( 263981 )  2025/02/12 04:25:16  
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コメ価格は今後どうなる? 

 

 お米の価格の高騰が止まらず、ついに政府は備蓄米の放出に舵を切りました。なぜこんなに価格が上がり続けているのでしょうか。米の流通に詳しい宇都宮大学の小川真如さんに聞きました。 

 

お米農家と集荷業者の間に「新たな経路」が生まれている 

 

 背景には「行方不明米」の存在があるということです。実は去年の生産量は前の年と比べて約18万トン増えているにもかかわらず、2024年末の集荷量は前の年と比べて約21万トンも減ってしまっています。これを茶わんにすると約32億杯分です。これだけのお米がどこに行ってしまったのかということで米の流通経路を見ていくと、お米農家と集荷業者の間に「新たな経路」が生まれているということなんです。それは「新規の中小業者」や「個人」で、そういった人たちがお米農家から直接米を買うというケースが増えているようで、その分、集荷業者に集まるお米の量が減っているということです。 

 

 では、なぜ新規業者が参入するような事態になっているんでしょうか?これには今から2年前の2023年のお米の品質がかなり悪かったという点があります。気温が高かった影響で、お米の品質が悪かったんですけれども、そうした中でお米の関係者の中では「お米を何とか集めないといけない」という動きが2023年の秋からありました。実際にその影響が一般の消費者に届いたのが去年の夏だったということで、お米がないという状況になりました。そういった経験を去年夏にしたことで、お米を何とか早めに集めたいという人たちが増えたと見ています。中小の業者とか個人消費者が、農家にホームページやSNSを通じて「直接お米を売ってくれないか」ということを相談したという話も多く聞いています。 

 

 ただ、お米の生産量自体は前の年よりも増えているわけですから、そのお米が全て市場に出回れば、価格は上がらないはずです。お米を色々なところが持っているのに、なかなか市場に出回らないのは、一部でお米の価格の上昇を期待して売り渋ってるような業者などがいるのではないかと推察されてます。集荷量が減ってるという話がありましたが、その数字自体は農水省が調査して把握している範囲の話です。農水省は大規模な業者は把握しているんですが、中小までは把握できていません。その把握できていない範囲で、投機目的の人たちがお米をため込んでいるんではないかと言われてます。 

 

 

予想される3つのパターン 

 

 それでは、備蓄米が放出されて価格は落ち着くのかという点を、大きく3つのパターンで予想していきます。 

①国が備蓄米を「少量」放出→売り渋り業者が米を手放す→高騰が止まる→小売価格は「横ばい・若干下落」 

②国が備蓄米を「少量」放出→売り渋り業者が米を手放さない→高騰が続く→小売価格は「上昇」 

③国が備蓄米を「大量」放出→売り渋り業者が米を手放す→流通価格が下落→小売価格は「下落」 

 

 国の狙いは①だと思います。今は小売り価格も上がっていますが、それ以上に流通間の価格・卸業者同士の取引価格などが大きく上がってる状況ですので、まずはそこを避けたいと。なので、小売り価格から見ると「備蓄米が出たけど価格そんなに下がらないな」と、ちょっと不満に思われるかもしれませんが、それでも流通段階の価格上昇が小売りに伝わってくるのを何とか防いだという形です。これがおそらく国が狙っている「成功シナリオ」ではないかと思われます。ただ、現実は②になるのではと予想しています。 

 

「さらに値上がり」最悪のシナリオは 

 

 まず最初に、備蓄米の大量放出はちょっと考えにくいと思います。先月31日に江藤農水大臣が「米は十分に供給されているのに市場に出てこない。どこかでスタックしていると考えざるを得ない」と発言しています。つまり流通が滞っているということです。これが例えば「大不作でお米が本当に足りない」ということであれば、多く出すことはあると思いますが、今回、国は「米は足りている」というスタンスを貫いています。さらに、あまりに多く放出すると価格が暴落して、米の流通全体の不安定化に繋がりますので、そこまで大きな決断はできないんじゃないかと思います。 

 

 また「米の民間在庫量」というものがあって、去年6月末時点で200万トンを下回りました。この民間在庫量が1つの基準で、200万トンより少ないとお米の価格が上がる傾向にあります。今回、備蓄米を少量放出したとしても200万トンを下回るので、ちょっと品薄感があるということで、様子見する業者がいるんじゃないかと思います。 

 

 さらに放出の条件として「1年以内に買い戻す」という条件があることによって、集荷業者にとって「返せなくなるかもしれない」とプレッシャーになり、国に申し出をしない可能性があります。例えば「2年以内に買い戻す」という形にすれば、余裕を持って判断できたんですが、今回は1年以内としてしまったために、2025年産つまり今年のお米の田植えに間に合わないということが起きます。集荷業者がお米を返すときには、今年作られたお米で返す必要がありますので、生産量を増やすことが難しくなったり、売り渋り業者が「今年のお米もまた集荷競争になるぞ」とさらに売り渋ってしまうという、最悪のパターンも考えられるので、かなり確率の高いシナリオだと思っています。 

 

宇都宮大学農業経済学科・小川真如助教 

 

 最後に少し明るい話もすると、「今年は米の生産を増やそう」という産地が増えています。ですので今後、今年のお米が順調に作付けされ、順調に育っているということが徐々にわかって、供給量の見通しが立つ6、7月ごろ、早ければお田植えが始まる春ごろには価格が下がって、ちょっと落ち着くんではないかとも予想しています。 

 

小川真如さん 

宇都宮大学農業経済学科 助教 

国内の農業・農学を中心に幅広く研究 

 

 

 
 

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