( 266001 ) 2025/02/16 05:38:07 0 00 スバルは「東京オートサロン2025」において、通算10代目のSシリーズとなる「S210」のプロトタイプを公開しました。
S210は、スバル「WRX S4」をベースにSTIがカスタマイズをしたコンプリートカーです。
このモデルは、今年夏頃に500台の台数限定で発売を予定しているといいます。一体どのようなクルマなのでしょうか。
新型スポーティセダン「S210」!
STIのコンプリートカーは、1998年の「インプレッサ22B」をはじめとして、これまで合計34種が市場に投入されてきました。それらは、その時々でスバルSTIが戦っていたWRCやニュルブルクリンク24時間レースなどのモータースポーツから得た技術やノウハウを織り込んでおり、これらのコンプリートカーはスバルSTIの挑戦の歴史を表すクルマともいえます。
その中でも、パワートレインを含めたすべてに手を入れたプロダクトにのみ名乗ることが許されるのが“S”シリーズであり、STIのコンプリートカーの頂点に君臨するモデルです。
日本市場向けには2017年の「S208」以来、実に約8年ぶりとなるこのS210プロトタイプは、2008年から始まったニュルブルクリンク24時間レースへの挑戦を通じて得られた知見を惜しみなく投入し、市場に投入できる最適解のプロダクトとして、ニュルブルクリンクレースカー直系の“スバル2ペダルスポーツセダン”をコンセプトに開発されました。
エクステリアは、ニュルブルクリンクのマシンで証明された技術やノウハウを、今まで以上に色濃く再現しているといいます。
フロント、サイド、リアのSTIエアロパーツはもちろんのこと、フロントフェンダー部にはスポーツサイドガーニッシュとフレキシブルホイールを新規採用。特にスポーツサイドガーニッシュは、ノーマルからプラス20ミリ拡幅することで、よりアグレッシブでワイルドに見せる効果を持ち、さらにタイヤハウス内の空気を外に流し圧力を抜くことで、リフト荷重を低減する機能部品となっています。これらのアイテムは実際にニュルブルクリンクのマシンに採用され、レースを通じて開発されました。
インテリアも、ニュルブルクリンク車両から得られた知見を再現し、黒と赤に統一することで、これまで以上に運転に集中できる空間を実現。特に今回新規採用されたレカロカーボンバックレストシートは、電動リクライニングとシートヒーターを備え、ホールド性はもちろん、快適性も確保。ニュルブルクリンクレースカー同様、長時間でも安心して楽に走ることができる環境となりました。
走行性能に関しては、Sシリーズの証であるパワートレインまで及ぶチューニングを実施。
吸排気系の変更により、ノーマルから15馬力アップの300馬力をあえて狙って開発されています。この300馬力化に加え、スバルパフォーマンストランスミッションをS210専用にチューニング。出力向上したエンジンと組み合わせることで、ダイレクト感が増し、より正確にドライバーの思い通りに反応するクルマに仕上がったそうです。
先述の概要を踏まえ、スバルテクニカインターナショナル開発副本部長の高津益夫さんに、もう少し詳しくお話をうかがってみました。
まずは、「ニュルブルクリンクレースカー直系のスバル2ペダルスポーツセダン」というコンセプトの意味についてです。
気持ち良い走りにはエアロの空力も重要なポイント
「STIは、とにかくクルマを意のままに操れる操縦性を実現しようということに、徹底的にこだわっています。
なかでも、厳しいコンディションの中で競い合っているニュルブルクリンクのレースカーこそが、その意のままに操れるクルマの究極的な形だと考えました。その良いところを市販車に引き継いで実現させたいということなのです」
その良いところとは、「ステアリングを操作した際の切り始めからクルマの応答の遅れの少なさや、長距離を走っても疲れないことですね。耐久レースですから、高いパフォーマンスを保ちながら安心して疲れずに走る必要があり、それが(レースカーの)優れているところです。そこはぜひ市販車にも引き継がせたいと考えました」と高津さん。
そこで、まずはエンジン出力を275psから300psに引き上げました。
しかし高津さんは、「単に馬力をアップするのではなく、いかにコントロールしやすいエンジンにするかがポイントです。そこで、アクセルに対するトルクのレスポンスをとにかくリニアに応答させるエンジンセッティングにしています」と語ります。
同時に、そのためにはハードウェアの変更も必要となるため、「吸排気系は新たに開発し、通気抵抗の少ないものを取り入れ、それをベースに作り込んでいったのです」とのこと。
そうなると、今度はトランスミッションも気になってきます。
「エンジンのトルクレスポンスが向上したことで、トランスミッションも理想の姿に近づけたいと考え、スバルのトランスミッション開発チームが協力してくれました。その結果、とても気持ちのいい変速特性を実現できました」と述べ、最終的には「ダイレクト感が増し、一方でゆったり乗りたい時にはよりスムーズに乗れるようになりました」と、非常に満足な仕上がりになったようです。
高津さんは、「少し走行負荷がかかっている状態でパーシャル加速をしようと、じわっとアクセルを踏んだ時に、トルクの付きが遅いと、どうしてもキックダウンしてワーンと吹け上がってしまいます。
しかし、S210ではそういったシーンでもキックダウンせず、スーッと引っ張ってくれます。これも、エンジンのトルクレスポンスが向上した恩恵でしょう。
同時に、アグレッシブに走る時にはより気持ちよく、よりダイレクトなフィーリングを実現しました。ですから、日常の走行でもより快適に走れる、そんなパワーユニットの特性を実現できました」と語りました。
STIがこだわる“クルマを意のままに操れる操縦性”の実現には、ハンドリングも重要なポイントです。
ブラック×レッドアクセントで統一されたスポーティかつ上品な室内
当然、エンジンの出力が向上しているため、タイヤを少しワイド化しました。具体的には、量産車が245/40R18に対し、S210では255/35R19を採用。さらに、ミシュラン・パイロットスポーツ4Sという、非常にスポーティで限界性能の高いタイヤを装着しました。また、ホイール幅も8.5Jから9Jに拡大されています。
そうなると、タイヤは従来より外側に張り出すことになります。それをカバーするために、フロントフェンダー部のスポーツサイドガーニッシュを、このクルマ専用に新たに開発しました。
その形状を見ると、少しリップが付いています。これもニュルブルクリンクのレースカー由来の造形で、「これによってホイールハウス内の圧力を抑え、リフトをできるだけ低減する効果があります」と高津さん。
また、AWDに関しても改良が施されています。「ノーマルモードからスポーツモードに切り替えると、ターンイン時のセンターデフの拘束を緩める制御を入れました。そうすることで、ステアリングの切り始めの応答が大幅に向上しています」とのこと。
特に顕著に感じられるのは雪上での挙動だそうです。
「ノーマルでは、少しステアリングを切ってから遅れてクルマの姿勢が変わります。そのため、目指したいラインを走ろうとすると、どうしても舵角を増やさなければなりません。すると、コーナーの出口では、それなりのカウンターステアが必要になることもあります。
しかし、スポーツモードを選ぶと、明らかに舵角が減り、より自然な操作でラインをトレースできるようになっています」と説明してくれました。
最後に、高津さんのこだわりについてうかがいました。
ひとつは、シートだそうです。
「これまでもレカロのシートは採用していましたが、今回はカーボンバックレストを採用した、非常にホールド性が高く剛性の高いフロントシートを新開発しました。
シートは、操縦性を語る上でとても重要な要素です。ですから、シートには絶対に妥協しませんでした。意外とスパルタンな見栄えですが、実際にはものすごく快適です。座り心地がよく、長距離移動も非常に楽になるシートに仕上がりました」と語ります。
そして、このS210のプロトタイプについて、「パフォーマンスのために何かを犠牲にすることはしませんでした。ですから、もともと搭載されているアイサイトXも維持しています。
つまり、ベースモデルが持っている良さはそのままにしつつ、さらにパフォーマンスを高めたのが、このS210のプロトタイプなのです」と説明しました。
耐久レースでは、ドライバーの疲労が大きな問題になります。その経験を踏まえながら開発されたS210は、まさにレース由来のスポーツカーでありながら、同時にグランドツアラーとしての快適性も兼ね備えた1台に仕上がっているようです。
内田俊一
|
![]() |