( 264581 ) 2025/02/13 05:51:22 0 00 アメリカ中西部イリノイ州のシカゴ近郊にあるガソリンスタンド。左側・黄色地の「E85」は、バイオエタノールを85%混合させたガソリン。アメリカでは現在10%混合させた「E10」がスタンダードだ。日本でも普及なるか(写真・編集部)
2025年2月6〜8日に行われた日米首脳会談で、石破茂首相とアメリカのドナルド・トランプ大統領との間に良好な関係を築いた。会談後の記者会見でもなごやかな雰囲気で進められた。
会見での冒頭発言で石破首相は、とくにエネルギー分野で「LNG(液化天然ガス)輸出増加も含め、両国間でエネルギー安全保障の強化に向けて協力していくことも確認した」と述べた。
日米共同声明でも「アメリカの低廉で信頼できるエネルギー及び天然資源を解き放ち、双方に利のある形で、アメリカから日本への液化天然ガス輸出を増加することにより、エネルギー安全保障を強化する意図を発表した」とある。
実は今回の首脳会談で言及されたエネルギーはLNGだけではない。石破首相は「LNGのみならず、バイオエタノール、アンモニアといった資源を(アメリカから)安定的にリーズナブルな価格で提供されることは日本の利益だ」と記者からの質問に答えている。
■石破首相がバイオエタノールに言及
トランプ大統領も「エタノールに関しては(中西部の)アイオワ州がとても喜ぶと思う。(同)ネブラスカ州など、すべての農業州がエタノールの供給先を求めており、私が気に入っている農家たちは喜んでそれを提供できるだろう」と返している。エタノールの原料となるトウモコロシ生産農家やエタノール工場は、アメリカ中西部に多いためだ。
実は2024年、日本ではバイオエタノールの利用について、これまでにない画期的な動きが見え始めた。それは、主に自家用車に使用されるガソリンにバイオエタノールを混ぜたバイオ燃料の使用拡大を目指す政策方針が固まったためだ。
バイオエタノールとは、トウモロコシやサトウキビを微生物によって発酵させて得られたものだ。また大豆油などの脂分を原料にして合成してつくられるバイオディーゼル燃料がある。これらはバイオ燃料と呼ばれ、また大気中の二酸化炭素(CO2)を増加させないため「カーボンニュートラル燃料」と呼ばれている。
2024年11月11日、経済産業省は「自動車用燃料(ガソリン)へのバイオエタノールの導入拡大について」を発表し、新たにバイオエタノールの導入という政策目標を発表した。
具体的には、①2030年度までに最大濃度10%の低炭素ガソリンの供給を開始する、②2030年代早期に、最大濃度20%の低炭素ガソリン対応車の新車販売比率を100%にする、③2040年度から、最大濃度20%の低炭素ガソリンの供給開始を追求する、というのものだ。
「最大濃度10%」とは、ガソリンに10%分のバイオエタノールが混ぜられているという意味で「E10」と示される。最大濃度20%の場合は「E20」となる。
混合率が高くなればなるほどガソリンの使用量が減るため、そのぶんCO2削減効果が高まる。今後、自動車メーカーはバイオエタノール対応の車の販売強化、石油元売りはバイオエタノールなど混合技術の発展を目指すようになるだろう。
■日本政府が本格導入に本腰
これは、カーボンニュートラル燃料の使用を拡大させ、CO2排出量をできるだけ速やかに減らすというのが最大の目標だ。日本は「パリ議定書」に基づき、2030年度までに、2013年と比べて46%のCO2を削減し、さらに2050年度にはカーボンニュートラル、すなわち温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする目標を掲げてきた。
日本のCO2排出量は産業部門からが最も多いが、次に多いのが運輸部門だ。その運輸部門において、自家用自動車の排出量は45%を占めている。
バイオエタノールの混合を増やしたガソリンにすると、どれくらいの環境的効果があるのか。仮に日本国内の自動車をすべてE10を使用した場合、年間数百万トンものCO2削減効果が見込まれる、とされている。
これは「LCA」(ライフサイクルアセスメント)に沿って評価されたものだ。すなわち、油井から車両が走行するまでの燃料の炭素収支を公平に評価した場合に、どれだけの効果があるかがわかるようになっている。
LCAの評価などに詳しいアメリカ・イリノイ州立大学シカゴ校のステフェン・ミューラー教授は、レギュラーガソリンの排出量は88.7gCO2/MJと算出できると紹介する。「gCO2/MJ」とは、「グラムCO2・パー・メガジュール」と読む。
一方で、バイオエタノールをガソリンの代わりに使用する場合には、置き換わった部分について半分以下の削減効果が見込まれると説明する。ミューラー教授は「バイオエタノールを使用するほうが、当面はCO2排出量削減には最も効果的だ」と述べた。
仮にEV(電気自動車)やFCV(燃料電池車)が普及したとしても、前出のLCAで評価すれば、発電元が何であるかで、必ずしもバイオ燃料より有利にならないこともあるという。
現在EVの普及が足踏みしている状況で、地球温暖化対策は待ったなしの状況にある。そのような中、CO2削減にはバイオエタノールなどバイオ燃料の使用拡大が最も現実的ではないだろうか。
現在、世界ではE10の使用がスタンダードと言える。バイオエタノール生産で最大のアメリカでは、95%がE10のガソリンを使用している。今後全州でE15の普及を進める方針であり、一部の州ではE85、混合率85%のエタノール混合ガソリンも販売されている。
もう一方の生産大国であるブラジルではE100、100%エタノール燃料も流通している。ほかにもルーマニアやフィンランド、フランス、中国などでも普及率が高い。モータースポーツでも、F1やインディ500といった世界的なレースで、レースカーの燃料としても使われているほどだ。
■E10が世界のスタンダード
日本のガソリンも、輸入されたバイオエタノールが混合されている。バイオエタノールと石油系ガスであるイソブテンと合成することで得られるETBE(エチル・ターシャリー・ブチル・エーテル)がそれだ。
ETBEは9割以上がアメリカ産とブラジル産のエタノールからアメリカで変換されて輸入されている。残りの数%がブラジル産エタノールを輸入して、国内でETBEに変換されている。
ただ、ETBEを上記のような混合率で換算すると「E1.85」で、E10と比べてもCO2排出削減効果ははるかに小さい。
日本は2002年12月に閣議決定された「バイオマス・ニッポン総合戦略」で、バイオエタノールを含むバイオエネルギーに関する技術開発や普及促進が掲げられた。
さらに2010年度には原油換算50万キロリットルのバイオ燃料(ETBE)の導入が決定され、2011年度に21万キロリットルを輸入して以降、2017年度に50万キロリットルの輸入を達成して以降、年間50万キロリットルが輸入されている。2023年度のガソリン消費使用量は約4300万キロリットル(国土交通省「自動車燃料消費量調査」)だ。
現在、日本では石油販売などを行う中川物産(名古屋市)が国内で唯一、自社が持つガソリンスタンドでE3とE7の販売を行っている。
今後、バイオエタノールの輸入拡大と普及においては日本側も自動車メーカーや石油元売りに速やかな対策が求められる。またバイオエタノールは「持続可能な航空燃料」(SAF)の有力な原料ともされているのも注目すべき点だ。
普及においては、バイオエタノール混合ガソリンはレギュラーガソリンよりも価格が安いことも魅力だ。2023年度下期のエタノール価格を前提にすると、E10ガソリンはレギュラーガソリンよりも1リットル当たり4.5円安いという試算がある。
一方で、バイオ燃料を日本でつくろうとすればコストが高く、商業ベースに乗りにくいというデメリットもある。
「なぜバイオエタノール混合燃料を使うべきなのか」という消費者への理解促進とともに、エネルギー自給という問題も含めて何が最適解かを、今後日本でも議論を深めていくべきだろう。
福田 恵介 :東洋経済 解説部コラムニスト
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