( 263966 ) 2025/02/12 04:08:39 0 00 鴻上尚史さん(撮影/写真映像部・小山幸佑)
国際スポーツ大会での異様な盛り上がり方が嫌いだという50歳女性。大会期間中の盛り上がり方もさることながら、期待通りの結果が出なかったときの急速にブームが去る感覚とかが苦手だという。そんな女性に鴻上尚史が「あなたの感覚はとてもまっとうなもの」と伝えた理由とは
【相談8】
自分が嫌いな国際スポーツ大会の期間を穏やかに過ごす方法を知りたいです(50歳 女性 筋肉大事)
国際的なスポーツ大会が苦手です。私は学生時代は文化部でしたが、40歳を越えて運動に目覚めました。暗闇系ジム(ボクシングや自転車) 、そしてランニング、宅トレ(コロナ禍)を経て、今はウェイトトレーニング(筋トレ)を週1、2 回行っています。
そんな私ですが、オリンピックや国際的なスポーツ大会期間中は、謎のお祭り感や、みんな日本を応援してるよね?という決めつけや、見てないと言うと非国民を見るような目や、にわかファンの心情が理解できないし、その事を言おうものなら「あー、この人、めんどくさい人なんだな」と思われそうな雰囲気で、げんなりします。特に、少しでも日本が良い成績が残せそうだと急に人気が出て、ダメだった時に急速にブームが去るとか、そんな歴史の繰り返しは心がゾワゾワします。
そして、私はスポーツの勝敗等にハラハラドキドキするのも苦手なのです。アイススケート等、頑張ってきた選手が失敗するところは心が痛くて見れないですし、野球などは負けてるチームを応援し、逆転すると逆転された側を応援したくなります。
というわけで、なるべくテレビを見ないようにしています。これはアンチテーゼというものだろうか、と思ってるのですが、これからの人生、心穏やかに国際的なスポーツ大会の時期を過ごす為の知恵がありましたらご教示頂けますでしょうか。 よろしくお願いします。
【鴻上さんの答え】
筋肉大事さん。
僕は、NHKBSで「cool japan」というテレビ番組の司会をもう19年ほどやっています。NHKのBSが二波から一波になったことで、今年度からレギュラー放送ではなく、不定期の放送になって年に数回になりましたが、なんとか細々と続いています。
番組は、毎回、8人の一般外国人をスタジオに呼んで、あれこれと日本について話します。
タイトルが「cool japan」なので、番組を見てない人は、「日本バンザイ番組」だと思って批判するのですが、番組の基本コンセプトは、「これはcoolなのか、coolではないのか?」を、8人の外国人と話し合うというものです。
その番組で、一度、オリッピックを取り上げたことがありました。たしか2012年のロンドンオリンピックの後だったと思うのですが、特集した動機が「日本人は、オリンピックに騒ぎすぎじゃない?」という外国人達の素朴な感想がきっかけでした。
イタリア人男性が「日本のテレビを見ていたら、オリンピックの期間中、テレビで毎日、『今日は金メダルを何個、日本人選手が取りました。これで通算、金メダル何個、銀メダル何個、銅メダル何個で、これは世界何位です』とニュースにしている。どうして?イタリアだと、国別に比較して、世界で金メダル何位、なんて報道しないよ」と本当に不思議そうに語りました。
司会の僕は、「えっ? じゃあ、陸上競技で、〇〇選手が金メダルを取りましたってニュースにならないの?」と聞くと、「ならないね。誰も見ないから」と当然のように答えました。
この発言にアメリカやヨーロッパの人達は、当然のようにうなずきました。
僕が「どうして!?」と返すと、ブラジル人男性が「だって、知らない人が高く跳んだとか、遠くに鉄の球を投げたとか、何が面白いの?」と、本当に信じられないという顔で言いました。
いろいろと話してみると、本当に欧米では、よっぽどのことがない限り(100メートル走で世界新が出たとか)、基本的には自国の選手が金メダルを取っても、それは、特別なニュースにならないという傾向を知りました。大事なニュースの後に、さらりと伝えるだけだと言うのです。
まして、金メダルの獲得数が世界で何位、なんていう打ち出し方はほとんど見たことないと、欧米の外国人は語りました。
「みんな、自分の国がどれぐらい金メダルを取ったのか、興味ないんだ」とおもわずつぶやくと、「私の国はとても気にする」と手が挙がりました。
中国人女性でした。韓国人男性とロシア人女性も手をあげました。
アジアの国々は、「我が国が何個の金メダルを取ったか」を気にするようでした。日本もその中のひとつですね。そして、ロシアと。
振り返れば、昔、日本はもっと「金メダルを取ること」に国家的威信をかけていたような気がします。出発前のインタビューで「楽しんできます」と答えた選手に対して、「ふざけている」「真剣さがたりない」「個人の楽しみで行くんじゃない。国家を背負っているんだ」と怒る人が、(今もいるでしょうが)昔は多数派でした。
国家と国民のプレッシャーにつぶされて自殺した選手もいたし、帰国して土下座した選手も多くいました。
ちなみに、番組では「じゃあ、国民が熱狂するスポーツ大会ってないの?」と聞くと、イタリア人男性もブラジル人男性も「ある。ワールドカップだ」と、にやりと笑いました。
「スポーツに熱くなるのは一緒じゃないか」と言えば、ブラジル人男性は「違う。サッカー選手のことはみんな知っている。オリンピック選手は知らない」と平然と答えました。
で、ブラジルが勝つことを重大な問題だと考えているというので、「結局、スポーツに国家を重ねてないか?」と聞くと、「ブラジル人にとってサッカーは命だ」と答えました。理論的には、質問の答えになってないですが、気持ちの問題なのでしょう。
一般的に、ヨーロッパや南米では、オリンピックよりワールドカップの方が人気ですが、誰でもというわけではないようです。
イギリスに1年間住んでいた時、アパートの一階で花屋をやっていたシャロンは、ワールドカップのシーズンの前に「また亭主が仕事をしない時期が来た。サッカーなんか大嫌い」と吐き捨てていました。
ちなみに、アメリカで圧倒的一番人気は「アメリカン・フットボール」で、野球は、いろんな統計では、アメフトの半分か半分以下のパーセンテージの人気です。もちろんサッカーに興味がある人はその10分の1ほどです。
というわけで、筋肉大事さん。
筋肉大事さんの相談を読んで、「はあ?この人、何言ってるの!?」と反応する人と「分かる!ものすごく分かる!」と反応する人に分かれるような気がします。
僕自身としては、マスコミの「お祭騒ぎ」が苦手です。
ワールドカップの時に、マスコミが「絶対に負けられない戦いがそこにはある」と言い出した時には、悲しい気持ちになりました。選手はこう言われて嬉しいか?余計燃えるか?この言い方は、選手に余計なプレッシャーを与えて、選手を苦しめるだけじゃないかと感じたのです。少なくとも、プレーする当事者からは出て来ない言葉だと感じました。当事者ではなく、観客、つまり傍観者の一方的視点だと思いました。
また、金メダルを国別に比較して、一喜一憂するのも、なんだかとても野暮に感じます。
選手ががんばって結果を出したら喜ぶ。結果が出なくても、その努力をねぎらう。それだけでいいと思います。金メダルの数に国の威信をかけ、それを自分個人の存在証明にするのは、あんまりかっこよくないと感じるのです。
筋肉大事さんの「スポーツの勝敗等にハラハラドキドキするのも苦手」というのも分かります。人生をかけた試合に負けた人を見るのはつらいですし、感情移入した人が哀しむ姿は見たくないですもんね。
「これからの人生、心穏やかに国際的なスポーツ大会の時期を過ごす為の知恵」ということですが、これはもう、「遠ざけること」しかないんじゃないですか。
欧米人のように「オリンピックに興味がなくても普通のこと」で、アメリカ人のように「ワールドカップに興味がなくても普通のこと」ですから、「このスポーツ大会に熱狂しないのはおかしい」と迫られても、「世界基準だと熱狂しない人も多いよ」なんてスルーしながら、なるべくテレビから離れ、熱く語る人から離れ、「そんなに熱くなることないのにね」と呆れている人を見つけ、その中で心穏やかに過ごすことをお勧めします。
大丈夫。きっと、仲間は見つかります。
筋肉大事さんの感覚は、とてもまっとうだと僕は思いますから。
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鴻上尚史
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