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フジテレビ 

 

 フジテレビが未曾有の危機に陥っている。タレントの中居正広氏が引き起こした女性とのトラブルをめぐって、会社として適切な対応をしなかった疑いが持たれているからだ。1月27日に行われた10時間超の記者会見でも疑惑を払拭することはできず、数多くのスポンサー企業が同局でのCM放映を差し止めることになった。 

 

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 テレビ局のビジネスはスポンサーの払う広告料で成り立っている。その大半が失われているというのは異例のことであり、開局以来最大のピンチを迎えていると言っても過言ではない。 

 

 今回の騒動に関して、そもそもフジテレビの企業体質に問題があったのではないか、といった話も出ている。振り返ってみると、フジテレビは2010年代に入った頃から坂を転げ落ちるように視聴者からの支持を失っていき、ほかの民放テレビ局に年間視聴率で後れをとるようになった。ここ10年ほどは日本テレビ、テレビ朝日、TBSに続く4位が定位置となっている。 

 

 フジテレビでは女性社員を「接待要員」にするような時代錯誤の慣習が残っていた疑いが持たれている。視聴率でも低迷を続け、時代の空気を読めなくなったことが、今回の騒動の遠因となっているのかもしれない。 

 

 フジテレビの長期低迷を考えるにあたって、貴重な資料がある。元フジテレビ社員の吉野嘉高氏が書いた『フジテレビはなぜ凋落したのか』(新潮新書)である。この本では、豊富な資料と実体験に基づいて、フジテレビの歴史を振り返りつつ、凋落の背景にあるものを読み解こうとしている。 

 

 80年代から90年代半ばにかけて、フジテレビは視聴率でも民放トップを独走しており、時代を牽引する存在だった。この本によると、そんなフジテレビが凋落する大きなきっかけの1つとなったのが、1997年の社屋移転である。本社が河田町から台場に移転したことで、社内の雰囲気ががらりと変わったというのだ。 

 

 実際、このときにフジテレビは東証1部に上場していて、会社としても外部から注目される存在になっていた。旧社屋では大部屋の中にさまざまな部署が寄せ集まっていたのだが、新社屋ではそれが完全に分離された。オフィスは「オフィスタワー」と「メディアタワー」という2つの建物に分けられ、もともと同じフロアにあった編成と制作も別々のフロアになった。旧社屋時代にあった一体感や熱気のようなものが急速に失われていった。 

 

 

 また、観光地としてにぎわうお台場の街を見下ろしながら、広々とした開放感のあるオフィスで仕事をすることで、フジテレビ社員たちの心境にも変化があった。自分たちは一般人とは違う特別な存在である、という「特権意識」のようなものを持つ人が増えてきたというのだ。その間違ったエリート意識のようなものが、じわじわとこの局を蝕んでいった。 

 

 その後、2011年にはフジテレビにとって重要な2つの事件が起こった。東日本大震災とフジテレビデモである。東日本大震災は、津波や原発事故を伴う未曾有の大災害だった。安全性ばかりを強調する政府の公式発表を垂れ流すだけで、テレビなどの大手メディアはマスコミとしての使命を果たしていないのではないか、という声も強かった。インターネットの影響力が高まるにつれて、マスコミに対する不信感が強まっていった。この年の8月にフジテレビデモが起こったのもこのことが関係している、というのが吉野の仮説である。 

 

 2011年8月21日、フジテレビ前で約3500人の群衆がデモ行進を行った。彼らの主張は「フジテレビは韓流のゴリ押しをやめろ」というものだった。「フジテレビが韓流をひいきしすぎている」という当時の彼らの主張は全くの誤解である、と吉野は断言する。この時期にフジテレビで韓流ドラマが放送されていたのは、単にコンテンツが安く買えてそこそこの視聴率が取れるからにすぎない。純粋に経済原理に従って韓流ドラマを流していただけなのだ。 

 

 ただ、デモが起こったのはフジテレビへの人々の潜在的な不信感が原因である可能性が高い。景気が悪い上に未曾有の大災害で人々の不安が高まっているこの時代に、お台場のテレビ局では浮世離れした高給取りのエリートたちが、空気を読まずに馬鹿騒ぎを続けている。良くも悪くも大手メディアの中で最も目立っていたのがフジテレビだったからこそ、時代の空気が変わってからは最も叩かれやすい存在になってしまったのだ。 

 

 フジテレビ側はこういったデモの動きに対して完全な無視を決め込んだ。下手に反論して怒りを買っても仕方がないとばかりに、「上から目線」での対応に終始したのである。これがさらなる反発を招いてしまったのではないか、と吉野は言う。 

 

 時代の転換点となった2011年頃からフジテレビの視聴率は落ちていき、そこから一気に出口の見えない迷走期に突入した。今もその長期低迷から抜け出せていない。 

 

 前向きに考えるのなら、今回の騒動は、そんなフジテレビが低迷から抜け出す絶好のチャンスだと言えるかもしれない。フジテレビが抱えている構造的な問題はあぶり出され、改善すべき点は明確になっている。これをきっかけに上に立つ人材を総入れ替えして、抜本的な改革に乗り出せば、再び黄金時代が帰ってくる可能性はゼロではない。フジテレビが多くの視聴者を満足させる魅力的な放送局に生まれ変わることを祈っている。 

 

ラリー遠田 

1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)など著書多数。 

 

デイリー新潮編集部 

 

新潮社 

 

 

 
 

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