( 266751 )  2025/02/17 17:59:45  
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「ポツンと一軒家」をどう考える?(写真:makoto.h/イメージマート) 

 

 石破茂首相が地方創生を再加速させようとしている。地方の発展が叫ばれる一方、人口減少という社会課題を抱える中、現実的には都市機能のコンパクト化も求められている。居住エリアの適正化はいかにして図られるべきか。不動産業界のプロが、コンパクト化進展の必要性を解説する。 

 

 ※本稿は『新・空き家問題』(牧野知弘著、祥伝社新書)より一部抜粋・再編集したものです。 

 

 (牧野 知弘:オラガ総研代表、不動産事業プロデューサー) 

 

■ 「ポツンと一軒家」はおもしろいが… 

 

 毎週日曜日の夜、テレビ朝日系列で放送される「ポツンと一軒家」という番組があります。タレントの所ジョージさんと、林修先生が日本中に点在する、周りには誰も住んでいないような一軒家に住む住民を紹介し、その生活ぶりをレポートするものです。 

 

 2018年10月からレギュラー番組になって以来、6年以上になりますので人気のある長寿番組と言えます。 

 

 テレビスタッフが車1台やっと通れるような狭い道を登っていく先に突然現れる一軒家。生活上の不便さはあるものの、自然環境に恵まれ、ほぼ自給自足に近い生活を送る姿は、特に都会に住む人たちから見れば、驚きと同時にその自由な生活ぶりにある種の羨望がある。そんなギャップも演出の肝になっています。 

 

 しかし、すこし見方を変えると、かなり山奥にあるポツンと一軒家にも、多くのケースで電気が引かれていることに気づきます。またアプローチする道はいちおう舗装され、小川には橋が架けられています。私道ではなく公共道路である限り何らかのメンテナンスが施されているはずです。 

 

 私の知人である霞が関の役人の1人は、「『ポツンと一軒家』は番組としてはおもしろいのだけど、ああいう生活をしている人を美化しないでほしい。だって彼らのために生活インフラを整えるコストは半端ない。できれば、山から下りてきて街に住んでほしい。正直、中山間地域のインフラをいつまで維持できるか本当に心許ない」と言います。 

 

 国土の均衡的な発展を是とする霞が関の役人でも、もはや「ポツンと一軒家」をおもしろいというだけの感想で観ることができなくなっているのが日本国の現状です。 

 

 

■ 「ポツン」ばかりでは自治体財政が持たない 

 

 現在、国では国民が住む場所を集約化しよう、という方針を掲げています。2014年8月に、都市再生特別措置法が改正され、立地適正化計画の策定を各自治体に求めるようになりました。 

 

 その趣旨は、人口減少、高齢化の状況を踏まえ、地域のなかで市街地、公共街区など拠点整備を行なったうえで、都市機能誘導地域、居住誘導地域を定めて、生活サービス機能の集約、地域に住む人々の集住を促進しようとするものです。こうした考え方をコンパクト化と呼びます。 

 

 地域内で際限なく広がってしまった人口を再び市街地に呼び戻そうという動きです。コンパクトにすると言うと、縮小均衡させるイメージが強くなってしまうのですが、逆の表現をすれば、人の密度を上げるということです。 

 

 1カ所に多くの人が集まると、そのこと自体は窮屈な話ですが、1つのサービスを短時間に狭い空間で一斉に提供できるメリットがあります。 

 

 仮にみんなが分散してポツンと一軒家だらけになってしまうと、1つのサービスを提供するのに多大なコストがかかってしまいます。現在各自治体は人口減少と、高齢化で稼ぐ人が減り、税収が落ち込んでいます。市民に均質なサービスを行なおうにも、居住エリアが広大だと、提供効率が格段に落ち込んでしまいます。 

 

 特に高齢社会になれば、介護や福祉といった人手を要するサービスが中心になります。市民を1カ所に集住させることで、適切なサービスを提供できます。 

 

 また民間レベルでも第3次産業であるサービス業は一定の範囲のエリアに一定の数の顧客がいることで、サービスが効率的に提供できます。ちなみにコンビニエンスストアが出店する際に基準となるのが半径500m圏内に3000人の商圏人口があることだと言われます。1haあたり40人くらいです。この程度の集住が実現できれば、少ない人数でも街としての運営ができるのです。 

 

 人が集住することで消費が生まれやすくなり、消費が活発化すれば新たな投資を呼び込むこともできます。人の出入りによって経済が循環することはこれまでにお話しした通りです。 

 

 また電気、ガス、水道、通信などのインフラ設備の整備もコンパクト化することによって維持管理コストの削減につながります。 

 

 今後はこれまで一生懸命整備してきた道路、橋といった公共施設も、老朽化にともなう改修、更新が課題になります。ほとんど誰も住んではいないが、ポツンとひとりだけが住んでいるがために、予算を振り向けなければならない事態を避けていかなければ、自治体財政を持たせることはできなくなっているのです。 

 

 

■ 人口確保のため、乱開発に手を貸す自治体 

 

 集住化を図るいっぽうで大切なことは市民の足、移動手段を確保することです。 

 

 コンパクトシティの代表的な事例である富山県富山市はLRT(Light Rail Transit)という次世代型路面電車システムを採用。市民が自由に外に出て移動ができる手段を用意しています。同じような試みは今、全国的な拡がりを見せています。  

 

 2023年3月末時点で立地適正化計画について具体的に取り組むことを表明した自治体は747都市におよび、そのうち568都市が計画の作成、公表を行っています。また作成、公表を実施した自治体のうち291都市で防災方針についても記載を行っています。 

 

 ただいっぽうで、立地適正化計画を提出して本格的なコンパクト化を進めなければならないにもかかわらず、多くの自治体で市街化調整区域という基本的には住宅の建設ができない地域においての宅地開発を認めている、あるいは推進しているというのが実態です。 

 

 都市計画法には開発許可制度の内容が定められていますが、この法律の第34条11号ならびに12号に、次のような記載があります。条文は面倒くさい書きぶりですので要約します。 

 

 11号:市街化調整区域であっても、市街化区域に隣接近接しているエリアで50棟以上の建物が連坦(続いて建っている)しているようなところであれば、環境保全などの制約がなければ建物を建ててもよい 

 

 12号:市街化調整区域であってもその土地に20年以上暮らしている6親等以内の家族がいて、自分はそこに居住しておらず当該地に家を建てたい場合は認められるケースがある 

 

 要は市街化調整区域の隣接、近接地であるとか、親戚が住んでいればかなりの確率で家を建てることができるということです。それどころか、人口維持を図りたい自治体のなかにはこの条文をかなり柔軟に解釈してむしろ宅地開発を幅広に認めているところが多いのが実態です。 

 

 何とか人口減少を止めたいがゆえに、都市計画なんぞはとりあえず無視して乱開発に手を貸す自治体が意外に多いのです。 

 

 

■ コンパクト化へ求められる厳格さ 

 

 また都市機能の誘導を図るために公民館やホール、美術館などのハコモノ建設することが目的化し、地域としてどんな生活スタイルを提唱したいのか、中心市街地に住んで市民は何をして生きていくのか、生活のソフトウェアに考えがおよばない自治体が多いようにも感じます。 

 

 コワーキング施設を用意すれば、都会からIT系技術者や若者がいっぱい来てくれるのでしょうか。地域としてどんな人材を呼び込みたいのか、コンテンツ作りに考えがおよんでいなければ、年寄りだけが集まって、「何だか味気ない、つまらないのう。元の場所に戻りたい、戻してくれ」になってしまいます。 

 

 またこうした誘導には市民の合意が大切であることは論を俟ちませんが、すべての市民の合意を得ることは合理的ではありません。むしろ年限を決めたうえで集約化を決めていく、多少強制力を持たせた方法でなければ絵に描いた餅になる危険性を秘めていると言えましょう。 

 

 そうした意味でこれまでの都市計画法で定められる居住地域の定義は、現代の実情に合わせて改変し、市街化区域の範囲を今よりも狭め、市街化区域以外の地域での居住を厳しく制限する方向にしなければ、コンパクト化の進展は遠い道のりとなるでしょう。 

 

牧野 知弘 

 

 

 
 

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