( 265616 )  2025/02/15 14:24:19  
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取材に応じる少年 

 

全国で強盗事件が相次ぐ中、19歳の少年は指示役をやって捕まり、少年院に収容された。  

少年は体育館の入り口で一礼したあと、教官に連れられ、私たちの前に現れた。その顔には、まだあどけなさが残る。 

 

取材に応じる少年 

 

「目的はお金ですね。お金メイン。気軽な感じで犯罪した自分がいますね。」  

 

少年は時折笑みを浮かべながら、質問に飄々と答えた。 

罪の意識がほとんどなく、ただ感情の赴くまま、安易に犯罪に手を染めていた。 

子供の頃から勉強が苦手で、学校の授業にはほとんどついて行けなかった。 

少年の IQ は「71」。「境界知能」と言われる数値だ。 

 

少年院「加古川学園」 

 

(記者)「本件非行は?」 

(少年)「強盗予備と邸宅侵入です」 

(記者)「具体的にどんなことをしたの?」 

(少年)「強盗を仲間たちと企てて、特定した家の前に実行役を行かしたって感じですね。その時に(実行役が)熊の撃退スプレーとか、木刀とかを持っていたんで。仲間の2人が先に現行犯で捕まって、後々僕の名前を出したと思うんです。身を隠して、いろんな場所に行ったんですけど、最終的に地元に戻った時に逮捕されました。」 

 

兵庫県加古川市にある国内最大の少年院「加古川学園」。収容人数は約120人にのぼる。 

 

IQの分布 

 

暴走族のような不良文化が衰退し、古典的な非行少年が少なくなる中、少年院に収容される少年は年々減少し、今では全国合わせても1600人ほどに過ぎない(令和5年)。  

だがその一方で「境界知能」といわれる少年の割合が増えている。  

 

「境界知能」とは知能指数が平均的な数値と知的障害とされる数値の狭間にある知能のこと。IQは70以上85未満で、専門家の推計では7人に1人が境界知能に該当するといわれている。 

 

強盗事件で捕まり、少年院に収容された19歳の少年のIQは「71」。 

境界知能に当たる。 

 

取材に応じる少年 

 

(少年)「勉強する意味が分からなくて、授業は楽しくなかったですね。自分は周りに合わされへんところがあって、人とズレてるというか。感情で動くことが多くて、同級生に暴力を振るったり、喧嘩したりすることも多くて、友達がだんだん離れていって。」 

 

中学に入っても友達と馴染めず、クラスではどこか浮いた存在だった。次第に学校も行かなくなり、悪い先輩とつるんで非行を繰り返すようになった。 

 

(少年)「夜遊びしたり、万引きしたり。自分、仲良くできる子がおらんくて、悩んだこともあったんですけど。自分を強く見せたいというか、大きく見せたいというか、そういう気持ちが一番強かったですね。」 

 

17歳の時、両親が離婚。少年は母親に引き取られたが、生活は貧しく、親から目をかけてもらっている感じはほとんどなかったという。 

 

(少年)「周りの友達は、喧嘩したら親が出てきたり、夜遊んでたら親が迎えに来たりしてたんですけど、自分は目を向けられていなかったというか、見放されてた感じですね。その寂しさとか悲しさが非行に繋がってるかもしれないです。」 

 

 

初めて警察沙汰になったのは14歳の時。ホームレスに卵を投げるなどの暴行をして捕まった。だが罪の意識はまったくなく「楽しさ」を感じていたという。 

 

境界知能の少年らは、これをやったらどうなるのか、という先のことを考えた行動を苦手としている。 

少年も、自身の感情に従い行動、被害者の気持ちを考える余地はなかった。 

 

(少年)「感情で動いて人をシバいたり、傷つけたりしてしまってるんで、考える能力はなくなってて、楽しさとかに変わってますね。人の心の痛みとかわかんないです。被害者の気持ちが考えられない部分がありますね、相手の気持ちというか。自分さえ良かったらいいみたいな考えが結構強くて。」 

 

「行動訓練」 

 

「境界知能」は、対人関係を築くのが苦手で、計算や漢字の読みなどの学習も不得意といった特徴がある。だが不自由なく生活できているように見えるため、医療や公的な支援に繋がりづらい。 

 

加古川学園では5年ほど前から「境界知能」と呼ばれる少年が増え始め、今では全体の8割近くにのぼっている。増加の背景には、これまで見落とされていた少年たちの特性が鑑別所で細かく分類され、数として拾い上げられるようになったためとも考えられる。 

 

少年院では入って2か月の間、院内の基本動作を学ぶため「行動訓練」が行われる。「気をつけ、前へならえ」といった号令に合わせ、隊列を組んで行進するなど、少年たちは日常の所作を徹底的に教え込まれる。 

 

しかし境界知能の少年が多い加古川学園では、教官の言うことがきちんと理解できず、注意される少年の姿が目立つ。体操をさせてもリズムに合わせて動くことができない。中には途中で諦めてしまう少年も。指導にあたる法務教官はこう話す。 

 

「手と足を一緒に動かすことができない、足を前に出すところを後ろに出してしまうとか、『君のことやで』と個別に注意しないと、ずっと間違えたままになっている。」  

 

境界知能と非行には直接の因果関係はない。 

 

 

担当の法務教官 

 

少年院に入って4か月。強盗事件の指示役をやって捕まった少年は、教官の指導を受けながら、集団生活を通して少しずつ自分の問題に向き合い始めている。それでも更生にはまだ時間が必要だ。 

 

(少年)「社会は自由すぎて、自分の好きなことをしてしまうんで、制御できない部分とかもあるんですけど。少年院か社会かどっちがいいかと言われれば社会なんでけど、少年院生活も悪くないなって思っていて、3食出るのはいいなって思ったりして。現実逃避というか、何も考えなくていいんで楽な部分もありますね。それでも今は自分の中で毎日何か新しい気づきがあったり、人のために何かするのも悪くないなと思えて。」 

 

本人の特性や家庭環境などの影響から、反省が進まない少年は少なくない。 

 

(法務教官)「昔はいわゆるやんちゃな少年、集団で悪さをする子が多かったんですけど、今は人との関わりがうまくいかない中で孤立感を深め、あまり考えずに流されるまま、安易に犯罪に手を染める子が多くなっています。家庭や学校の中で、理解されない中で、傷ついてきたんだろうなと感じる子は多いです。」 

 

また、「境界知能」であるからこそ、更生の難しさを痛感すると話す。 

 

「彼らはやった後、被害者がどうなるのか、その先に何が待っているのか、想像が及ばない。しかも捕まって反省して、一旦は落ち込むが、時間が経つとすぐに忘れてしまう。だからこれまで以上に根気強く関わり続けることが必要。」 

 

「報道特集」瀬戸雄二ディレクター 

 

これまで多くの少年院で少年の取材をしてきたが100人を超える大所帯の少年院は久しぶりだった。それだけ少年の数が減っているということだ。その一方で「境界知能」と言われる少年が多くなっているという声は加古川学園のみならず、あちこちの少年院から聞かれる。最近、少年院に来て感じることは、少年たちの変わりようだ。かつてはいかにもやんちゃで威勢のいい子たちが多く見られたが、今は大人しめで掴みどころのない少年が主流になっているように思う。今回「境界知能」と言われる少年10人ほどにインタビューをするなか、皆、比較的穏やかで、筋金入りの非行少年と言える子はいなかった。だがその見た目とは裏腹に起こした事件は強盗や詐欺など重罪で、自分より弱い相手を対象に、非行に及んでいた。 

 

彼らは幼い頃から厄介な子として扱われてきた。しかし普通と障害のどっちつかずにいる中で、適正な支援に繋がることはなかった。いわば見過ごされてきた存在だ。少年犯罪は社会の縮図とも言われる。SNSの普及とともに、安易に闇バイトに手を染める少年が増えるなか、犯罪グループの捨て駒として使われる少年たちを生まないためにも、まずは社会が彼らの抱える生きづらさを理解することが必要だろう。 

 

※この記事は、TBSテレビとYahoo!ニュースによる共同連携企画です。 

 

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