曖昧な成果を強調する準備をしているだろうが、現実的には「ただ会えただけ」で終わる可能性が高い。 

 

 言うまでもなく、防衛費などの増額要求があれば負担は国民にのしかかる。岸田前政権の「防衛費2%」にしても法人税や所得税、タバコ税の増税が原資だ。「安全保障政策通」として知られる石破氏だが、トランプ米大統領と「会えただけ」で様々な要求に唯々諾々と従うだけに終わるのであれば、もはや“レッドカード”だろう。 

 

 物価高に苦しむ国民は、今年も止まないガソリン価格上昇や相次ぐ飲食料品の値上げという打撃に耐え続けている。岸田前首相は数々の増税プランを並べて「増税メガネ」と揶揄されたが、石破首相は国民の窮状を直視し「評論家・石破茂」から脱皮しなければならないはずだ。患者の自己負担を抑制する「高額療養費制度」見直しに伴い、今年8月からの負担上限額引き上げには「治療をあきらめ、生活できなくなる患者が出てくる」との悲痛な叫びも聞こえる。 

 

 国民民主党と協議を重ねてきた「年収103万円の壁」見直し、ガソリン税に上乗せされている暫定税率の廃止はいつになったら実現するのか。選挙制度のあり方や年金制度改革を含む社会保障制度、自民党派閥の「裏金問題」に絡む再発防止策や政治改革はいつまでに何をするつもりなのか。いずれも、どこか他人事のように“先送り”ばかりをしているに過ぎない。 

 

 年頭記者会見では「令和の日本列島改造」を掲げ、地方創生が成長戦略につながると訳の分からない持論を展開したが、「楽しい日本」を目指す前に国民の窮状を直視し、その対応を優先するのがトップリーダーの責務だろう。世界トップの軍事力と経済力を背景に翻弄するトランプ氏の真似はできないが、少なくとも「ジャパン・ファースト」の意思が感じられないのは残念でならない。 

 

 今回のトランプ米大統領との会談では、石破首相が「どこを向いている」のかが問われる。国民が注視する中、会談の結果次第では「もう退場して欲しい」との声があがる“諸刃の剣”になるだろう。 

 

佐藤健太 

 

 

 
 

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