( 264756 ) 2025/02/13 16:52:06 0 00 日本人の魚離れは、どうして進んでいるのだろうか。(写真はイメージ)
日本人の魚介類消費量は減少しており、魚離れが深刻である。一方、海外の消費動向に目を向けると、日本を除いて世界各国で増加傾向にある。肉食の国フランスでも、魚介類の消費量は増加しており、魚売り場もある。
フランスと日本のスーパーマーケットの魚売り場から、魚離れについて考えた。
■ 深刻な日本人の魚離れ
日本人の魚離れがすすんでいる。
農林水産省食糧需給表によれば、日本人の1人当たり年間食用魚介類消費量(純食料)は、2001年度の40.2㎏をピークに減少傾向で、2022年度は22.0㎏と半分近くまで落ち込んでしまった。この値は調査を始めた1960年以降で最低だった。一方で、肉類の消費量は増加傾向で、2011年には消費量が魚介類を上回り、2022年度は33.5kgとなり、魚介類消費量との差が年々広がっている(図1)。
年齢階層別の魚介類摂取量でも、1999年以降ほぼすべての層で減少傾向にあった。高齢者は肉より魚を好み、若者は魚より肉を好むというイメージは覆され、年代に関係なく魚介類を食べなくなっていることが示された。
水産白書によれば、消費者は、魚介類はからだによい、おいしいという認識はあるものの、価格の高いことや調理の手間がかかること、調理法を知らないことなどが魚介類を購入しない要因に挙げられている。
海外の消費動向に目を向けると、日本を除いて世界各国で増加傾向にある。もともと魚介類を食べる習慣のあるアジア地域では、生活水準の向上にともない消費量が顕著に増加しており、1人1年当たりの食用魚介類の消費量が中国では過去50年で約10倍、インドネシアで約4倍になった(図2)。
水産庁や業界団体などは、水産物の消費拡大に向けて、イベントを行うなど取り組んでいるものの、日本だけが減少傾向にあり、魚離れは深刻だ。豊洲魚市場で働く知人の「せっかく豊富な資源があるのに、日本人が食べないのでよい魚はみな海外に行ってしまう」という言葉が印象的だった。
■ わくわくしたフランスのスーパーマーケット
フランスでは、比較的小型のスーパーマーケットでも対面式の魚売り場のあるところが多い。
フランス北東部ストラスブールのスーパーマーケットで買い物をしたとき、とりわけ興味深かったのが魚売り場だった。肉売り場に比べれば小さいが、それでもかなり広い。氷を敷き詰めた箱やショーケースが並び、その上に丸のままの魚や切り身が並ぶ(写真)。魚はサケやマス、タラ、サバ、スズキなど、殻付きカキやムール貝、ツブ貝などの貝類、エビなども氷の上に並ぶとともに、魚のスープの瓶詰やおそうざいの陳列棚もある。エプロンをした店員が数人おり、客は店員に注文して買う対面販売だ。買わなくても、さまざまな種類の魚や貝の姿を見ているだけで楽しい。
肉食の国フランスで魚売り場の充実ぶりに驚き、その後近隣のスーパーマーケットの魚売り場を10軒ほど見て回った。ドイツ系のスーパーマーケットチェーンの店舗には魚売り場はなく、パック詰めの魚が数種類並んでいるのみだったが、フランス系のスーパーケットでは、氷の上に魚を並べた対面販売コーナーを設けていた。最初に見た店舗が特別というわけではなかった。
さらに週に何回か街角で開かれるマルシェ(市場)にも行ってみた。あるマルシェでは、八百屋やパン屋など100軒以上店舗が並ぶ中、鮮魚店は3軒あった。どの店舗もスーパーマーケットの魚売り場のように氷の上に丸ごとや切り身の魚を並べ、客の注文に基づき魚の処理をしたり、希望にあわせた身を選んだりしている(写真2)。ほかに2カ所のマルシェを回ったが、同様だった。
町中に鮮魚店は見かけなかったので、マルシェが日本の鮮魚店と同じような役割をしているのだろう。そういえば、日本では近頃鮮魚店を見かけていないことに気が付いた。
■ 画一的な日本の魚売り場
帰国して、都内や近郊のスーパーマーケットの魚売り場に行ってみた。店舗の規模にもよるが、かなり広い魚売り場をもつところもある。が、どの店舗を見ても、全然面白くなかった。それは、パック詰めされた切り身の魚が整然と並んでいるだけだったからだ。
魚の種類も限られている気がした。丸のままの魚はイワシとアユくらいだった。これもパック詰めされている。対面販売できるコーナーが設けられていても、丸のままの魚の姿はなく、ガラス越しの遠いところで魚をさばく様子がうかがえる程度だった。
たしかに、魚はパック詰めされていたほうが清潔だし、買いやすい。下処理もしてあり、調理しやすいので、消費者のニーズに合っているのだろう。しかし、魚の生き生きした様子は伝わらないし、切り身パックだけでは魚の種類の違いはすぐに分からない。フランスの魚売り場のようなわくわく感はなかった。
日本では、いま小売りの鮮魚店は減少している。1980年には全国に5万件あったのが、いまは1万件を切った。いまや、魚はスーパーマーケットで買うものなのだ。
それとともに、消費される魚の種類の地域による差は見られなくなってしまった。日本近海は魚の種類が多いのが特徴で、かつては、生鮮魚介類の消費の中心は、その地域でとれるものであった。いまは、流通や冷蔵技術の進歩でこれまで食べられなかった魚種が全国で食べることができる。一方で、地域特有の魚はスーパーマーケットであまり扱われないし、地のものを扱う鮮魚店も減り、近年の日本国内で消費される魚の多様性が低下していることも指摘されている(大石ら2021)。
子供のころの鮮魚店は、フランスの魚売り場のようにいろいろな魚が並んでいて、意識せず魚の姿を見ていた。魚はスーパーマーケットで買うものとなると、今の子供はパックに入った切り身しか魚を見ていないのだろう。これでは、まるでブラックボックスだ。魚は水族館に行かないと見る機会がないということか、これでは魚離れになるのも仕方ないのかもしれない。
■ フランス人のほうが魚をたくさん食べている
フランスのスーパーマーケットで、フランス人は肉食だが、「魚も意外に食べる」ことを知った。さらに驚いたのは、フランス人のほうが日本人より魚介類の消費量が多いことだった。
先に述べたように、日本は2000年ごろから魚介類消費量が減少傾向にある一方で、フランスの年間消費量は30〜35㎏を推移している。日本人の1人1年間当たりの魚介類消費量は、2022年度は22㎏で、前年度(2021年度)の23.2㎏から0.7㎏も減ったが、フランスでは2021年は30.4㎏だった。フランス人のほうが日本人より魚介類をたくさん食べているのである(Chiffres-clés des filières pêche et aquaculture en France en 2023)。
魚売り場で魚の姿を見ること、店員の何気ない「きょうはいい魚が入った」などの言葉を聞いたり、やりとりをしたりすることが、実は食生活に大きな役割を果たしてきたのではないだろうか、そして魚売り場の変化は日本人の魚離れの一因になっているのではないだろうか、と魚売り場を見ながら考えた。
若い人たちに話を聞くと、魚を食べる頻度は少なかったとしても魚が嫌いなわけではなかった。フランスと同じようにとはいかないが、魚を見たり、知ったりできるように売り場の工夫をすれば、魚に対する興味が高まり、魚離れの回復につながるかもしれない。
一方、フランスなどヨーロッパではおいしく食べるための魚の扱いが不十分だと感じた。あわせて、世界に誇る日本の魚食文化や魚のおいしさのアピールが必要だと思った。
佐藤 成美
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