( 266296 )  2025/02/16 18:17:22  
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1月26日には石破茂首相との対談動画を配信し、大きな話題となった。石破氏は首相に就任する前から何度も登場していた(画像:YouTube「ReHacQ−リハック−【公式】」より) 

 

 政治が動くとき、ひときわ注目を集めるメディアがある。YouTubeで配信を行う、経済動画メディア『ReHacQ』(以下、リハック)だ。 

 

 話題となる選挙が続いた2024年、SNSを中心とした「ニューメディア」が世論を動かしたとたびたび報道され、いわゆる新聞やテレビなどの「オールドメディア」との対立構造が語られるようになった。 

 

 「リハック」は、そのニューメディアの先鋒とも評される。特に注目を浴びたのは、東京都知事選での石丸伸二氏や、衆議院選の玉木雄一郎代表率いる国民民主党、兵庫県知事選で再選した斎藤元彦氏などが大躍進を遂げたときだ。 

 

 これら渦中の人物は、選挙前後で『リハック』に出演し、大きな話題を集めた。いや、それどころか同メディアへの出演が追い風となったかのように世間はとらえた。 

 

■突き詰めて考えていくと「政治」に行き着く 

 

 これは“狙って”していることなのか?  しかし、同メディアのプロデューサー・高橋弘樹さんはさらりと言う。 

 

 「出演者の皆さんが真摯に語っていただける場を作りたいと考えているだけです」 

 

 実は高橋さんは、テレビ東京『家、ついて行ってイイですか?』をヒットさせた元・名物テレビマン。ゴリゴリの“オールドメティア出身”のプロデューサーである。テレビの世界からウェブメディアの世界に転身を果たしたヒットコンテンツメーカーが、現代におけるメディアの役割について語った。 

 

 「本格的な経済を、楽しく学ぶ!  ビジネスのスキルを、しれっと学ぶ!  社会や人生を、もう一度違う角度から見つめ直してみる!」をテーマに動画配信を続けている『リハック』。 

 

 2021年から約2年間運営されていた『日経テレ東大学』の後継メディアとして2023年3月に開設され、YouTubeのチャンネル登録者数134万人(2025年2月14日現在)を誇る人気チャンネルだ。 

 

 「実は、『日経テレ東大学』を制作していた当初は、テレビ屋の驕りのようなものがあって、なかなかうまくいきませんでした。僕は番組ではなく、“メディア”を作りたいと思っていたんです。ただ、YouTubeでは“メディア感”を出すのって損なんですよね。当時は特に、何かに特化したコンテンツのほうがウケていました。でも、YouTubeを研究しながら、あえてそのアンチテーゼでコンテンツを作っていました。 

 

 

 その後、『日経テレ東大学』が終了し、背水の陣でテレビ東京をやめてYouTubeに専念すると、次第にコツをつかんでいきました。『リハック』では、テレビ局のコンテンツ作りのノウハウを維持しつつ、YouTubeならではのスピード感も大事にしています。 

 

 退社後に自分で立ち上げた会社でチャンネル運営をしているので、意思決定がスピーディーになりました。今は外注も含めて20〜30人体制で制作しています」 

 

■“泡沫候補”を取り上げる理由 

 

 『リハック』といえば、先述した通り、話題となった選挙の各候補者へのインタビューや公開討論会を配信してきた。その際、高橋さんはMCを務めることも多いが、どの候補者にも等距離で接して場を仕切っている。思想やイデオロギーがにじみ出ているメディアもある中で、高橋さんのスタンスは異質かもしれない。 

 

 「僕も有権者なので自分なりの考えはありますけど、メディアを運営するうえでは極力消しています。右にも左にも偏らず、なるべくフラットに近づけるように等距離で話を聞いているつもりではあります。ただそういったスタンスでいろいろな人の話を聞くのは本当に難しい。政治は主義主張があるところなので、全陣営から叩かれる危険性があるんですよ」 

 

 経済や学術にスポットを当てたビジネスパーソン向けの動画を多数配信している『リハック』だが、特徴的なのは多くの政治家が出演していることだ。自民党総裁選で勝利した石破茂氏も出演している。なぜ政治家をキャスティングすることが多いのか。 

 

 「経済について突き詰めて考えていくと政治に行き着くんです。たとえば、株価や金利について考えていくと政策にぶち当たるので、当事者である政治家の皆さんに考えを聞くことはとても大事なことだと思っています。自民党総裁選だけでなく、立憲民主党や国民民主党の代表選も取り上げましたし、幸いなことに主要政党の皆さんとお付き合いいただけるのでありがたいです」 

 

 

 さまざまな政治家が登場する中でそうした中でも高橋さんが印象に残っているのは、”泡沫候補”と呼ばれる、当選する見込みが低い選挙立候補者たちへのインタビューだという。 

 

 「世間から見たら“色物”に見られるし、実際に色物もいるんですけど(笑)、”泡沫候補”と呼ばれる方が政治に興味を持った動機ってやっぱり興味深いんですよ。普段夜勤しながら昼は政治活動をしている、といった方の想いや政治を志した理由を聞けるのは意味があると思います。テレビはあまり取り上げない”泡沫候補”のほとんどは無風かもしれないけど、そこから何か新しいことが起こる場合もあります。実は、東京都知事選の石丸さんも最初は”泡沫候補”でしたから」 

 

■僕はジャーナリストではなく「演出家」 

 

 政治を扱うことに対する動機は、「ジャーナリズムではない」と高橋さんは言い切る。現在、『リハック』が注目されている理由の1つに、従来の編集されたメディアとは異なり、出演者の“生の声”や、表情など言語外の情報をそのまま伝える点がある。 

 

 「僕はジャーナリストではなくて、基本的に演出家なんですよ。演出というのは僕の中では『物事の魅力を引き出す技術』なんです。なぜ僕が演出家を名乗るのかというと、取材対象者の魅力を引き出すというところに主眼を置いているから。相手を深掘りすることでリアルな魅力を引き出したい。インタビューする際には、『なぜ隠すのか』『なんでこれを言わないんだろう』と引っかかることについては、必ず『なぜ?』と聞いています。そうすることで相手の本音を引き出したいんです」 

 

 出演者の本音を引き出すために、高橋さんは長時間にわたって相手の言い分を聞く姿勢にこだわっている。それはジャーナリストではなくディレクター目線で相手の考えを理解し、聞き出そうとする高橋さんの「傾聴力」がなせる業かもしれない。 

 

 「もちろん出演者には本音を言ってほしいですけど、誰だって言えることばかりではない。どうしても言えない事情があるのかもしれません。でも、たとえ何も話してくれなかったとしても、その苦渋の表情や、話せない理由を伝えることが必要だと考えています。 

 

 

 そこで嘘を言ってもいいんです。それに、嘘かどうかは表情を見ればわかりますよ。その一挙手一投足を、映像記録として残しておくことが大切かなと思います」 

 

■すべてを否定することは社会にとってマイナス 

 

 「あまり何かを批判するタイプではない」と語る高橋さんだが、2024年12月8日に神戸新聞が報じた記事には、めずらしく憤りを感じたという。 

 

 兵庫県知事選における斎藤氏の再選を振り返る記事だったが、そこに掲載された図の中で「斎藤氏関連動画」として『リハック』が紹介され、あたかも斎藤氏を応援しているメディアだと受け取られかねない報道をされたのだ。 

 

 高橋さんは自身のXや『リハック』で「事実と異なる」と主張した。 

 

 だが、神戸新聞の今回の記事に関しては批判をしているが、神戸新聞のすべてを否定しているわけではない。 

 

 「今、オールドメディアだ、ニューメディアだ、と批判する流れがありますが、その際には『今回のこの件については間違っている』『記事のこの部分はよくない』と修飾語をつけることが大事ではないでしょうか。一概に『このテレビ局がダメ』『この新聞がダメ』と断じたり、テレビや新聞のすべてを否定することは社会にとってマイナスかなと思います。 

 

 視聴者のコメントや批評はもちろん自由ですが、きちんと1次情報に触れたうえで、解像度を高く論評していくことが大事ですよ。SNSでもマスメディアでも、中身を見ないで論評しているものが飛び交っているような気がします」 

 

 日々激化する、オールドメディアへの批判的な視点。2024年末から騒動となっている中居正広さんの問題についても、「テレビや新聞はきちんと報じていない」といった批判が集中した。 

 

 『リハック』を運営し、ニューメディアの旗手として注目される高橋さんは現在、オールドメディアについて、改めてどのようなスタンスでとらえているのだろうか?  

 

 「僕はテレビや新聞が全部ダメだとは思わないですし、やはりマスメディアはきちんと取材し、報じてくれていると思っていて、リスペクトもしています。ただそれらが見落としているところや世間で抱かれている違和感を『リハック』では取り上げたいと思っているだけなんです」 

 

■メディアは相手の「本当の魅力」を引き出す装置 

 

 古巣でもあり、現在も制作プロダクションとして関わることのある「オールドメディア」。そこに敬意を持ちながら、動画配信の世界でも生きる高橋さんには、『リハック』で目指すメディア像があるという。 

 

 

 
 

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