( 266611 ) 2025/02/17 15:29:10 0 00 女性差別撤廃委員会の対面審査が行われたジュネーブの国連欧州本部
「近代国家として驚くべきこと」「性教育の文言が検閲されていると聞く」
(写真:47NEWS)
2024年10月、「世界の女性の憲法」と呼ばれる女性差別撤廃条約に照らし、日本の法制度や政策を審査する女性差別撤廃委員会の会合がスイス・ジュネーブの国連欧州本部で開かれた。冒頭の言葉は日本の状況を知った委員がその席上で発したものだ。
2024年に世界経済フォーラムが発表したジェンダー・ギャップ報告では、146カ国中118位―。近年、下位に甘んじている日本。「周回遅れ」から抜け出せないのはなぜなのか
会合を経て、委員会は課題の改善を厳しく指摘する勧告を出した。衆院選でも話題になった選択的夫婦別姓のほか、人工妊娠中絶、皇位継承を男子に限る皇室典範などが対象になった。ジュネーブでの議論と勧告内容、さらに当事者の声から、ジェンダー平等に向けた日本の今を探る。(共同通信=村越茜、松本智恵、小川美沙) ※筆者が音声でも解説しています。「共同通信Podcast」でお聴きください。
▽世界の大きな潮流の中で
「センター・フォー・リプロダクティブ・ライツ」のホームページ
【勧告】刑法を改正し、中絶を「非犯罪化」せよ。中絶の配偶者同意要件は撤廃し、経口薬を含む中絶や緊急避妊薬などへのアクセス改善を
「本当でしょうか。近代国家として、巨大な経済を有する国の一つとして、非常に驚くべきことです」。2024年10月17日、ジュネーブ欧州国連本部の会議室で、委員の1人が目を見開き信じ難いというような表情を浮かべた。直前には日本のこども家庭庁の担当者が、人工妊娠中絶に関する母体保護法の規定で、死亡や行方不明の場合を除き原則として夫の同意が必要とされると説明した。
「私の体のことは私が決める」との言葉が象徴するように、中絶を女性の基本的権利と位置づけるのは世界の大きな潮流だ。国際団体「センター・フォー・リプロダクティブ・ライツ」によると、30年間で60以上の国や地域が中絶を自由化するために法改正を行った。フランスは2024年、中絶の自由が将来的にも脅かされないよう、憲法に明記した。
「#なんでないのプロジェクト」の福田和子代表
しかし日本では明治以来の「堕胎罪」がいまも有効だ。中絶は「経済的理由」がある時など、一定の条件下で認められているだけ。配偶者の同意を求めるのは、日本以外にはサウジアラビアやトルコなど少数派だ。委員は「最低でもこの同意要件をなくすことは検討できないのでしょうか」とも質問したが、政府の担当者は「個人の倫理観や道徳観に深く関わる」などと見通しすら答えなかった。
▽背中押された
中絶や避妊方法の選択肢の少なさも大きな課題となっている。2023年に承認された経口中絶薬は提供する医療機関は少なく、費用も高額となっている。世界保健機関(WHO)の必須薬品に指定されている避妊インプラントや避妊注射などは日本では認可されておらず、緊急避妊薬すら一部薬局での試験販売の段階だ。
性情報を発信する「
」の福田和子代表は「避妊や中絶は女性が自分の人生を考える上でなくてはならない権利なのに、ずっとないがしろにされてきた」と憤る。福田さんはジュネーブで審査を傍聴した。福田さんらが事前提出したレポートの内容を踏まえ、委員が熱心に質問する姿に、「声を上げていい」と背中を押されたと感じたという。
国連女性差別撤廃委員会の日本の女性政策を審査する会合
▽4人に1人「不十分」
【勧告】若年妊娠や性感染症予防のため、年齢に応じた包括的性教育を。内容は政治家らの干渉を受けないようにする
「(性教育の)文言は検閲され、3時間しか配分されていないと聞く。ひどい状況との指摘もあります」。ジュネーブでの審査中、委員の1人がこう切り出した。
日本では中学の学習指導要領で「妊娠の経過は取り扱わない」とする歯止め規定が存在し、性交や中絶については教えてはいけないと考える教員も多い。性知識の普及に取り組む団体は、「子どもたちが無防備な状態で妊娠や性暴力のリスクにさらされている」と危惧する。 中高生らからも具体的な知識が必要との声があがる。公益財団法人「プラン・インターナショナル・ジャパン」の若手組織「プラン・ユースグループ」が2021年、全国の15~19歳の男女約千人にこれまで受けた性教育の印象を複数回答で尋ねると、4人に1人が「内容が不十分」と答えた。
性知識の普及に取り組む「ピルコン」の染矢明日香代表は「ネット上には性に関する情報があふれている。だからこそ、科学的根拠に基づいた正しい情報を学校で教えることが必要だ。大きな弊害となっている歯止め規定をなくしてほしい」と強調する。 染矢さんも導入を求める包括的性教育は、国連教育科学文化機関(ユネスコ)が提唱している。性や生殖に関する自己決定が適切にできる知識を身につけ、人権やジェンダー平等を核に性的同意やパートナーを尊重する大切さなどを幅広く学ぶものだ。
▽「マイノリティ女性」交差的差別への対処を
【勧告】性同一性障害特例法を遅滞なく改正し、不妊手術を受けなければならなかったすべての被害者が賠償を受けられるようにすること
女性差別撤廃委員会はマイノリティの人々が直面している交差差別への対処も求めている。交差差別とは、性や出身、人種、障害の有無といったさまざまな違いに対する差別が絡み合ったもので、被害もより深刻なものになりがちだ。今回の勧告は、日本の最高裁が2023年、性別変更を認める要件として生殖能力をなくす手術を要求する性同一性障害特例法の規定を「違憲」としたことを挙げ、この判決の内容を実施することを求めた。
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