( 266116 )  2025/02/16 14:59:22  
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「松本商会」での業務にあたる少年 

 

「周りのやつがおかしいと思ってた」と淡々と話す少年。小学生の頃、医師からADHD(注意欠如・多動症)と診断されたこともある彼は、幼少期から問題行動が多く、「平均的ではないが知的障害でもない」どっちつかずの“境界域”を彷徨っていた。 

 

かつて非行にあけくれ少年院に収容されたが、清掃会社の社長に拾われ、再スタートを切った。仕事に打ち込み、プライベートでは社長の家族と食卓を囲み笑い合う日々を過ごしていたが、ある日突然少年は姿を消した。 

 

7人に1人が再び罪を犯して少年院に逆戻りするという厳しい現実の中、更生支援の難しさに迫る。 

 

(記者)「少年院生活はどうだった?」 

(少年)「楽しかったっすよ、普通に。 

スポーツとかバレーボールとか。僕、体動かすの好きなんで。」 

(記者)「辛いことはなかった?」 

(少年)「最初は辛かったですけど、不良として生きるって思ってたんで、1回は(少年院に)入っておくべきかなと思って。僕らの感覚、バグってるんで。」 

 

多少強がってなのか、少年院生活についてそれほど苦ではなかったと話した。 

 

少年は19歳。両親と妹の4人家族。ごく普通の家庭で育った。 

しかし子供の頃から問題行動を繰り返す。 

小学校で授業中に前に座る生徒の髪の毛を切ったり、校庭で石を女子生徒の頭に当てたりして、流血させたこともあったという。 

 

(記者)「なんでそんなことするの?」  

(少年)「わかんないです、全然覚えてないんですよ。」  

 

数々の問題行動に、祖母は「この子は普通じゃない」と感じたといい、病院に連れて行かれた。そこで「ADHD(注意欠如・多動症)」と診断されたという。 

 

(記者)「自覚はあった?」  

(少年)「なかったです、周りの奴がおかしいと思ってたんで。僕、ひねくれてたんですよ。」  

 

少年院では何とか問題を起こすことなく生活することができたという。だが仮退院を目前に、親から引き受けを拒否され、帰住先が決まらず出院が難航した。 

 

 

兵庫県尼崎市「松本商会」 

 

そんな中、講話のため少年院を訪れた清掃会社の社長の言葉が心に響いたという。 

 

兵庫県尼崎市の「松本商会」。社長の松本和也さん(38)は、4年前から罪を犯した人たちの就労支援活動に取り組む「職親プロジェクト」に参加し、若者たちの更生支援に尽力している。現在、従業員12人のうち、4人が刑務所や少年院を出た若者たちだ。 

 

「松本商会」社長・松本和也さん 

 

(松本さん)「親がいなかったり、家が貧しかったり、みんな恵まれない環境で育っている。社長だったら何でも相談できる、一緒だから安心できる、そんなポジションでおりたいんです。僕と繋がった以上、同じ釜の飯を食う人間は仲間でいたい、放っておけないんですよ。」 

 

少年も松本さんの思いに惹かれた。 

 

(少年)「話を聞いていて、この人喋りやすいなって。直感じゃないけど、ここ(松本商会)に行ってみたいなって思って。」 

 

自宅に招き夕食を 

 

少年院出院後、念願の松本商会に就職することができた19歳の少年。事務所の上にある会社の寮で生活しながら、再スタートを切った。 

平日は朝6時半に出勤。ホースやブラシなどの作業道具を車に積み、現場に向かう。この日は尼崎市内の新築アパートで引渡し前のハウスクリーニングを行った。 

 

(松本さん)「手垢ひとつでもいい加減な仕事したら、すぐ出禁です、結構厳しいですよ。犯罪者のいる会社だって、そういう見方されるから余計手は抜けないんです。」 

 

松本さんは仕事が終わると、よく社員たちを自宅に招き夕食を共にしている。少年は週のうち、半分はここに来て、松本さんの妻の手料理をご馳走になっているという。 

 

(少年)「一人で部屋にいるの寂しいし、こうやってご飯食べれるのホンマありがたいです。」 

 

松本さんは妻と3人の子供の5人家族。少年と家族全員で囲む食卓はいつも賑やかだ。 

 

(松本さん)「愛望(あも)ちゃん、最近、よく(少年が)家に来るじゃん、嫌じゃない?」 

(松本さんの娘:愛望さん(12))「うっとおしい時もあるけど、話し相手としか思ってない。」 

(少年)「わははは。」 

(松本さん)「彼は僕の子供たちともよく遊んでくれるんですよ。(少年の)幼少期を考えると、親にご飯を作ってもらえるような環境じゃなかったと思うんでね。松本商会はファミリーなんです、家族なんです。僕がお父さんで息子たちがいっぱいおって。更生支援ってこういうのが必要なんですよ、だから僕は全然苦じゃないです。」 

 

 

寮の部屋 

 

少年が松本商会で働きはじめて1年。松本さんから記者に突然の電話が入った。 

「少年が飛んだ」というのだ。早速、尼崎に向かうと。 

 

(松本さん)「昨日かな、(仕事に)来んかって、連絡つかなくて。」 

 

少年は2日前から姿を消しているという。寮の部屋には脱ぎ散らかした服や、空のペットボトルがあちこちに散乱していた。更生支援の現実を目の当たりに感じる光景だ。 

 

事務所の棚には手紙が 

 

松本さんによると、少年が「飛んだ」のは初めてでなく、何度もあるという。 

 

「晩に飲みに行って、友達と会ってワイワイしとって、明日仕事ブチったろうかみたいな、そんな感覚だと思うんですよ。」 

 

度重なる無断欠勤に一部の社員から“クビにしていい”という声が出始めている。それでも松本さんは、少年の更生支援は諦められないという。 

事務所の棚には、これまでやりとりのあった受刑者や少年院在院者からの手紙がずらりと並べられている。 

 

少年が書いた手紙 

 

そこには松本さんの会社で頑張りたいと願う少年の手紙もあった。 

 

(少年が書いた手紙) 

「僕は社長にとても感謝しています。僕は不器用で迷惑かけてしまうこともあるかもしれないですが、一生懸命頑張っていきます。」 

 

「松本商会」社長・松本和也さん 

 

(松本さん)「これで僕、放っておいて、行くところなくなって、また半グレ戻って、『お前これやれ、あれやれ』っていいように使われて、刑務所に行ったって聞いたら、僕多分泣きますよ。ものすごく責任感じるの分かってるんで、だから彼を放っておけないんですよ。」 

 

少年と松本さん 

 

松本さんの妻や会社の仲間たちも少年に帰ってくるようLINEを送ったが返信はない。  

 

松本さんの自宅のインターフォンが鳴ったのは午後10時半過ぎ。  

玄関の扉を開けると、目の前に少年が立っていた。  

 

(松本さん)「どない思ってんだ!」  

 

松本さんが激しく檄を飛ばした。 

 

気まずそうな表情で部屋に入ってきた少年。椅子に腰かけ、ボソボソと小声で話し始めた。  

 

(少年)「遊びに行く前は、ホンマに、仕事ブチるとか考えてなかったし、何時に帰ろうかなぐらいの気持ちでおったんですけど、先輩が飲みに行くって言って、そのまま僕も…。」 

 

少年はこの数日間、地元の先輩や不良仲間たちと過ごし、酒も飲んでいたという。 

 

(松本さん)「そっちに戻りたいなら戻れや、半グレか反社か知らんけど。お前、変わりたいんちゃうんか?それとももう一回捕まりたいんか?」 

 

酔いが覚めた頃、少年の頭には松本さんの家族や会社の仲間たちの顔が浮かび、そこから帰る気になったという。 

 

松本さんは少年の謝罪を受け入れた。 

 

翌朝、少年は会社の仲間たちにも謝罪し、そのあといつも通り現場に出掛けた。 

 

 

加古川刑務所へ 

 

少年院を出て1年以上。この日、松本さんは少年をある場所へと連れ出した。兵庫県にある加古川刑務所。 

 

「松本商会」社長・松本和也さん 

 

若者たちの更生支援活動を続ける松本さんは、たびたび刑務所や少年院を訪れ、講話を行っている。今回は少年に今の気持ちを語らせようと、初めて連れてきた。 

 

受刑者たちからも次々に質問が 

 

講堂には50人近くの受刑者が集まり少年たちの話に耳を傾けた。 

 

(少年)「この1年で5回ぐらい飛んでるし、無断欠勤しまくっているにもかかわらず、まだ働かせてもらってるんで。最近やっと気付いてきた感じなんですけど、ホンマに仕事で変われるなって、最近めっちゃ思うんですよ。」 

 

緊張した面持ちで心境を語る少年。受刑者たちからも次々に質問が飛んだ。 

 

「松本商会」での業務にあたる少年 

 

(受刑者1)「(刑務所)出てからどういう扱いを受けるか不安なんで。」 

(受刑者2)「どこかで遊んじゃうんじゃないかなって気持ちがあるんですが。」 

(松本さん)「それ、今の彼ですよ。」 

(少年)「僕もめっちゃ遊びたかったし、今も遊びたいし。でも僕は親を頼れないんで、社長しか頼れなくて。だから困ったときはすぐ連絡するし、何があっても連絡するんで。僕はまだ更生できてるかわかんないですけど、頑張ります。」 

 

講話の感想を聞くと。 

 

(少年)「正直自分がああやって座っている側(受刑者)にはなりたくないなって思いました、やっぱり塀の中は高いですね。」 

(松本さん)「彼は時間がかかるの分かってます、でも僕とおる限り絶対あっち側には行かせへん。この子はあかんやろうって言うのは簡単です、でもチャンスを与えなかったらまた悪いことをする、反省は1人でできるけど更生は1人じゃできないんです。だから僕はこいつとガッチリおるんです。」 

 

少年はこれからも松本さんの伴走を受けながら更生を目指していく。 

 

「報道特集」瀬戸雄二ディレクター 

 

長年、非行少年の取材を続ける中でいつも感じることは、彼らは自分一人の力でこうなったわけではないということだ。生まれながらの家庭環境で、目の前にいた大人たちの影響をまともに受けて非行に走っているということだ。 

10代という多感な時期に、親から引き受けを拒否され、行き場を失った少年の心境は察するに余りある。もし自分だったらどうだろう。腐らずに踏ん張ることができただろうか。我々大人たちが自分ごととして考えなければ、再非行防止には繋がらない。 

少年院に入るレベルの少年たちは不器用で感情表現が苦手なうえ、人の気持ちを理解する力も乏しい。非行に走る理由は本人の能力的な問題もあるが、それ以上に愛情をかけて育てられてこなかったことに大きな原因があると思う。 

松本商会に拾われた少年は寂しがり屋で愛情にも飢えていた。それを見透かされないように虚勢を張り、悪いことをして気持ちを満たしていた。失踪して戻ってきた時、彼は松本さんの家族の前で「自分で自分のことが分からない」と言っていた。頑張りたくても頑張れない、自立したくてもどうしていいかわからない、彼が発した言葉は心の叫びのように私には聞こえた。少年たちが抱える生きづらさや孤独感をもっと理解しないといけない、そう強く思った。 

 

※この記事は、TBSテレビとYahoo!ニュースによる共同連携企画です。 

 

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