( 262241 ) 2025/02/08 16:34:38 0 00 日産自動車のロゴマーク。2022年1月14日撮影(画像:時事)
日産とホンダの経営統合協議が破談となり、各所から批判が噴出している。企業統治の問題、経営判断の遅れ、グローバル戦略の失敗といった指摘は的を射ているように見える。しかし、このバッシングの応酬が日産の未来にとってどのような意味を持つのか、冷静に考える必要がある。
日産の経営状況は極めて厳しい。2024年4~9月期の連結純利益は前年同期比9割減となり、本業である自動車事業のフリーキャッシュフローは24年上期の半年間で約4500億円の赤字に転落。北米市場では商品力の低下を販売奨励金で補う戦略が破綻し、中国市場ではEVシフトの波に乗り遅れた。販売台数の減少、余剰生産能力の抱え込み、競争力のある電動車ラインナップの欠如と、課題は山積している。
こうした状況を前に、ネット上のコメントで
「日産はもう終わった」 「経営陣のプライドが高すぎる」
と切り捨てるのは容易い。しかし、それで何が変わるのか。日産の凋落は一朝一夕に生じたものではなく、20年以上にわたる経営判断の積み重ねの結果だ。単純な批判が解決策につながるわけではない。日産をバッシングし続けることは、むしろ負のスパイラルを加速させるだけではないか。
もし、自動車ファンが本当に日本の自動車産業を愛し、日産の名車を未来に残したいと考えるなら、
「日産がどう生き残るか?」
という問いに真正面から向き合うべきではないだろうか。
2025年1月23日発表。主要11か国と北欧3か国の合計販売台数と電気自動車(BEV/PHV/FCV)およびHVシェアの推移(画像:マークラインズ)
日産がホンダとの統合を見送った以上、自社の力での立て直しが求められる。そのためには、単なるリストラやコスト削減だけではなく、事業の再構築が不可欠となる。
現在、日産が直面している課題は大きく三つに整理できる。
・商品力の低下 ・生産能力の過剰 ・技術開発の遅れ
である。これらの課題にどのように対応するかが、今後の成長を左右する重要なポイントとなる。
まず、商品力の低下について考えてみたい。かつて「技術の日産」を象徴するモデルが多く存在していたが、現在のラインナップではその存在感が薄れている。特に北米市場においては、トヨタやホンダに匹敵するSUVやピックアップトラックの競争力が十分ではない。また、電動化の進展に対しても、戦略の明確化が求められている。
今後必要なのは、
「日産ならではのクルマ」
を再定義することだ。GT-RやフェアレディZのような象徴的なスポーツカーだけでなく、一般向け市場においても「走る楽しさ」と「革新性」を兼ね備えたモデルの投入が求められる。例えば、EV市場において、手頃な価格で楽しめるスポーツEVの開発も有力な選択肢となるだろう。テスラが高級EV市場をリードし、BYDが価格競争を仕掛けるなか、日本メーカーの強みである「軽量・高効率・高性能」のEVを打ち出せば、存在感を強めることができるのではないか。
次に、生産能力の過剰について見てみる。現在、日産の生産能力は年間500万台規模(中国で約150万台、中国以外のグローバル日産で約350万台)だが、実際の販売台数は340万台程度にとどまっている。この状況が続けば、固定費の増大が収益を圧迫することになる。単純な工場閉鎖やリストラではなく、生産拠点の再編や他社との協業を積極的に進めることが重要だ。
例えば、台湾の鴻海(ホンハイ)との協力により、EV生産の一部を外部委託してコスト削減を図る案がある。実際、日産自動車出身でEV事業の最高戦略責任者を務める関潤氏が、春節(旧正月)前に訪日し、日産幹部と連携について協議していたことが明らかになった。また、軽自動車分野においては、三菱との連携強化を進め、日産ブランドの価値を保ちながら効率的な生産体制を構築することが有効だ。さらに、トヨタやホンダのような全方位戦略を採るのではなく、「選択と集中」を進め、得意分野に経営資源を集中させる戦略も有効な選択肢となる。
2025年1月23日発表。主要メーカーの電気自動車(BEV/PHV/FCV)販売台数推移(画像:マークラインズ)
最後に、技術開発の遅れについて考える。EVの先駆者として登場したリーフは、テスラのモデル3と比べると競争力が弱まり、アリアの販売も伸び悩んでいる。
この状況を打開するためには、技術開発の方向性を明確にし、重点的な投資を行うことが不可欠だ。例えば、「電動4WD技術」に特化したプレミアムEVブランドを展開するのもひとつの手段である。EV市場では単なる航続距離の競争にとどまらず、「走行性能」や「乗り味」といった付加価値も求められている。日産がこれまで培ってきた4WD技術を活用し、「走る楽しさ」を前面に押し出したEVを投入することで、新たなポジションを確立できる可能性がある。
また、ソフトウェア開発については、内製化にこだわるのではなく、外部企業との提携を加速させることが求められる。例えば、外資企業との連携を強化し、「コネクテッドカー」の分野で先行する戦略も有効だ。自動車業界はもはやハードウェアだけの競争ではなく、ソフトウェアが大きな鍵を握る時代に入っている。外部の専門性を活用することで、開発スピードを向上させ、競争力を高めることができるだろう。
日産が再び競争力を取り戻すためには、コストカットだけではなく、事業の構造そのものを見直し、「日産にしかできない強み」を明確にすることが不可欠だ。そのための具体的な戦略を早急に打ち出すことが、今後の成長のカギを握ることになる。
日産自動車のウェブサイト(画像:日産自動車)
企業経営は、消費者やファンの声に大きく左右される。もし日産のファンが単なる批判に終始せず、「こんな日産を見たい」という具体的なアイデアを発信すれば、企業の方向性が変わる可能性は十分にある。
SNSやコミュニティを活用し、「日産に期待すること」を積極的に発信し、それを経営陣に届ける努力こそが、自動車ファンにとって最も建設的な行動ではないだろうか。
日産の真の復活は、ただ批判するのではなく、「どうすればよいのか」を考え、行動に移す力にかかっている。自動車は日本が世界に誇る基幹産業だ。ただバッシングを続けるだけで、一体何が変わるというのか?
鳥谷定(自動車ジャーナリスト)
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