( 265736 )  2025/02/15 16:47:12  
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熱海駅(画像:写真AC) 

 

 間もなく全国的に春のダイヤ改正が実施されるが、特にJR各社の境界駅を越えて運行される列車の数が年々減少している。注目すべきは、東海道本線の熱海駅を超えてJR東日本とJR東海を直通する列車だ。例えば、2024年3月のダイヤ改正では、JR東日本管内から熱海を越えて沼津まで直通する列車が9往復から7往復に減便された。そして、2025年3月のダイヤ改正ではさらに減便され、7往復から5.5往復に縮小される予定だ。 

 

 静岡東部、特に三島・沼津界隈のリクルート情報を見てみると、湯河原や真鶴あたりも歓迎されるパターンが多い。もちろん、境界駅である熱海で乗り換えればよいが、乗り換えの際の待ち時間やホーム間の移動など、乗り換えに対する抵抗感は少なくない。 

 

 JRグループであっても、他社の車両を運転するための習熟や車両サービスの格差が生じ、また夜間や早朝に相手会社の列車が留置されることもあるため、各社はできる限り会社を跨ぐ列車の運行を避けたがっているのが現状だ。 

 

 また、電車1両を1km走らせるために消費される電力は約2kWhで、電気代はおおよそ30円程度だ。地域間輸送用の短い編成と都市間輸送用の長い編成を比較すれば、コスト面では短い編成を使う方が効率的だ。これにより、境界駅での分割運転が好まれる傾向が強まっている。 

 

米原駅(画像:写真AC) 

 

 地域住民にとって鉄道は通勤・通学の重要な交通手段だ。JR分割民営化から38年が経過するが、境界駅を越えても生活圏が変わることはない。 

 

 例えば、熱海や米原を境にした場合、地域住民は乗り換えが必要となり、朝は短くて5分程度、昼以降は10分程度の乗り換え時間が発生することが多い。もちろん、接続列車の待ち時間によっては20分程度の待機時間が生じる場合もある。 

 

 乗り換えがスムーズでない場合、トラブルにより接続できないこともあり、ロスタイムが長引くことになる。このような待ち時間は通勤者にとってストレスの原因となり、地域間交流の断絶を招く恐れもある。交通が分断されれば、関係人口も減少する可能性があり、これは望ましくない。 

 

 鉄道事業者にとっての使命は、安全・安心で正確な運行だ。かつて、熱海を越えるJR東日本の列車は東京を起終点としていたが、上野東京ライン化により、首都圏北部の宇都宮や高崎などとも直通するようになった。 

 

 しかし、JR東日本管内でトラブルが発生すれば、熱海から沼津の運行にも影響を及ぼすことになる。米原を越えて大垣まで運行されるJR西日本の列車も同様で、京都や大阪方面でのトラブルが米原~大垣間の運行に支障をきたす。 

 

 大都市圏から郊外都市への直通列車は長距離通勤者にとって便利だが、事業者の視点から見ると、乗り入れてきた列車がトラブルで欠便するリスクがある。場合によっては翌日の折り返し便も欠便となることがある。 

 

 経済的にはエネルギーコストの抑制が課題だが、欠便や後続列車の混雑激化は運転士や車掌のストレスを増大させる懸念がある。欠便が発生すれば、通常会社間で相殺する車両使用料にも影響が出ることがある。 

 

 このため、会社間の越境運転は減少していく運命にある。トラブルを回避するためには、短い区間を短い編成で運行し、相互乗り入れをなくしてピストン運行することが最適だ。それがコスト削減の解決策となり、都市間輸送の長い編成を乗り入れさせてもデメリットが大きいため、越境運転はますます減少するだろう。 

 

 

古河駅(画像:写真AC) 

 

 宇都宮線を例にとると、これまでこの路線はグリーン車を装備した長編成が栃木県の黒磯まで運行されていた。しかし、利用者数の変化を見てみると、大宮~古河間では1987(昭和62)年度から2022年度にかけて13万121人から13万8338人へと増加し、古河~宇都宮間も4万1078人から4万4516人と増加した一方で、宇都宮~黒磯間では1万9594人から1万5835人へと減少している。 

 

 これは、人口減少やコロナ禍の影響でテレワークが普及し、長距離通勤の需要が減少したためである。このため、2022年には宇都宮以北からの10両編成の直通列車が廃止され、宇都宮~黒磯間はワンマン運転のローカル列車によるピストン輸送にシフトした。ワンマン運行にすることで車掌の人数を減らし、エネルギー費用や車両の管理費用も抑制できる。 

 

 これにより、都市部から離れたエリアでは、生活圏を超えた直通客への無理強いを避けつつ、短い編成での運行が現実的な選択肢となる。さらに、日光線と共通の車両を使い、エリアごとに車両を分けて効率的な運行を進めることで、人件費の削減や越境運転の見直しが可能となる。 

 

 次に、越境運転を小さなエリアで短い編成で行うことが最適解だと考える。地域の結びつきや公共交通との関係性を考えると、都市間を分断するような運行は避けるべきで、相互交流がなくなるとクローズドな経済圏が形成される恐れがある。 

 

 最近では、国府津~熱海~沼津間で短い5両編成の列車を使い、JR東日本からJR東海に跨って運行する例も見られる。短い距離であれば遅れのトラブルも回避しやすく、エネルギー面や車両の効率的な運用にもメリットがある。 

 

 例えば、宇都宮線であれば、小金井~宇都宮~黒磯間、高崎線であれば籠原~高崎~前橋間といったローカル運行が今後の選択肢となるだろう。一方、長距離の都市間輸送には、長大編成がトラブルに巻き込まれやすいというデメリットがあるため、利用が旺盛な区間に集中させる方が効率的であると考えられる。 

 

 

沼津駅(画像:写真AC) 

 

 沼津から横浜へのアクセスを考えるとき、 

 

「会社自体が熱海で分断され、ホームを超えた乗り換えが必ず発生する」 

「国府津で同じホームで乗り換え、横浜へアクセスしやすい」 

 

という状態のどちらが市民にとって好ましいかは一目瞭然である。筆者(高山麻里、鉄道政策リサーチャー)も車両使用料や線路使用料の概念は理解しているが、地域の分断を避け、関係人口を維持するためには鉄道での分断は適切ではない。地域経済圏を鉄道で分断しないためにも 

 

「越境運転を短い編成で小さいエリアで行うのが最適解」 

 

と考える。越境鉄道の便数を減らすことで、境界駅周辺にはどこへでもアクセスできるメリットが生まれ、経済的な効果も期待できる。その結果、住民が増加する可能性もある。 

 

 一方で、境界駅の両側にある駅周辺は「境界駅を超えて先へ進むのが難しくなる」となり、リクルート情報を出しても人が集まりにくいという状況が生じる。鉄道アクセスが不便であれば、観光業や地元商店街にも悪影響を及ぼすだろう。今後、人口減少が進むなかで、各都市はお互いの関係人口を増やすことが重要になる。こうした背景から、越境列車の存在意義はさらに高まると筆者は考えている。 

 

 減便の先にある課題として、越境列車の減便は地域間の交流を狭め、労働力や観光客の減少を招く恐れがある。これは、重要な関係人口の減少にもつながる。エリア間の繋がりを保ち、地域の流動性を維持するためには、境界駅を超える列車の意義は不可欠である。 

 

 運行ダイヤの設計においては、事業者の視点だけでなく地域住民の声を反映させることが重要だ。持続可能で都市経済の発展を考える上でも、境界駅を越える列車の役割を再評価し、そのダイヤを慎重に決定してほしい。 

 

高山麻里(鉄道政策リサーチャー) 

 

 

 
 

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