( 266719 )  2025/02/17 17:27:41  
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都市部の公共交通機関で、優先席の利用に関する調査結果に基づいて、優先席に座る際の乗客の心理や影響について考察されています。

優先席は高齢者や障がい者などに配慮したものですが、実際には誰でも座ることができ、座ることで生じる心理的負担があることが指摘されています。

特に、席を譲る意識が強い人ほど、優先席を避ける傾向があるという負のサイクルが示唆されています。

そのため、優先席の利用に関する新たな視点が必要であり、社会全体での取り組みが求められていると言われています。

(要約)

( 266721 )  2025/02/17 17:27:41  
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優先席(画像:写真AC) 

 

 都市部の鉄道やバスでは、乗客の行動には一定の規範意識が働いている。なかでも、座席の利用に関する無意識のルールは興味深い。「席を譲る人は、そもそも優先席に座らない」という説を耳にすることがあるが、これは本当に当てはまるのだろうか。 

 

 本稿では、最新の調査結果をもとに、この疑問を掘り下げ、公共交通における乗客心理の深層と、それが鉄道事業者や社会全体に与える影響について考える。 

 

優先席(画像:写真AC) 

 

 わかもと製薬(東京都中央区)が2023年9月に実施した調査によると、1949人を対象に「電車に乗った際、優先席に座ることがあるか」と尋ねたところ、66.9%が「座ることがある」と回答した。 

 

 その理由としては、 

 

「その席を必要とする人がいたら譲るつもり」 

「席が空いているのに立っていると邪魔になる」 

「高齢だから」 

「その席しか空いていないから」 

「疲れているから」 

 

といった意見が挙がった。 

 

 この結果から、「優先席 = 特定の人だけが座るもの」という固定観念よりも、「状況によって誰でも座ることがある」という考え方のほうが一般的であることがわかる。 

 

 ただし、この調査では「席を譲る意識がある人が優先席を避けるかどうか」までは明らかになっていない。実際には、次のような心理的要因が働く可能性がある。 

 

 一般的に、席を譲る人は他者への配慮ができる人であり、周囲の状況を把握する能力が高く、社会的なルールを重視する傾向がある。こうした人々が優先席を避けるとしたら、どのような理由が考えられるだろうか。 

 

 まず、「自分は対象者ではないのに座るのは気が引ける」という心理的抵抗がある。次に、 

 

「座った以上、譲る準備をしていなければならない」 

 

というプレッシャーを感じることもある。さらに、そもそも優先席に近づかないことで、「譲る・譲らない」の葛藤自体を避けるケースも考えられる。 

 

 つまり、「譲る意識が高い人ほど、優先席を避ける傾向がある」という仮説には、一定の合理性があるといえる。 

 

 

優先席(画像:写真AC) 

 

 優先席は本来、高齢者や障がい者、妊娠中の人など、席を必要とする人のために設けられている。しかし、実際には空席があれば誰でも座ることができる。 

 

 重要なのは「優先席に座ることで生じる心理的負担」だ。「本来座るべき人が来たら譲らなければならない」というプレッシャーや、周囲の視線を意識し道徳的な評価を気にする感覚、必要な人が現れたときにすぐ立てるようリラックスできない状態などが挙げられる。 

 

 特に、譲る意識が強い人ほど、こうしたプレッシャーを敏感に感じやすい。その結果、優先席を避ける傾向が生まれる可能性がある。また、「譲る場面そのものを避ける」という選択も合理的な行動といえる。他者に親切にする意識があっても、余計なストレスを背負いたくないという心理が働くことも考えられる。 

 

 とはいえ、席を譲る意識がある人が優先席に座ることがまったくないわけではない。例えば、混雑していて他の座席が埋まっている場合や、短距離移動でありすぐに立つ前提で座る場合、優先席であっても明確な対象者がいないと判断した場合などがある。 

 

 ラッシュ時には「誰もが座れる座席」として優先席を利用することもあり、この場合、譲る意識がある人も座る。ただし、「譲る準備をしている」という前提で行動していることが多い。また、短距離移動では「すぐ降りるなら座っても問題ない」と考えることもある。これは「席を長時間占有することへの罪悪感」とのバランスを取る行動といえる。 

 

優先席(画像:写真AC) 

 

 乗客の行動は鉄道事業者にとって重要な要素だ。優先席の利用に関する心理的バリアは、座席の非効率な利用や混雑緩和への影響、企業イメージや利用者満足度の変化といった問題を引き起こす可能性がある。 

 

 優先席を避ける人が多いと、必要な人が現れるまで空席が生まれやすくなる。一方で、譲る意思がない人が座り続けるケースも増え、結果的に座席の活用が偏る。優先席が十分に活用されなければ、立ち客が増加し、乗車定員の効率が低下する。これにより、鉄道の輸送力にも影響を与える。 

 

 また、優先席の「使いづらさ」が意識されると、鉄道事業者の評価にも影響し、快適性の低下につながる。乗客の心理だけの問題ではなく、輸送効率やサービスの質の観点からも重要な課題といえる。 

 

優先席(画像:写真AC) 

 

 調査結果と行動心理を踏まえると、「席を譲る人が優先席に座らない」という現象は、一定の心理的要因に基づいていることがわかる。ただし、これは絶対的なルールではなく、環境の変化によって行動が変わる可能性がある。 

 

 公共交通の効率性と利用者の快適性を両立させるには、優先席のあり方を見直し、座席の使われ方について新たな視点を持つことが必要だ。 

 

 そして、それは「席を譲る人」だけの責任ではなく、社会全体で考えるべき課題といえる。 

 

作田秋介(フリーライター) 

 

 

 
 

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