( 263331 )  2025/02/10 18:09:58  
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パナソニックにとってテレビ事業は祖業にも等しい重みがある。写真は2007年4月の「ビエラ」製品発表会(撮影:尾形文繁) 

 

 「私自身がテレビ事業を実際にやってきたことからすると、センチメンタルな部分はなきにしもあらずだ」 

 

 2月4日、急きょ発表されたグループ経営改革説明会に登壇したパナソニック ホールディングスの楠見雄規社長は、テレビ事業を2025年度末までに撤退か事業売却を検討する「課題事業」の1つに指定したことについて問われ、こう答えた。 

 

■「聖域」テレビ事業から撤退か 

 

 これまで楠見社長は「テレビ事業は白字を目指す」と説明してきた。白字とは、黒字でも赤字でもないという意味。今後、成長する可能性が乏しいにもかかわらず、事業からの撤退や売却を検討してこなかったのは、全国各地に点在するパナソニックの専門店(パナソニックショップ)の存在が大きい。 

 

 家電量販店とは異なり、専門店では一部の例外を除いてパナソニックの製品だけを扱っている。 

 

 その中でもテレビは主力の商品で「テレビの買い替えを機に顧客の家に行き、それ以外の家電の買い替えにつながるケースが多い」(関係者)。 

 

 専門店にとって「ビエラ」がなくなることの意味は計り知れない。それだけに、テレビ事業はこれまで業績不振に陥るたびに経営改革を行ってきたパナソニックにとっては手が出せない”聖域”だった。 

 

 パナソニックは巨額の投資と失敗を経て、2014年にプラズマテレビの生産を終了。2016年にはテレビ向け液晶パネルの生産も終了した。現在は一部の上位モデルを除いて生産を中国のテレビ大手TCLなどに委託しているが、「ビエラ」の看板は下ろしていない。 

 

 楠見社長はテレビを中心としたAV機器事業の出身。デジタル放送の開始に合わせて、リモコンの「dボタン」で利用できるデータ放送の開発に奔走した経験もある。プラズマからの撤退を現場で指揮したのも楠見社長だ。 

 

 パナソニックが1952年の白黒テレビ発売から手がけてきたテレビは、多くの経営幹部やパナソニックOBにとって思い入れのある事業。それでも大ナタを振るうことを決意した。 

 

■「パナソニック株式会社」を解散へ 

 

 経営改革の中身は、大きくわけて3つある。1つ目は、低収益事業は撤退か売却を主眼として検討すること。2つ目が、家電などを手がける「パナソニック株式会社」を解散し事業再建を進めること。そして3つ目は、エネルギーや供給網管理などのソリューション事業に注力することだ。 

 

 

 「パナソニックは過去30年間成長していない」(楠見社長)。これら3つの改革で、2024年度との比較で2026年度までに約1500億円の収益改善を見込む。 

 

 テレビ以外にも、工場向けの製品が主体の産業デバイス事業、電子部品を生産するメカトロニクス事業、炊飯ジャーや食洗機を手がけるキッチンアプライアンス事業が「課題事業」だと名指しされた。これから撤退か売却かを検討していく、これら4事業の合計売上高は9000億円に上る。 

 

 そしてエアコンやヒートポンプ暖房などの空質空調事業、家電事業とハウジングソリューションズ事業を「再建事業」に指定した。これは今回新たに発表されたカテゴリーで「事業立地を見極める」とパナソニックは説明している。 

 

 立地の見極めとは具体的にどういうことか。最もわかりやすいのが家電の例だ。今回の発表内容では「事業会社のパナソニックを解体する」という側面がクローズアップされた。 

 

 これは白物家電中心のくらしアプライアンス、空質空調、電設資材のエレクトリックワークスなど5つある分社を再編し、HD直下の事業会社を3社新設するというもの。 

 

 ただ、こうした組織の見直し以上に波紋を呼びそうなのが、家電事業の営業と開発体制の見直しだ。 

 

 説明会で楠見社長は「日中連携によって(家電の)量産開発を中国にシフトして、それに伴う日本の量産開発リソースの適正化を進める」と発言。家電部門では、これまでも生産拠点の海外移転や、部品コストの引き下げを進めてきている。すでに電子レンジや冷蔵庫の一部のモデルで大幅なコスト削減に成功しており、開発体制の変更でさらにコスト構造を見直す考えだ。 

 

■指定価格制度に続き直販を拡大 

 

 販売面での影響も広がりそうだ。今後の国内のマーケティングについては「DTC(直販)の拡大に合わせた体制に変革を進める」(楠見社長)と説明したからだ。 

 

 パナソニックは2020年から在庫リスクを負う代わりに量販店側で値引きができなくなる指定価格制度を導入。大物家電を中心に過度な値下げを防ごうという取り組みを続けてきた。 

 

 足元ではインフレなどの影響もあって、白物家電の需要そのものが落ち込んでいる。家電量販店に対してメーカーが支払う販売促進費について「以前よりも負担が増している」(中堅家電メーカー)との声も漏れる。 

 

 

 そんな中で存在感を増しているのが直販ルートだ。アマゾンや楽天市場などのプラットフォームを活用し、メーカーは直接販売を積極化している。ある関西の中堅家電メーカー幹部は「ブラックフライデーなど大型セールがメーカーにとって新たなチャンスとなっている」と話す。 

 

 家電最大手のパナソニックが直販を増やして量販店との関わり方を変えれば、同業他社が追随する可能性もある。業界全体への影響は大きい。 

 

■成長しないパナの「本質的課題」 

 

 説明会で楠見社長は、自ら「本質的課題」とするガバナンスの不備についても言及した。現在は各事業会社の取締役に楠見社長と梅田博和CFO(最高財務責任者)が名を連ねており、これが目詰まりを起こしていた。 

 

 社外取締役から「私と梅田がその場(事業会社の取締役会)にいると、HDに案件が上がってきたときにやっぱりひっくり返しにくいという意味でガバナンス不備に繋がるというご指摘もあった」(楠見社長)という。 

 

 そうしたガバナンスの不備が顕著に表れているのが「ヘッドカウントコントロールができていない」ことだ。人員が増えすぎている事業部や本社などの間接部門を中心に早期退職を募集、2025年度中に適正化する。 

 

 その先にあるのがソリューション事業の強化だ。ブルーヨンダーを中心とするサプライチェーンマネジメントと、電力や水素を活用したエネルギー関連の仕組みを新たな収益の柱にするという。 

 

 今2024年度は調整後の営業利益で4500億円を見込むが、ここから約1500億円の収益改善ができれば、1984年11月期の営業利益5757億円を上回り、最高益更新が視野に入る。これまでも経営危機に陥るたびにリストラを実施し、多くの血を流してきたパナソニック。今度こそ生まれ変われるのだろうか。 

 

梅垣 勇人 :東洋経済 記者 

 

 

 
 

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