( 263276 ) 2025/02/10 17:15:12 0 00 写真:現代ビジネス
人口減少日本で何が起こるのか――。多くの人がこの問題について、本当の意味で理解していない。どう変わればいいのか、明確な答えを持っていない。
100万部突破の『未来の年表』シリーズの『未来のドリル』は、コロナ禍が加速させた日本の少子化の実態をありありと描き出している。この国の「社会の老化」はこんなにも進んでいた……。
(※本記事は『未来のドリル』から抜粋・編集したものです)
出生数の動向を左右する妊娠届け出数や婚姻件数が激減した要因は、主に3つある。
1つは妊娠中の感染リスクへの懸念だ。妊婦の中には通院を抑制している人が少なくなかった。感染した場合の胎児への影響を心配する声も多かった。
2つ目は、出産態勢への不安である。都会から地方に戻らないよう移動の自粛を求める地域が多く、「里帰り出産」ができなかった人が少なくない。入院中に夫や家族の立ち合いや面会が制限されるケースもあった。
「里帰り出産」の困難さは、日本産科婦人科学会が2020年12月に発表した全国の施設を対象とする緊急アンケートの中間調査結果が如実に物語っている。2020年10月から2021年3月までの予約件数を調べたのだが、東京、大阪、愛知など大都市を抱える6都府県で前年同期間比約24%減、それ以外の道府県では約37%も減ったのである。
出産後も、感染拡大で保育園が一時閉鎖になったり、自治体による妊婦向けの教室や出産後の母親同士の交流機会がなかったりしたことで、育児への不安や孤立感が重なり不眠などの症状が現れた人が少なくなかった。出産後、子供への感染を懸念する声もあり、こうした情報を耳にして、結婚や子供を持つことをためらう人も増えたことだろう。
出産後の母親の10%程度が「産後うつ」を発症するとされるが、筑波大学などの調査(2020年10月)によれば、コロナ禍によって発症の可能性のある人が24%に上った。別の研究グループの調査結果では、約30%というものもあった。
3つ目の要因は、景気悪化に伴う収入の減少や将来への不安だ。第2子以降の妊娠については、夫の育児参加や経済面の安定が大きな決め手となっている。勤務先の業績悪化で仕事を失ったり、給与やボーナスが減ったりする人が、ライフプランを見直さざるを得なくなり、子供を持つ余裕を失った夫婦・カップルが増えたということだ。
婚姻件数や妊娠届け出数の減少は、コロナ不況の影響が非正規の女性雇用者を直撃したことも遠因となっていると考えられる。共働き世帯が増え、カップルのどちらかの雇用が不安定になると、結婚・出産以降の生活設計に見通しが立たなくなるためだ。
総務省の「労働力調査」によれば、2020年度平均の就業者数は6664万人で前年度より69万人減ったが、中でも女性が多い宿泊業・飲食サービス業は、37万人減の381万人と1割近い減少幅になった。
ホテルや飲食店などは、感染拡大に伴う観光需要の減少や営業時間の短縮のあおりを受けて経営が悪化したが、非正規雇用者が真っ先にその犠牲になった形だ。
非正規雇用者の増減を見てみると、女性は前年度比65万人減であった。同じ非正規雇用でも男性は32万人減で半数にとどまっている。同じ女性でも正規雇用者は36万人増で、非正規雇用の女性の厳しさが際立つ。「2020年度」の調査では年齢別の状況が分からないので、「2020年」で調べ直してみると、結婚する人が多い「25~34歳」の女性非正規雇用者は、前年より14万人少なくなった。
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妊娠届け出数や婚姻件数の減少からして、2021年の出生数の激減は間違いないが、どれぐらいの水準まで落ち込むのだろうか。
コロナ禍の影響をさほど受けなかった2020年が過去最低を更新して84万人程度になりそうであることを踏まえれば、80万人割れは確実視されるところだ。厚労省の人口動態統計月報(概数)によれば、2020年1~11月の婚姻件数も、前年の同期間と比べて12.3%も下落した。
もし、これに比例して妊娠件数が1割下落すれば、2021年の年間出生数は75万人程度にまで減る可能性が出てくる。速報値では2021年1〜3月の出生数は、「コロナ前」だった前年同期比9.2%の激減である。
社人研は75万人となる時期を2039年と予想していた。18年も早い到達が現実となったら、2021年は「ベビーショック元年」として、長く歴史に刻まれることとなる。人口減少対策のための「残り時間」を一気に使い果たしてしまうようなものだ。
問題はこれで終わらない。出生数の減少は2022年以降も加速を続けそうだからだ。2021年1~3月の婚姻件数は、前年同期間比5.9%減と下落に歯止めがかかっていない。雇用情勢は悪化しており、前年より1割近い減少となったら、2022年の年間出生数は70万人割れが視野に入ってくる。それは2040年代半ばに達すると見られていた水準だ。日本社会は急降下で縮むこととなる。
結婚や妊娠は、個々人の価値観に基づく極めてセンシティブな問題であり、とりわけ「タイミング」が重要である。コロナ禍が収束すれば観光需要などが爆発的に増えることが予想されるが、結婚や妊娠に関しては”ため込んでいた需要”が一気に放出されるようにはならない。結婚ブームや出産のブームが起きるわけではないのだ。
新型コロナ感染症は、人間関係の中で”最も濃厚な関係”を築かなければならない恋愛を難しくする。初めて出会った男女が恋人関係に発展するのに、マスクにソーシャルディスタンスでは無粋であろう。テレワークでは直接の出会いそのものがなくなる。
社人研の「第15回出生動向基本調査」(2015年)によれば、平均交際期間は4・34年だ。今後数年は、「コロナ前」から交際していたカップルが結婚する時期を迎えるが、問題はその後だ。出会いや”最も濃厚な関係”を築く機会を奪われる期間が長期化したら、婚姻件数どころかカップルそのものが激減しかねない。
コロナ禍は収束の目途が立っていない。社会ストレスがかかる状況でセックスレスの傾向が続き、婚姻件数の下落傾向に歯止めがかからなければ、出生数は墜落するように減ってしまう。日本社会は壊滅的な打撃を免れ得なくなるだろう。
少子化が深刻化してきたときにコロナ禍に襲われたことを「最悪の巡り合わせ」と先述したが、最悪である理由はもう1つある。私が『未来の年表』で予言した通り、2020年は実際に、女性人口の過半数が50歳以上となったのである。
総務省によれば、2020年10月1日現在の50歳以上の女性人口は概算で3249万人となり、49歳以下人口の3212万人と逆転した。これのどこが問題なのかと疑問に思われる人もいるだろうが、それは日本人がいよいよ本格的に”絶滅への道”を歩み始めたということに他ならない。多くの女性は40代で出産を終えるからだ。合計特殊出生率が、母親になり得る年齢を15~49歳として計算されているのもこのためだ。
日本の少子化は、「過去の少子化」の影響で女児の出生数が減り続けてきたという構造的問題として起こっている。女児は十数年後には出産可能な年齢となるが、女性人口の過半数が50歳以上となったのも、女性の超長寿化と同時に女児の数が極端に減ってきたことが要因だ。ニワトリと卵のような関係であり、50歳以上の割合はどんどん拡大していく。
多くの国民が新型コロナウイルスの感染拡大に目を奪われているうちに、日本は致命的な局面を迎えていたのである。
少子化はいったん加速しはじめると、そのスピードを緩めることは難しい。”ため込んでいた需要”が一気に放出されるようにはならないと先に述べたが、日本のような晩産・晩婚社会ではなおさらだ。年を重ねてからの1年や2年の違いは大きい。結婚や出産のタイミングが1年遅くなるだけで、「子供は1人でよい」とか「3人目は諦めよう」となる。
年間出生数が減れば、将来母親となり得る年齢の女性数も想定以上に減っていく。
2021年以降の年間出生数が大きく減り、そのまま社人研の悲観的シナリオの推計(低位推計)に沿った下落カーブを描いていったならば、2045年の年間出生数は約59万1000人、2065年には約41万6000人となる。2115年には全国でわずか約19万2000人にまで減ってしまう。
2065年の出生数で考えると、47都道府県で割れば1都道府県当たりの平均出生数は年間9000人弱となる。社人研の中位推計ではこの年の出生数を全国で55万7000人と予測していたから、25.3%も低い水準である。
人口動態統計によれば、2019年の出生数は東京都が10万1818人なのに対し、鳥取県は3988人に過ぎない。今後、大都市部を抱える都道府県の出生数が相対的に多くなることを考えれば、出生数が3000人に満たないような県がいくつも登場するだろう。各県内での偏在を考えれば、出生数ゼロの自治体が激増し、とても「地方創生」などとは言っていられなくなる。
出生数減少スピードの加速は、さらに日本社会を蝕んでいく。概ね20年後には勤労世代(20~64歳)の不足となって表れ始めるからだ。2019年の実績値は6925万2000人だったが、死亡数が想定通りに推移したとすると、2040年には2019年比で1414万人減る。これは社人研の中位推計よりも31万人ほど少ない。
こうした中位推計との開きは年々大きくなり、2050年には158万人、2060年には268万人ほど少ない水準となる。2050年は当初から見込まれていた人口減少分を含めると、2019年比で2210万人も減ることになり、各産業の人手不足も想定以上に深刻化するだろう。
少子化の加速で想定していたよりも早く勤労世代が縮小することの影響は、これにとどまらない。勤労世代は働き手であるのと同時に「旺盛な消費者」でもあるからだ。中位推計との開きは、その分だけ国内マーケットが早く縮小することを意味する。
しかも年を経るごとに若い世代が少なくなっていくのだから、ベビー服や学用品といった子供向けビジネスは20年も待たずして影響を受ける。少し遅れて洋服などのファッションや住宅など、若い消費者を主要ターゲットとしてきた業種に次々と波及していく。
このように少子化が加速することの影響は将来に向けて果てしなく広がっていく。私が先に、現時点での傷はまだ浅いが、何年か後に「国家の致命傷」として多くの人が気づき、そうなってからでは手遅れだ、と述べたことの意味をご理解いただけただろうか。
さらにもう1つ、気がかりな点がある。婚姻件数の減少という”現時点での浅き傷”は、「社会の老化」に密接につながっていることだ。
出生数が減るスピードが速いほど高齢化率の上昇ペースも速くなり、社会としての若さを急速に失う。われわれは「社会の老化」の真の怖さをもっと知っておく必要がある。
得体の知れぬ感染症に身構えるのは自然のことだが、その正体が徐々に明らかになってもなお、必要以上に警戒したために、日本は活力を一気に失った。それは、結果的に将来に対して大きな禍根を残す。
個々人と同じで、「若さ」を失った社会は新たなストレスや変化に弱いものだが、コロナ禍における日本社会の姿は”社会パニック”に近く、国家が年老いたことを感じるに十分であった。欧米各国に比べて圧倒的に感染者数が少ないのに、上を下への大騒ぎとなり、政府の対策は後手に回った。
もとより政府は少子高齢化と真剣に向き合おうとしてこなかった。人口減少が始まってもなお、拡大路線の政策を取り続けてきた。コロナ禍で出生数の減少スピードが加速し始めても危機感は乏しく、菅義偉政権が打ち出した政策といえば、不妊治療への健康保険適用範囲の拡大や育休取得の充実といった程度だ。これらが重要でないとは言わないが、日本が置かれている状況を考えるとあまりにもスケールが小さい。
しかも、その政策効果は限定的である。不妊治療費の自己負担が減れば、経済的理由から断念する人が減って出生数増につながるとの思惑が政府内にはあるようだが、治療を受ける人の数や1人当たりの治療機会が多くなったからといって、妊娠に結びつく確率が比例して大きくなるわけではない。
不妊の要因は1つではないが、一般的に年齢が上がるにつれて妊娠しづらくなる。不妊に悩む人が増加した背景の1つに「晩婚・晩産」が進んだことがある。この点に手を付けず、自己負担だけ軽減してみたところでどれだけの効果があるか分からない。
先述した通り、日本の少子化は「出産可能な女性」が激減してしまう構造的要因にあり、これについてはもはや手の打ちようがない。だが、コロナ禍に伴って出生数の減少が加速した状況を食い止め、そのスピードを遅くすることはまだやり得る。これをやり過ごしたならば、日本の滅亡はわれわれが考えるよりもはるかに早く訪れる。
つづく「日本人はこのまま絶滅するのか…2030年に地方から百貨店や銀行が消える「衝撃の未来」」では、「ポツンと5軒家はやめるべき」「ショッピングモールの閉店ラッシュ」などこれから日本を襲う大変化を掘り下げて解説する。
河合 雅司(作家・ジャーナリスト)
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