( 265711 )  2025/02/15 16:14:04  
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(写真:時事) 

 

 「デヴィ夫人」の呼び名で高い知名度を持つタレントのデヴィ・スカルノ氏(85)が、犬や猫の愛護を訴える新党「12(ワンニャン)平和党」の代表として、7月20日投開票が見込まれる次期参院選比例区での出馬を目指す意向を表明したことが、中央政界に複雑な波紋を広げている。 

 

 デヴィ氏が12日、東京都内での記者会見で明らかにした。同氏は犬肉食禁止の運動を国際的に展開してきた実業家・堀池宏氏らとともにすでに同党を設立しており、デヴィ氏が代表、堀池氏が共同代表に就任し、日本初の犬猫の保護に特化した国政政党を目指している。その一方で、デヴィ氏は選挙プランナーとして多くの実績を持つ藤川晋之助氏に戦略作りを委ねる方針で、同氏も「複数の議席獲得は確実」と自信を示している。 

 

 12日の会見でデヴィ氏は「犬猫と共生する優しい世界を目指す」とした上で、①犬猫の食用禁止の法制化、②災害時における犬猫の救済――など12項目の“犬猫政策”を掲げた。併せて次期参院選では「最低でも2議席」の確保を目標とし、比例区と都市部の選挙区に計10〜30人の候補者擁立を目指す方針も明らかにした。 

 

■「SNS選挙」の藤川氏が戦略担当に 

 

 一方、選挙戦略を担当する藤川氏は、昨夏の東京都知事選で「SNS選挙」を展開して石丸伸二氏を2位に押し上げた実績があり、今回も「SNSによる空中戦」で旋風を巻き起こすことを狙う。選挙専門家の間でも「最近、いわゆるシングルイシューで選挙戦を展開するミニ政党の台頭が目立っており、とくに多くの国民が受け入れやすい犬猫愛護は政治色がないため、ブームを巻き起こす可能性が高い」(有力アナリスト)との見方も広がる。 

 

 仮に、いわゆる無党派層の支持を受けて複数議席を獲得することになれば、自民、公明、共産各党のような「組織政党」より、「選挙戦略が『“風頼り”』の要素を持つ立憲民主や国民民主などの議席を奪う可能性」(同)も想定される。併せて、日本保守党など近年の国政選挙で議席を獲得した「新興小政党」の集票活動にも、「一定の影響を与えるのは必至」(同)とされ、この「新興小政党」の勢力図の変化も含めて、次期参院選での注目点の一つとなることは間違いなさそうだ。 

 

 

■「人生の集大成として、政界に一石を投じる」 

 

 デヴィ氏は会見でまず「戦争、敗戦、クーデター、動乱とまさに波瀾(はらん)万丈だった私の人生の集大成として、政界に一石を投じようと立ち上がった」と表明。続けて「犬猫は地球上に人類が誕生した時からの伴侶。動物愛護を第一の使命として、12平和党設立を宣言する」と高揚した表情で語った。同氏は現在、タレント活動やCM出演を続けているが、「政治にかかわることをやめてほしいという、テレビ局があるなら致し方ないと思う」などと、退路を断っての政界進出への強い決意もにじませた。 

 

 デヴィ氏は1940(昭和15)年、東京生まれ。インドネシアの初代大統領であるスカルノ元大統領(故人)と結婚し、1962年に国籍を日本からインドネシアに変更したとされる。ちなみに国外の元首を務めた人物の伴侶が政治団体の代表となる初めての例だ。 

 

 そうした中、参院選に立候補するには日本国籍が必要だが、デヴィ氏は現在インドネシア国籍のため、昨年10月から日本国籍取得の手続きをはじめたという。「元々は日本人なので簡単にできると思ったが、多くの書類が必要だった。時間的に間に合うかは、法務大臣次第」と説明し、堀池氏は「遅くても6月には出ると思う」との期待を示した。 

 

 そもそも、政府など関係機関は「日本では犬猫の食肉習慣はないものの、国内では約50店が食肉を提供している」と説明しているとされる。この点についてデヴィ氏は「いちばんの目標は犬猫肉の食用禁止。我が国では関心が低いかもしれないが、近隣諸国では法律で禁止されてきている。国民のみなさまに理解され、禁止法が性急に成立されることを願っている」と力説する。 

 

 まさに異色の政党設立に、有識者の間でも様々な見方が出ている。ジャーナリストの岩田明子氏(千葉大客員教授)は「これまでもウクライナ電撃訪問とか凄く脚光を浴びることをやってこられた方で、既成政党と違うアクセスをするというところを強調していくと、ある程度の得票というのも期待できる」とする一方で、「やはり選挙は候補者。(議席獲得は)いい候補者を集められるかどうかにかかる」と指摘。 

 

 

 またジャーナリストの風間晋氏(元フジテレビ解説委員)は「ワンイシューというのと、SNSの拡散力っていうのは凄い親和性がある。しかも今回の選挙において2つ3つの議席をとるという意味においては、風を起こせばそういうことにもなり得ると思っている」など議席獲得の可能性は高いとの見方を示した。 

 

■「政治色ゼロ」で、“ノンポリ”有権者の獲得も 

 

 そもそも、ここ数回の国政選挙では、いまだに話題を提供し続ける立花孝志氏が代表を務めるNHK党(NHKから国民を守る党)を始め、人気作家の百田尚樹氏が代表の日本保守党、「日本の国益を守り、世界に大調和を生む」をキャッチコピーに元吹田市議会議員の神谷宗幣氏が結党した参政党などが政党要件を確保して、既成政党の隙間を突く形で、独自の政党活動を展開している。 

 

 ただ、こうした「新興小政党」はそれぞれ濃密な政治的立場を背景に活動しているが、今回の「12平和党」には、「いわゆる政治色はほとんどない」(政治ジャーナリスト)。しかも、代表のデヴィ氏は「ベストセラー作家の百田氏に勝るとも劣らない知名度を持つだけに、政治嫌いな“ノンポリ有権者”が投票しやすい」(同)ことは否定できない。 

 

 このため、主要メディアの政治記者の間でも「もし、デヴィ夫人が参院議員となって党首討論などに参加する事態となれば、政治と一般国民の間合いを縮める一方、政治のエンタメ化も加速させる」(有力紙記者)などの複雑な受け止めが少なくない。それだけに、今回の“デヴィ新党”の登場は「従来の政党政治の在り方自体を問い直すきっかけになる可能性を秘めている」(閣僚経験者)ことは間違いなさそうだ。 

 

泉 宏 :政治ジャーナリスト 

 

 

 
 

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