( 262791 )  2025/02/09 17:18:09  
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3ドア車と比べてホイールベースが340mm延長し、Aピラーから後ろのボディデザインを見直した Photo by Kenji Momota 

 

 多くのジムニーファンが待ちに待った、5ドア「ジムニー」が4月3日から国内販売される。登録車3ドアの「ジムニーシエラ」を5ドア化し、「ジムニー ノマド」と名付けた。インドで製造し、日本に輸入する。ところが予約販売で注文が5万台超となり急遽、注文は一時停止に……。将来の電動化を含めて、ジムニーの未来について考えた。(ジャーナリスト 桃田健史) 

 

● 社長の「不安」が現実になってしまった 

 

 「私は、(当初)反対だった」 

 

 スズキの鈴木俊宏社長は2025年1月30日に都内で開催された「ジムニー ノマド」の発表記者会見で、このタイミングでの日本導入に当初は積極的ではなかったことを明らかにした。 

 

 なぜならば、既存の2モデルである、軽自動車「ジムニー」と3ドア登録車の「ジムニー シエラ」が国内で多くの受注残を抱えている状態だからだ。 

 

 これら2モデルは、静岡県の湖西工場で18年の予約販売時点でオーダーが殺到し、納期は1〜2年、いやグレードによってはさらに時間がかかるといった「長納期」が定常化していた。工場内の改良による生産能力の拡大を進めて、納期はやや短くなったものの、発売から6年半を経た現在でも、ジムニーやジムニー シエラには長納期というイメージがついているのが実状だ。 

 

 そうした状況で、鈴木社長としては「いまお待ちいただいているお客様のお気持ちが第一」というのが基本姿勢だったというわけだ。 

 

 だが、ジムニー5ドアは23年1月にインドで世界初公開され、その後に世界各国で販売が開始されており「いったい、日本にはいつ導入するんだ?」と国内のユーザー、販売店、そしてアフターマーケット業界からの声が高まっていたのも事実である。 

 

 会見で、国内営業担当者は「ジムニーやジムニー シエラをお待ちのお客様のご要望を丁寧にお聞きした上で、ジムニー ノマドへの受注切り替え(納品する車種を替えること)をご検討いただく場合もあり得る」という打開策を示した。 

 

 こうした「お客さま一人ひとりに寄り添って説明していく」という国内営業の意向を、鈴木社長が最終的に認めたという経緯がある。 

 

 ところが、蓋を開けてみると、今後はジムニー ノマドに注文が殺到。月間販売計画台数の1200台を大きく超える5万台の受注となり、会見の4日後、スズキは「ご注文停止のお詫び」を発表。単純計算で、初期受注分をさばくには4年近くかかってしまう状況だ。 

 

 

● ノマドを命名したのは、鈴木社長自身 

 

 大量受注という嬉しい悲鳴の中、スズキがどうやってインド生産のジムニー ノマドのバックオーダーをさばくのだろうか。 

 

 品質について鈴木社長は「どこで作っても、スズキ品質」とインド製の弱点はないと言い切る。インドから日本への輸送時間が長く、ボディへの傷の配慮から、全数を湖西工場で再度品質検討を行った上で出荷する。 

 

 こうした手間がかかるクルマの増産体制を考えることは実に難しい。 

 

 では、5ドア車の商品企画はいつから始まったのか? 

 

 今回の会見でスズキ関係者は「18年の現行モデル(4代目)開発時点では、正式な商品化の方向は決まっていなかった」と振り返る。 

 

 確かに、18年に3ドア車が登場した時点で、筆者が当時の担当チーフエンジニアと意見交換した際も「可能性の一つ」と表現していたものの具体的な動きは社内にないと話していたことを思い出す。 

 

 その後、19年の東京オートサロンでジムニー シエラをベースとした3ドアピックアップトラックを出展したので、それを受けて同チーフエンジニアに5ドアの可能性を聞いている。その際の回答は「バックオーダーを少なくすることが最優先。5ドア車の話はもう少し先」というものだった。 

 

 そうした中、海外市場への対応として、インド工場で20年11月から輸出専用車としてジムニーの生産を開始。 

 

 さらに、23年発表のジムニー5ドアは、4代目ジムニーとしては初めてインド国内でも発売を始め、それとほぼ同時に世界各国へ輸出することでグローバルカーとして位置付けた。日本は101番目の海外輸出先となる。 

 

 そう聞くと、「日本市場が後回しになった」と思う人がいるかもしれないが、あくまでも国内生産の3ドア車の生産・販売動向を見据えたグローバル事業戦略の一環として、このタイミングでの5ドア車日本導入となったという解釈だ。 

 

 なお、海外市場では軽自動車規格がないため、全モデルが日本でいう登録車となる。日本では主力モデルの軽自動車にジムニーと名付けているため、登録車では3ドア車がジムニー シエラ、そして今回導入の5ドア車がジムニー ノマドとなった。ノマドとは、フランス語で遊牧民を指す。 

 

 鈴木社長は「名称の発案は私だ。コンパクトSUV市場を切り開いた、エスクード ノマドから取った」と5ドア車に対する思いを強調した。 

 

 

● 電動化必須の2030年代、本格四駆市場はどうなる? 

 

 では、技術面でジムニー ノマドを見てみよう。 

 

 基本骨格は、ジムニーおよびジムニーシエラと同じ井形(いがた)またははしご型と呼ばれるトラックやバスでも採用されるラダーフレームだ。ホイールベースが伸びたことで、車体中央にセンタークロスメンバーを加えて車体剛性を上げた。 

 

 凹凸路でも優れた接地性と地面に対するクリアランス(距離)が大きくできる3リンクリジットアクスル式サスペンションも3ドア車と同じだが、車重が増えてボディサイズが違うため、バネやショックアブソーバーの仕様は当然違う。 

 

 排気量1.5L直列4気筒ガソリンエンジン、そして通常は後輪駆動でトランスファーを介して4H(4WD高速)または4L(4WD低速)を選べる駆動システムも、ジムニー シエラと共通だ。 

 

 ジムニー ノマドは、ファミリー層も取り込みたいという商品企画戦略車だが、燃費はWLTCモードでマニュラルトランスミッション車が14.9km/Lで、AT車で13.6km/Lとこのクラスの車としてはけっして良い数字ではない。 

 

 そうなると、電動化を求める声が出てくるのは当然だろう。 

 

 20年代後半から30年代に登場するであろう5代目ジムニーのハイブリッド化については24年7月、スズキが開いた技術説明会でエンジン開発幹部が「メカニカル四駆でのマイルドハイブリッド化、またはプロペラシャフトがないエンジン+モーターの組み合わせなど議論を始めたところ」と明言している。 

 

 今回の会見では、将来の電動化について鈴木社長や開発担当者からコメントはなかった。 

 

 その上で、鈴木社長は「本格四駆のプロユースとして頻繁にフルモデルチェンジするのではない。基本性能の中で作り込むモデル」「初代ジムニーと比べると、乗り心地は乗用車ライクになったが、あくまでもプロユースというポジショニングはずらさない。その中で、本来の機能を研ぎ澄ましていく」と、ジムニー ノマドを含めて国内ジムニー3モデルの将来のあり方を示した。 

 

 一般的にプロユースでの本格四駆といえば、「ランドクルーザー70」、そして軽自動車ジムニーがある。 

 

 一方で、先進的な四駆といえば、直近では2000万円台後半と高額ながらメルセデスベンツ「G580」の優れた機能性が自動車開発者の間で話題に上ることが多い。バッテリーEV(電気自動車)でありながら、深い水の中での走行を可能とし、また荒れた急斜面での姿勢制御に優れ、走り味がマイルドだと感じることに驚く。 

 

 その他、中国車を含めて電動四駆車の技術進化が日々進んでおり、従来の本格四駆の概念が30年代には変わっているかもしれない。 

 

 法規制を含めて電動化が避けられない状況で、ジムニーの電動化は必然だ。 

 

 一方で、ジムニー ノマドを含めた日本向けの長納期という課題を同時に解決していかなければならない。 

 

 スズキの『次の一手』に期待したい。 

 

桃田健史 

 

 

 
 

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