( 263776 )  2025/02/11 17:24:23  
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60歳を超えてモチベーションが下がるのは会社のせい?(写真:maroke/Shutterstock.com) 

 

 前稿(第1回)は、最新の調査結果*1 

から、「職業キャリアの大半を正社員として勤務していた60代」のほとんどが、正社員や契約・嘱託社員としてフルタイムで勤務していること、また、その収入や純金融資産保有額などを見てきた。 第2回は、給与ダウンの有無や仕事の満足度、職場における立ち位置、企業が取るべき施策を掘り下げていく。 

 

 *1:パーソル総合研究所 「『正社員として20年以上勤務した60代』の就労実態調査」(2025年2月6日公開) 

 

 (藤井 薫:パーソル総合研究所 上席主任研究員) 

 

■ (1)給与が下がった人は「モチベーションが下がった」「キャリアが終わった」 

 

 定年後再雇用者は、定年を迎えて再雇用される際に、いわゆる正社員から契約社員や嘱託社員に雇用区分が変わり、その時点で、給与も再設定される。また、定年が65歳であっても、60歳を境に処遇が変わることは珍しくない。 

 

 それらのことから、50代から引き続いて同じ会社やそのグループ会社で働く継続勤務者であっても、60代になると給与が下がるというイメージが一般化しているのではないだろうか。 

 

 継続勤務者の処遇の見直し状況を見ると、「給与・賞与が下がった」人は60代前半で6割と多数を占めるものの、裏を返すと、残りの4割の人は下がっていない(図表1)。60代後半においてもほぼ同様で、給与・賞与が下がった人は65.1%である。 

  

■(図表1)継続勤務者の処遇変化 

 

 一時期、メディアやSNSにおいて、60代に限らず主に中高年の男性社員を「働かないおじさん」や「妖精さん」などと揶揄(やゆ)して、中高年社員のモチベーションの低さを問題視する風潮があった。上記の通り、継続勤務者は給与・賞与が下がった人と下がらなかった人とに分かれており、それに応じて、モチベーションなどの状況も大きく異なっている。 

 

■ 「給与ダウン」で6割が「モチベーション低下」 

 

 「給与ダウンあり」の人のうち、60代前半では56.7%が「仕事のモチベーションが下がった」、46.2%が「会社に対する忠誠心が下がった」と回答している(図表2)。これらの回答は、「給与ダウンなし」の人よりも2〜3倍多い。60代後半では、その差はさらに4〜5倍に拡大する。 

 

 また、「給与ダウンあり」の60代前半の49.0%が「自分の価値が低下したように感じた」、43.4%が「会社員としてのキャリアが終わったように感じた」と回答。いずれも「給与ダウンなし」の人の2〜3倍であり、60代後半では、その差が4〜5倍近くになる。 

 

 やはり、60代の継続勤務者の中にはモチベーションの低い人などが、それなりの割合で存在することは否めないが、「給与ダウン」の影響も大きいと言えそうだ。 

 

 ■(図表2)処遇の変化による「モチベーション」の変化(継続勤務者) 

 

 

■ (2)職場での自分の役割は重要ではない 

 

 モチベーションの問題もさることながら、職場における役割認識の低さは、さらに深刻な問題かもしれない。 

 

 正社員等(継続勤務者・転職者)であっても、自分の役割を重要だと感じている人は60代前半では5割未満、60代後半は5割前後に過ぎない。パート・アルバイトでは4割未満だ(図表3)。対象を「専門性やスキルがある」と回答した正社員等に限ると、自分の役割を重要だと感じる人の割合が増えるが、それでも6割弱にとどまっている。 

 

 60代の大半の人は管理職ではなくプレーヤー、すなわち、担当者として勤務している。給与所得者である以上、「担当者としてのパフォーマンスの発揮」は、最低限の役割認識だと言ってよい。しかし、それを職場から期待されていると考えている人は、60代前半・後半ともに、正社員等でも5割前後に過ぎない。 

 

 ■(図表3)職場における自分の役割は重要だと感じている 

 

 正社員として勤務してきた60代は、企業に雇用義務がある65歳までの人だけでなく、60代後半であっても約9割が就業している。その大半は正社員や契約・嘱託社員としてフルタイムで勤務しており、すでに60代の就業環境はそこそこ整っているように見える。 

 

 しかし、60代の労働参加は進んでいるものの、企業の基幹戦力として力を発揮しているのかという点では、疑問が残る。 

 

 典型例として、60代前半の継続勤務者に焦点を当ててみよう。 

 

■ (3)なぜ60代は基幹戦力として機能していないのか 

 

 まず、勤務者本人の役割認識に問題があることは確かだが、企業がその状況を作り出している面も大きい。企業に雇用義務がある60代前半の継続勤務者に対して、人事評価の適用率が約6割、昇給・昇格、賞与査定の適用率が約5割、役職登用機会の適用率が2割強と、そもそも企業側が継続勤務者を基幹戦力人材扱いしていない様子が見てとれる。 

 

 従業員側に自覚を促す以前に、少なくとも、企業側が60代の継続勤務者の位置づけを基幹戦力人材として見直すこと、個人に対する役割期待を明確に定め、本人とすり合わせる枠組みが必要だ。 

 

 役割認識の次は、モチベーションだ。給与ダウンがモチベーション等に悪影響を与えている。前述の通り、「給与ダウンあり」の人では、「モチベーションが下がった」が5割超、「自分の価値が低下したと感じた」「会社員としてのキャリアが終わった」「忠誠心が下がった」も4割超に及ぶ。「給与ダウンなし」の人については、いずれの回答も2割未満である。 

 

 正社員から契約・嘱託社員等への雇用区分の切り替え時に、給与ダウンを含む処遇の見直しを行うことは企業にとって当然の施策であり、それ自体に問題があるわけではない。問題は、それを年齢基準によって一律に処理することにある。 

 

 

■ 安易な年齢基準は人材マネジメントの欠如 

 

 働く必要性や意思、健康状態、知力等々、仕事に関わる諸状況は、年を取るにつれて個人差が大きくなる。例えば、同じ60歳の人であっても、体力的には40歳レベルの人から80歳レベルの人までいるのではないだろうか。仕事の能力についても個人によって雲泥の差があるはずだ。 

 

 また、継続勤務者であれば、既にかなりの長期間、自社に在籍しており、実績や仕事の能力、人物も十分観察してきているはずだ。中途採用の場合ですら、何度かの面接で適性や能力を見極めて、それぞれの候補者にふさわしい給与を決めようとする。それよりもはるかに情報量が多い継続勤務者の場合において、個人別の処遇決定ができないわけがない。 

 

 それにもかかわらず、安易な年齢基準に頼って一律に給与ダウンを行うなどは、人材マネジメントの欠如と言わざるを得ない。決して給与ダウンを否定しているわけではなく、役割に応じて個人別に是々非々の処遇決定を行う必要があるということだ。 

 

 働く意思と能力がある人材のモチベーションを削ぐことは、自社の人的資源の価値を企業自らが損なっているに等しい。それは、対象となる人材の年齢とは何ら関係がない。 

 

 また、企業側が働いてほしい人材に役割に応じた処遇を提示できたとしても、必ずしも働く側がそのオファーに応えてくれるとは限らない。たとえば、前稿で見た通り、継続勤務者の大半は、フルタイムで勤務している。 

 

 誰しも年を取るにつれ、時間の貴重性が増していく。人生の残り時間は少なくなっていく。もうすでに何十年も働き続けてきた人たちだ。働く意思、体力、能力がある人でも週5日働きたいとは思わないかもしれない。さまざまなニーズに応える働き方の提示も必要だ。 

 

 >>(前編)ふつうの会社員、60歳超えると年収はいくら? 就労率9割でほぼフルタイム勤務、金融資産5000万円でもお金に不安 

 

藤井 薫 

 

 

 
 

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