( 261776 ) 2025/02/07 18:02:06 0 00 ジムニーノマド(画像:スズキ)
近年、国内の新車販売ランキングを見ると、軽自動車や5ナンバーの手軽サイズの車が上位を占めている。例えば、話題の「ジムニーノマド」のようなモデルが登場すると、短期間で多くの注文を受けることが多い。この現象から、ユーザーがこうした車を求めている傾向があるといえるだろう。
一方で、メーカーの新車開発を見てみると、大型化や高価格化が進んでいるように感じられる。軽自動車や5ナンバー枠の小型乗用車を扱っているメーカーは少数派となり、かつてこれらに強みを持っていたメーカーでさえ、その分野にはあまり力を入れていないようだ。
このようなギャップが生まれる背景には、どのような理由があるのだろうか。
自動車(画像:写真AC)
メーカーが手軽サイズの車を積極的に開発しない背景には、収益性の面での課題がある。車両価格が低い場合、1台あたりの利益は限られる。一方で、高額な車両は利益率が高く、SUVや高級セダンといった単価の高いモデルは、売れる市場であればメーカーにとって魅力的となる。
この傾向は、国内市場の縮小とも関連している。少子高齢化や若者のクルマ離れによって、日本の自動車市場は伸び悩んでいる。しかし、新興国や北米市場では、一定の価格帯の車が売れやすい傾向が見られる。特にSUVの人気は世界的なトレンドとなっており、グローバル市場を視野に入れた場合、大型車のほうが投資回収の面で有利となる。
また、安全性や環境規制の強化が開発を難しくしている要因のひとつである。衝突安全性能を確保するためには、ボディを頑丈にする必要があり、一定のサイズと重量が求められる。さらに、ハイブリッドやEV化に伴い、バッテリーを搭載するためのスペースを確保しなければならず、これも開発のハードルとなっている。このような要因が、「小さくて安い車」よりも、「大きくて高価格な車」を作りやすい環境を生み出している。
一方、メーカーが
「世界市場の論理」
に基づき大型化を進めているなか、販売データは「小さな車が十分に求められている」ことを示している。2024年の新車販売台数を見ても、軽自動車と5ナンバーの小型乗用車は全体の7割以上を占めており、国内ユーザーの多くは経済性や運転のしやすさを重視して、手軽サイズの車を求めている。
それにもかかわらず、大型化の流れは止まらない。結果として、欲しい車が見つからないと感じるユーザーは増え、クルマそのものへの関心が薄れていく可能性がある。移動手段として、駐車しやすく、維持費が安く、取り回しのよいサイズの車の価値は依然として高い。しかし、メーカーの戦略はこの需要と必ずしも一致していない現状がある。
初代カローラ(画像:トヨタ自動車)
日本の自動車メーカーは、かつてこうした車に強みを持っていた。初代シビックやカローラは、コンパクトながら高品質な車として世界中で評価され、日本の道路事情に適したサイズ感と優れた燃費性能が、グローバル市場でも大きな強みとなっていた。
しかし、現在では多くのメーカーが欧米市場のニーズに応じて、大型車の開発を進めている。かつて5ナンバーサイズだった車種も、現行モデルでは3ナンバー化が進み、軽自動車以外の選択肢は減少している。この流れのなかで、日本市場の特有のニーズが十分に反映されていないと感じられる場面も増えている。
スズキのジムニーノマドは、発売後わずか数日で5万台を超える受注を記録し、手軽サイズの車に対する潜在的な需要の高さを示した。手頃な価格とシンプルな設計、運転しやすいサイズ感が多くのユーザーに支持され、成功を収めた。
その一方で、他のメーカーが同じ戦略を採らない背景には、開発コストや収益性の問題があると考えられる。ジムニーは長年にわたって確立されたモデルであり、そのコンセプトを基にリスクを抑えた開発が行われていた。一方、新しいモデルを開発する場合、開発費を回収できるだけの販売台数を確保できるかどうかについて、慎重な見極めが求められるだろう。
「ジムニー ノマドをご検討中のお客様へ ご注文停止に関するお詫び」(画像:スズキ)
日本の道路事情や駐車場の規格を考慮すると、手軽サイズの車の利便性は依然として高い。しかし、メーカーが大型化の流れを続けるなかで、ユーザーは「欲しいクルマがない」と感じることが増え、最終的にはクルマ自体を買わなくなる可能性もある。
かつて、日本の自動車メーカーは「適正サイズ」のクルマ作りに強みを持っていたはずだ。しかし、手軽サイズの車を求めるユーザーの声がこれほど大きいにもかかわらず、それに応えられない現状は、国内市場の縮小を加速させる一因となるかもしれない。
「収益性」や「世界市場のトレンド」は重要な要素だが、国内の実需を無視することが、最終的には市場自体の縮小を招くリスクもある。ジムニーノマドのようなヒット車が登場した現在、メーカーは改めて
「本当に求められているクルマは何か」
を考えることが求められているのではないだろうか。
ハプスブルク吉野(ビークル愛好家)
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