( 265646 ) 2025/02/15 14:58:54 0 00 Photo by gettyimages
〈ようこそ ほこたへ 日本でいちばん野菜をつくる街〉
東関東自動車道を終点で降り、長閑な田舎道を20分ほど走ると、そんな看板に迎えられた。農業産出額の野菜部門で全国1位を9年連続で獲得した茨城県鉾田市だ。
ただ、同市の日本一の座は、技能実習生によって支えられてきたと言っても過言ではない。鉾田市によると、同市に暮らす技能実習生は'23年10月時点で3006人。人口約4万7000人のうち6%以上が技能実習生ということになる。
そんな全国有数の技能実習生密集地で今、「実習生が来てくれない」と嘆く農家が増えているという。市内で根菜農場を経営する三谷和明さん(仮名・60代)が話す。
「最初に実習生を受け入れたのは'16年で、多い時には4人の実習生が同時に働いてくれていました。すべてベトナム人です。しかし、コロナ禍以降は実習生が来てくれなくなり、今残っている一人の契約が今年の夏に切れたらゼロになります」
なぜ、ベトナム人は来なくなったのか。茨城県内の監理団体の職員が明かす。
「4〜5年くらい前までは、実習先の所在地にこだわるベトナム人は少なかった。しかし今は、『田舎には行きたくない』『寒い地域での農作業は嫌』という人が増えてきている。正直、茨城の農場は実習先としては不人気です。鉾田市に来る実習生の国籍も、コロナ前までベトナムが首位でしたが、ここ数年でインドネシアに抜かれています」
実習生の国籍変遷の背景には、「日本の衰退」があるという。
「技能実習生の給与水準は、外国から見れば大きく目減りしている。そのため、自国の賃金が低い国の人しか、日本には来てくれなくなっている。ベトナム人にとって日本はもう魅力ある国ではないのです」(同前)
技能実習生として日本で働くことを希望する外国人はまず、自国の「送り出し機関」に応募。機関と日本側の監理団体、農家や企業などが連携を取り、受け入れ先が決まっていく。だが、送り出し機関の対応も年々変化してきているという。高知県で土建業を営む保岡健二さん(仮名・50代)が語る。
「コロナ禍以前は、ベトナムの送り出し機関が渡航費から滞在費まで丸抱えで、首都・ハノイへの面接ツアーに毎年招待してくれていました。夜にはお姉ちゃん付きの店で接待を受けながら、送り出し機関の幹部から『いくらでも人材回しますから、よろしくお願いします』と頭を下げられたものです。
しかし今は、すべて自腹で現地まで面接に行きます。もちろん夜の接待もありません。それどころか、送り出し機関の若いスタッフから『おたくのような環境では誰も行きたがりませんよ』とあけすけに言われます。ベトナムで実習生希望者が減っている一方で、日本の受け入れ希望者は増えている。つまり、売り手市場になっているんです」
実習生に来てもらうために、受け入れ先は涙ぐましい努力をしている。保岡さんが続ける。
「それまでは会社の独身寮の二人部屋に実習生を住まわせていたのですが、個室を用意するために中古の一軒家を2000万円で購入しました。給与からの寮費の天引きは3万円以下にするように監理団体に言われていますが、それで収まるわけがない。技能実習生の採用コストはトータルで、年間400万円くらいになります」
だが、実習生のなかには、こうした受け入れ先の窮状を逆手にとり、遊び惚ける者も少なくないという。
「スマホで写真を撮りまくってインフルエンサーをやっている子、出会い系サイトで女の子と遊んでばかりいる子……。それでも、文句は言えません。同業者が受け入れた実習生のなかには、仕事そっちのけで転売に励む者や、早々に失踪した者もいると聞くので」(保岡さん)
日本の技能実習生は昨年42万人を超えた一方で、9000人超の失踪者も出ている。政府はさらに受け入れを拡大しようと、技能実習制度を廃止し、「育成就労」制度を導入することを決定。外国人労働者を育成し、最長5年在留できる「特定技能1号」への移行を目指すという制度だ。
だが、いくら制度を改正しても、そもそもの給料が上がらなければ、誰も来てくれないという状況が起きそうだ。
【つづきを読む】『中には借金漬けの生活者も…「コンビニで働く外国人」が喘いでいる「エグすぎる現実」』
「週刊現代」2025年2月15日号より
週刊現代(講談社・月曜・金曜発売)
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