( 263321 )  2025/02/10 18:00:17  
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最後まで“闘う経済アナリスト”だった森永卓郎さん 

 

 1月28日、経済アナリストの森永卓郎さん(享年67)が逝去した。2023年11月にすい臓がんのステージIVと診断(その後、原発不明がんと診断)された後も、精力的に活動し続けた森永さんが遺した“最強の生き方”とは。亡くなる直前に本誌・週刊ポストに寄せられた森永さんの言葉から振り返ってみよう。 

 

 最後まで経済アナリストの立場から経済政策にもの申し、日経平均が4万円を超えるなかでも、新NISAによる投資ブームにただ一人警鐘を鳴らし続けた森永さん。週刊ポスト2024年10月4日号では、その理由をこう語っていた。 

 

「バブルが弾けると大衆は軒並み破産状態になり、得するのはバブルの期間に手数料をとり続けた運用会社などの“胴元”だけ。(中略)近い将来、財産の大部分を失い、暗い老後を過ごさざるをえなくなる人を一人でも救うこと。それが私に残された短い人生の役割だと強く思っている」 

 

 お金は使い切ってから死ぬべきだというのが森永さんの持論だった。 

 

「私はがんと診断されるずっと前から、生きているうちに使い切ることを意識してきました。ひとつは相続面での煩わしさから子供たちを解放してあげたかったから。(中略)そもそも子供の扶養義務は成人するまでと考えているので、子供が成人したら投資も保険も必要ありません。そういったことに使うお金があるのなら、自分や配偶者のためだけに使うほうがいい」(2024年9月13日号) 

 

 日本人の年金受給額(夫婦総額)は平均月22万円。世の中には「年金だけでは足りない」とする言説があふれ、お金を使い切ることに不安を抱く人がほとんどだろう。そんななか森永さんが「物価高でも月15万円で豊かな暮らしはできる」(本誌2025年1月3・10日号)と提唱し、自ら実践したのが「トカイナカ生活」だった。 

 

「埼玉県所沢市の最寄り駅から徒歩15分以上かかるところに住んでいますが、戸建てやマンションの価格、賃貸の家賃は都心の10分の1程度。物価も都心より3割くらい安い。近隣の農家が作った農作物を直接安価に買うこともできます」(同号) 

 

 自宅近くに畑を借りて20種類もの野菜を栽培。家族が食べる分は自給自足で、食費は半分以下になったという。 

 

「その結果、生活費は月10万円程度に収まっています。トカイナカ生活なら月22万円どころか、月15万円程度の年金収入でも問題なく生きていけるはずです」(同号) 

 

 

 森永さんは自身の経済事情についても包み隠さず告白した。 

 

「がん発覚と同時に株や投資信託、外国債券などの整理も始めた。金融資産は買うより売るほうが100倍難しく、特に昨年は上げ相場が続いたので決断が鈍った。(中略)それでも売却したタイミングは僥倖で、手元には3千数百万円の売却益が転がり込んだ」(2025年2月7日号) 

 

 人生はお金ではない、としつつ、現実的な視点も忘れなかった。森永さんは自らの闘病模様を克明に明かし、免疫チェックポイント阻害薬「オプジーボ」や自由診療の免疫療法をはじめ、諸費用を合わせて毎月の医療費が150万円を超えていることを告白。資産整理で得たお金で闘病が続けられている事実を受けて、生前から預金・証券口座をリスト化しておくことや、通帳の保管場所の確認、銀行口座の一本化など実用的なアドバイスを発信した。 

 

 こうして死に向き合い続けた森永さんにも、ただひとつだけ心配事があったという。それは42年間連れ添った愛妻のこと。 

 

「私の死後、妻が1日も早く1人で生きられる状況を作るため、心を鬼にして彼女と距離を置き、事務作業を丸投げするよう心がけた。私が妻に嫌われれば、私がいなくなっても妻はすぐに立ち直れると思ったのだ。だが正直、これまで私に尽くしてくれた妻を冷淡に扱うことは難しく、この身辺整理だけは上手くいっていない」 

 

 本質を見抜く知性と教養、そして溢れる人間味を併せ持つ、2人といない経済学者だった。森永さんの遺した言葉から学ぶべきことは山ほどある。 

 

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 現在、マネーポストWEBでは、関連記事《【【独占手記・全文公開】森永卓郎氏、がんステージIV「余命4か月」宣告でも精力的に生きられる秘訣 お金、健康、人間関係の整理…常識に囚われない心得を明かす》にて、森永さんの手記を全文公開している。資産整理、治療の様子、気の持ちよう、そして最愛の家族も含めた人間関係についてまで、がん宣告されてから亡くなる直前まで、森永さんがたどりついた考え方を詳細にレポートしている。 

 

※週刊ポスト2025年2月14・21日号 

 

 

 
 

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