( 263346 )  2025/02/10 18:23:42  
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(c) Adobe Stock 

 

 誹謗中傷が止まらない。2020年にプロレスラーの木村花さんが、出演していたリアリティ番組「テラスハウス」での炎上をきっかけに亡くなった。当時、彼女のもとには中傷コメントが多く届いていた。そんな中、ネットフリックスが配信しているリアリティオーディション番組「タイムレスプロジェクト」でも候補生の一部に誹謗中傷が浴びせられ、運営は「法的措置を含めて対処する」むねを発表した。なぜ誹謗中傷は続くのか。ルポ作家の日野百草氏が解説するーー。 

 

 2025年に入っても誹謗中傷と、それに抗う著名人らの嵐は吹き荒れている。悲しいかな、とどまるところを知らない。 

 

 日本の2024年のインターネットを利用した侮辱罪の認知件数は225件、検挙件数100件で過去最多となった(警視庁・2025年2月発表)。 

 

 法改正(後述)によって顕在化した影響もあるが、それだけの誹謗中傷とそれに対する法的意識の高まりもまた背景にある。 

 

 スポーツ選手、芸能人といった有名人に対する誹謗中傷も問題視されている。堀ちえみさんの公式ブログに1万6000回も誹謗中傷のメッセージを送った女が逮捕され、「Sexy Zone」から改名した「timelesz」(「timelesz project」、以下・タイプロ)のオーディション番組は、候補生に対する誹謗中傷に法的措置を講じるとした。とくに後者はX(旧Twitter)を中心に荒れに荒れている。 

 

 SNSの中でもとりわけXは筆者周辺でも年齢問わず「誹謗中傷だらけで嫌になった」とアカウントは残すものの積極的に関わらない人が昨年あたりから顕著になったように思う。イーロン・マスク氏のインプレッションによる収益化とそれによる粗悪なポストの蔓延、杜撰な管理が拍車をかけている格好だ。 

 

 もちろんそれがすべてではない。また誹謗中傷に関してもいまに始まったことではない。コロナ禍以前からそうだった。かつて筆者はそうした事案に当事者に取材した。彼らの言い分はこうだ。 

 

「私だって本当は嫌なんです。でもやめられないんです。あの人のことを考えるだけでもうスマホとにらめっこ、本当につらい。朝起きたらすぐスマホ。気がついたときにはスマホを覗いてる。目的はすべて、フォローしてる女をチェックするためです。書くこと話すこと全部許せない。写真のドヤ顔とか見ると吐き気がします。ブスのくせに」(2020年・40代女性・有名ブロガーの女性を誹謗中傷) 

 

 

「あの女がいる限りやめられないのがつらいです。あの女が先に消えればいいのに。ほんと図太いブスですよ。私はあの女ほど失う立場なんか無いですもん。カネ目当てにステマや炎上で目立つほうが悪いし、そもそも有名人はやらなきゃいいんじゃない?」(2020年・同) 

 

「彼女のこと、あることないこと書いたのがまずかった。最初はファンだった。イベントや撮影会に何度か行ったんですが、彼女の対応が気に入らなかったんでネットに書き込んだのが最初。自分としてはネタ。自分だけじゃなく、他にもアンチはいた」(2021年・40代男性・10代のアイドルを誹謗中傷) 

 

 この人たちは誹謗中傷を繰り返して訴えられた、もしくはやめられないとする人たち(いずれも当時)だ。コロナ禍の2020年、女子プロレスラー木村花さんのいわゆる「テラスハウス事件」(Netflix・フジテレビ系)を契機に社会問題となり、筆者が取材したものだ。 

 

 彼ら以外にも取材対象はいたがおおよその内容に違いはない。「あっちが悪い」「みんなやってる」「私の気持ちを考えろ」である。これは誹謗中傷を受けて訴えた著名人の「報告」でもだいたいそんなものだ。極めて類型的である。 

 

 ある議員が『誹謗中傷大国ニッポン ~そろそろいい加減にしよう~』と題したブログを書いたがあまりに主語がでかすぎた。『誹謗中傷 ~そろそろいい加減にしよう~』ならよかったのに。 

 

 内心は自由、思想は自由、発言も自由、批判や指摘もいいだろう。しかし死に直結するような、それを願うような言葉をストレートに書き込むのはどうかと思う。 

 

 別の誹謗中傷「依存」(当時・本人談)の方曰く「有名人のほうがむしろ訴えて来ない」とのことで、人気商売であること、誹謗中傷を受ける相手が多すぎることなどが逆に「いいたい放題しやすい」と一部のそうした人から思われていたようだ。 

 

 しかし著名人も言われたい放題のままではない。2024年5月に公布された改正プロバイダ責任制限法以降、毅然と対応するケースが増えた。 

 

 

 2024年12月、日本プロ野球選手会は「誹謗中傷行為などへの対応報告」としてこう報告した。 

 

〈様々な誹謗中傷投稿(具体的には、「消えろ」、「ゴミ」、「カス」等の様々な表現を含みますが、これに限られません。)について、選手に対する権利侵害性が認められ、複数のアカウントに関する情報の開示を命じる旨の決定がなされました。かかる決定を受けまして、当会は、更に責任を追及すべく、手続きを進めてまいります〉 

 

 サッカーのJリーグもまた2025年に入り「Jリーグにおける誹謗中傷・カスタマーハラスメント等への対応について」として声明を出した。 

 

〈スタジアムの内外問わず、選手・審判やスタッフなどの関係者に対する誹謗中傷やリスペクトに欠ける悪意のある言動等が多く確認されています。(中略)SNS 等における誹謗中傷等に関する違法・不当な行為については、警察や弁護士等の外部専門家と連携し法的措置(発信者情報開示請求等の発信者の特定・損害賠償請求・刑事告訴等) も含め厳正に対応するなど、より具体的な対応を講じてまいります〉 

 

 スポーツ関係者に対するネット上の誹謗中傷は2024年のパリオリンピックでも問題となった。柔道の阿部詩選手は試合内容と関係ない誹謗中傷にあふれ、同じく攻撃された柔道の出口クリスタ選手はX上で「得する人は誰一人いない」と訴えた。 

 

 スポーツ選手も言われっぱなしでなくなった。組織団体として一般人(あくまで選手および関係者から見て外部という意味、本稿では便宜上使う)の誹謗中傷に対応せざるをえない状況、Jリーグは一部サポーターの行為を「カスハラ」と言い切っている。 

 

 2025年4月1日から東京都は「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」を定めたが、これは「ファンという名の消費者」もまた誹謗中傷をするなら、 

 

〈著しい迷惑行為 暴行、脅迫その他の違法な行為又は正当な理由がない過度な要求、暴言その他の不当な行為」(第二条の四) 

 

〈顧客等から就業者に対し、その業務に関して行われる著しい迷惑行為であって、就業環境を害するもの」(第二条の五) 

 

 の対象になりうるということだ。 

 

 スポーツ組織の本格的な誹謗中傷に対する対応は最近の話だが、芸能に関してはそのエンタメとしての性質上、大手匿名掲示板やブログなどにおける誹謗中傷に対して2000年代から対応してきた。しかしインターネットを念頭においた法律そのものが2002年のプロバイダ責任制限法からで「人気商売なのでネットでなにかされても泣き寝入り」しかなかった。 

 

 

 逆に当時を知るネット民からすると1999年から2001年くらいまでの「なんでもあり」(本当になんでもありで四半世紀を経た現在から見てもありえない代物だった)だった時代を懐かしむ者もある。一方で、この当時を知る一部のネットリテラシーがブラッシュアップされないまま(それこそフジテレビを始めとする1980年代の文化も下地にあるが)来てしまったことの不幸もある。ネットの「名無し」は本当に名無しの時代は確かにあった。 

 

 芸人のスマイリーキクチ氏に対し、当時の一部ネット民が1999年ごろから過去の重大犯罪に加担したような嘘八百の内容を書き込みを続け、芋づる式に逮捕された事件があった。これはこの国の一部一般人がインターネットで誹謗中傷したことによって一斉摘発された初の事件とされるが、摘発された人の言い分は「みんながやってるから」「ネットに書いてあったから」「ネットに騙された」「仕事のストレス」「人間関係の悩み」「離婚をして辛かった」「妊娠中の不安からやった」「私生活がうまくいかず、ムシャクシャしてやった」……まあ、どうしてここまで類型的かというくらいお決まりである。警察が身元を把握した誹謗中傷者は1000人以上、これも現実であった。ただしスマイリーキクチ氏の執念による賜物であり、とくに司法は頼りないものだった。 

 

「ブログというものをやめれば、こういう中傷はなくなると思います」 

 

「インターネットをやらなければ、よろしいかと」 

 

「ブログというものをやった側にも問題があるかと」 

 

※スマイリーキクチ著『突然、僕は殺人犯にされた』竹書房,2011年初版. 

 

 これは当時の担当検事の言葉だが若い方はびっくりされると思う。筆者も著作権侵害を受けた際など別件で経験あるが本当にこんなものだった。 

 

 この事件を含め、かつてのネットの好き放題時代に味をしめた(どうせ捕まらない、捕まってもたいしたことないという意味も含め)人たちの一部もまたアップデートなきまま、いまに至っている現実がある。 

 

 また誹謗中傷が極めて依存性の高いことも理由だろう。自分でも気づかない内に罹患する。 

 

 

 
 

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