( 266246 )  2025/02/16 17:21:15  
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我が国の財政運営は、このままではこの先、何かのきっかけで、いつ何どき、行き詰まってもおかしくない状態にすでに陥っている。しかも、1,104兆円(2024年度末の普通国債残高の見込み)という天文学的ともいえる借金の大きさと、歴史上かつて体験したことのない厳しい人口減少がもたらす国力の低下を鑑みれば、ついに「行き詰まった」ときに起こる事態は、我が国自身が第二次世界大戦の敗戦直後に経験した苛烈な国内債務調整に匹敵するものにならざるを得ない。 

 

静かに迫り来る財政危機を何とかして未然に回避し乗り切るために、私たちはいま何ができるのか。財政政策と中央銀行の金融政策に精通した日本総合研究所主席研究員の河村小百合氏と前参議院予算員会調査室長の藤井亮二氏が協力して取り組んだ『持続不可能な財政』では、危機的な状況にある日本の財政の現状と再建のための解決策の具体的な選択肢にはどのようなものがあるのかを真っ正面から論じている 

 

(*本記事は河村小百合+藤井亮二『持続不可能な財政』から抜粋・再編集したものです) 

 

公的年金制度は国の年金特別会計によって経理されています。公的年金制度の財政構造を見ておきましょう。 

 

年金特別会計の主な収入は自営業者やフリーランスなどの第1号被保険者が納める保険料と、会社員・公務員などの第2号被保険者と雇用主とが折半して負担する保険料です。その他にも税金を財源とする国の一般会計による国庫負担、積立金の運用収入なども収入としています。特別会計の中では国民年金と厚生年金はそれぞれ区分して経理されています。国民に共通する基礎年金部分には国の財政資金が入れられています(図表3-2-5)。 

 

年金制度を100年安心にするために2004年の改革で、基礎年金部分の国庫負担をそれまでの3分の1から2分の1に引き上げることになりました。その結果、国民の保険料負担が抑えられた反面、国の財政への依存が高まっています。仮に国の財政が縮小されて国庫負担が3割削減されたらどうなるのでしょう。 

 

2024年度一般会計の社会保障関係費37.7兆円のうち、年金給付のために13.4兆円が計上されています。第2部で述べたように、財政運営が行き詰まるのを回避するために年金給付のための一般会計予算を3割(4.0兆円)削減しなければならなくなったら、基礎年金の財源である国庫負担分といっしょに、現行制度では保険料財源も減るので、給付される国民年金6万8000円(月額)は3割カットされて、月額4万7600円になります。厚生年金(老齢基礎年金を含む)の1人当たり給付額11万5242円(図表3-2-3)は、基礎年金分の2万400円が減らされて9万4842円になります。 

 

国の予算が減らされたからといって年金給付を削られるのはたまらないというのであれば、毎月の保険料負担を増やして財源を確保するしかありません。国庫負担を減らした分を保険料で賄うとすれば、国民年金給付(月額)6万8000円のうちの保険料財源分3万4000円に国庫負担が削減された分を補う1万200円を加えて、保険料財源分を4万4200円に引き上げることになります。これは従来の保険料の1.3倍の負担増です。1.3倍ということは、国民年金保険料1万7000円(2004年度価格)は2万2100円になります。厚生年金保険料は標準報酬月額30万円であれば、保険料5万4900円が7万1370円に増えます(図表3-2-6)。 

 

2022年6月26日に自民党の当時の茂木幹事長がNHKの番組・日曜討論で、「消費税率10%を引き下げるとなると年金財源3割をカットしなければいけない」と発言して批判されました。消費税の税収30.2兆円のうち国分は19.2兆円、地方分が11兆円です(2024年度当初予算)。仮に消費税率を10%から5%に引き下げると国の取り分は9.6兆円減ります。消費税はすべて社会保障の費用に充てられているので、消費税収が9.6兆円減ると社会保障の費用33.4兆円のうち3割も失われます。茂木幹事長の「消費税を引き下げると年金財源を3割カットしないといけない」という説明は、あながち根拠がない数字ではありません。減税すれば財源がなくなるので、国民の生活に影響が出るのは必至です。 

 

年金財政に対する国の財政支出が削られれば、年金給付額をカットされるか、または従来通りの給付水準を確保するために保険料負担の大幅な増額を受け入れるかの選択しかありません。あるいは年金給付額の切り下げと保険料の引き上げの両方を受け入れるしかないのです。負担増を避けて受益だけを期待することはできません。 

 

本記事の抜粋元である『持続不可能な財政』(講談社現代新書)では、いつ何が起きても不思議ではないほど、危機的な状況にある日本の財政の現状と再建のための解決策をさらに詳しく解説しています。ぜひ、お手に取ってみてください。 

 

河村小百合による、『日本銀行 我が国に迫る危機』(第45回石橋湛山賞受賞)も好評発売中! 

 

藤井亮二、河合小百合 

 

 

 
 

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