( 262736 )  2025/02/09 16:13:39  
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写真はイメージです Photo:PIXTA 

 

YouTubeなどで再生回数を稼ぐ「迷惑系配信者」の問題は、ここ数年で顕著となり、その行動が社会問題化している。彼らはたびたびヒンシュクを買う行動をするが、その結果注目を集め、いわば「悪名は無名に勝る」状態を引き起こしてしまっている。彼らの動機を「金稼ぎ」や「承認欲求」と考えれば簡単だが、見ようによっては、彼らは自らが作り出したサークル内での人間関係から抜け出せなくなっているようにも見える。(フリーライター 鎌田和歌)● 迷惑系YouTuberが フジテレビ記者会見で生配信した結果… 

 

 注目度が非常に高かったフジテレビの「やり直し記者会見」(1月27日)で、ほんの少しだけ話題になったのが、迷惑系YouTuberの乱入である。 フジテレビ側はプライバシー保護のために10分遅れの放送・配信を各社に求めたが、この人物だけはTikTokで生配信を行ったため、注意を受けたのちに強制退場となったという。 1回目の会見で記者や動画撮影を制限したことで批判を浴びたフジテレビが広く門戸を開いた結果であるが、さすがにこの強制退場に異論がある人はほとんどいないだろう。 このYouTuberは「私人逮捕系YouTuber」でもあり、2023年には名誉毀損の疑いで逮捕されるなど(その後、不起訴処分)、たびたび問題を起こしていた。 問題を起こす迷惑系配信者はこの人物だけではない。 

 

 2024年には、焼肉店でテーブルに土足で上がるなどし、その様子を配信していた男性が威力業務妨害で懲役10カ月、執行猶予4年の有罪判決を言い渡されている。 こういった迷惑系は海外にもいて、世界的に有名な迷惑系配信者「ジョニー・ソマリ」も、昨年大阪で威力業務妨害罪で罰金20万円。その後、韓国でも騒ぎを起こして在宅起訴されたという。 

 

 配信者が引き起こすさまざまな行動や事件は、一部の視聴者を強く引き付ける。そして彼らが注目を集めた結果、社会的なルールや常識を無視する行動が助長される。 この背後には、視聴者数がそのまま金銭的利益に直結するという、プラットフォームの仕組みが影響していることは言うまでもない。 しかし、それだけで彼らの行動のすべてを説明できるわけではない。中にはプラットフォーム側に収益化を無効化されても、配信を続ける配信者がいるからだ。● 金銭的なうまみがなくても 配信を続ける動機は何か? 

 

 なぜこのような「迷惑系配信者」が次々と登場し、ある意味で「成功」してしまうのか。彼らが配信を続ける分かりやすい動機である「収益化」も含め、それ以外の背景を5つに分けて分析する。 1.目立つことでの 「収益化」 

 

 YouTubeのようなプラットフォームでは、動画の再生回数が収益化に直結する。再生回数が増えれば、それに比例して広告収入も増える仕組みである。ここで重要なのは、「目立つこと」が収益に繋がるという点だ。 すでに散々言われていることではあるが、露悪的な内容や過激な言動は、視聴者を引き寄せやすく、その結果、再生回数を増やしやすい。そのため、配信者は自主規制を無視してでも目立つことに注力しがちで、しばしば社会的に不適切な行動に出る。 この「お金を儲けたい」という動機はシンプルだが、配信者が過激化していく根本的な原因の一つと言える。 2. 承認欲求の充足 

 

 「迷惑系配信者」に限らず、SNSを利用する多くの人々が抱えるのが、承認欲求である。インフルエンサーや配信者は視聴者からのリアクション、コメント、そして「いいね!」が直接的なモチベーションとなる。 迷惑系配信者の中には、その行動が極端であるほど、視聴者の反応が強く返ってくることを理解し、自己の存在価値を確かめるために過激な行動を取る者も多い。 視聴者からの賞賛や支持によって自信を得る。そして「目立ち続けるため」にさらに過激な行動を取る、という負のスパイラルが起きやすい。承認欲求が満たされる過程で配信者はさらに注目を集めようとし、次第に社会的規範を無視した行動に出るのである。 

 

 

● 配信者がアイドル化して 視聴者が崇拝したり、期待したり 

 

 3. 配信者とその視聴者によって形成される「コミュニティ」 

 

 YouTubeのコメント欄やXでのリプ欄を少し観察すれば分かることだが、迷惑系配信者の周りには、彼らの過激な行動を支持する視聴者が集まる。これが一つのコミュニティ、言い換えれば「サークル」を形成する。 こうしたサークルでは、配信者がアイドル化し、視聴者がその行動を崇拝する。視聴者が同調することで、その配信者は「次はどんな行動をしてくれるのか?」といった期待を背負うことになり、行動がさらに過激になっていく。 また、配信者の行動はほぼすべてが肯定的に受け入れられる。ファンにとっては、配信者の行動が社会から受け入れられなくても、いや受け入れられないからこそ、ヒーローとして崇める傾向が強まる。 この「内輪」の関係が、配信者を強化し、社会的な批判を無視させる要因となっている。 4. エコーチェンバー現象が加速する 

 

 「エコーチェンバー」とは、自分の見える範囲で同じ意見や情報が繰り返し強化され、異なる意見が排除される現象を指す。ネット上ではこれが起きやすい。この現象は当然、迷惑系配信者のコミュニティ内でも見られる。 配信者の過激な行動が称賛され、視聴者はそれを繰り返し支援する。こうした状況では、外部からの批判は届かず、配信者とその視聴者の間だけで世界が形成されるため、社会的な影響が無視される。 また、たとえ批判が届いたとしても内容が歪められているので、配信者のファンは説得されない。 5. 再生回数を狙った模倣行動 

 

 迷惑系配信者は、そのサークルの中で増殖する。 

 

 視聴者の中からその配信者の模倣者が現れるのである。「このネタで成功できるのであれば自分もやってみよう」という動機から、特定の人へのバッシングや、差別的言動に走る新人配信者もいる。 彼らは、再生回数を得るためには後先を考えず、デマを流したり、根拠なく他者を攻撃したりすることに躊躇がない。後発であるので、より過激に振る舞おうとすることも少なくない。 配信者側はこのような模倣者を嫌がるかといえば、多くの場合むしろ逆だ。お互いを紹介し合ったり、配信者の動画を要約して配信する「切り取り動画」を制作する月額契約を結んだりして、双方が利益を上げられる仕組みとなっているからだ。 

 

 

● 孤独な社会のそこかしこにある 抜け出せない「サークル」 

 

 迷惑系配信者が注目を集める背景にはプラットフォームの仕組みが密接に絡んでおり、プラットフォーム側の対策も必要である。 一方、彼らが引き起こす社会的な問題を考えた時、最も厄介なのはその「集団力」だと感じる。 配信者が周囲と形成する「サークル」は、いったん中に入ってしまうと外部からの非難や批判をほとんど無視することができる。参加者はサークル内の人間関係に依存し、抜け出せなくなる。彼らの交流はオンラインだけではなく、実際の嫌がらせ現場や、その後の飲み会でも行われるからだ。 酷な言い方をすると、それまで現実に居場所が見つけられなかった人たちが、迷惑系配信者が作り出すサークルで初めて「友達」を見つける。そういうケースがあるのだ。 こうなってくると外部からの説得は難しく、抜け出すきっかけとなるのは内部抗争や内部分裂である。 ここまで読んで気づかれた読者の方もいるかもしれないが、このような「サークル」は、迷惑系配信者を中心とするものだけではなく、現代ではそこかしこに見られる。 孤独や不安につけ込み、閉じられた人間関係への依存に誘うワナは無数に存在する。誰もが肝に命じておきたい。 

 

鎌田和歌 

 

 

 
 

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