( 266771 )  2025/02/17 18:20:48  
00

(※写真はイメージです/PIXTA) 

 

相続税対策として生命保険を活用する方法は、多くの人にとって有効な手段の1つとされています。しかし、契約形態や対策内容によっては、逆に税金が予想以上にかかるリスクがあることをご存じでしょうか。本記事では、FP相談ねっと・認定FPの小川洋平氏が、生命保険を活用した相続税対策の落とし穴について解説します。 

 

佐藤栄子さん(仮名/81歳)は3年前に夫を亡くし(享年82)、ひとりでマンションに暮らしています。佐藤さんの夫は都内にマンションを持ち、金融資産も1億を超え、生前から「僕が死んでも苦労をさせない」と相続対策を行ってきました。死の10年以上前から終活として財産の整理を進め、具体的には生命保険の活用により金融資産の相続税を圧縮したのです。 

 

生命保険には相続税の非課税枠があり、「500万円 × 法定相続人の数」までは生命保険金には課税されません。ですので、佐藤さんは相続税の非課税枠を最大限使いながら、3,000万円の生命保険を契約していました。法定相続人が妻と3人の子供の4名であるため、2,000万円まで非課税で渡すことができ、1,000万円が課税対象となってきます。 

 

さらに、相続税の課税を減らすために基礎控除110万円ずつ、妻と子供たちにも生前贈与を行いました。夫は子供たちに渡したお金も、妻のために1,000万円ずつ妻に保険金が渡るように契約しておきました。夫の相続対策は万全……のはずでした。 

 

夫の死から3年が経過し、思わぬ事態が起きてしまったのです。 

 

佐藤さんのもとに税務調査の案内が届いたため、長女とともに税務署を訪れました。 

 

まったく身に覚えのなかった佐藤さんは確認程度で済むのだろうと、「このあとのお昼はなにを食べようか」などと長女と気楽な様子でした。しかし、税務署の職員から告げられた事実により、それどころではなくなりました。職員によると、佐藤さんが受け取った生命保険金1,000万円分が贈与税の対象になるというのです。 

 

 

生命保険は契約形態によって税金が異なります。今回のケースは以下のような契約形態でした。 

 

契約者:子供 被保険者:夫 受取人:妻 

 

ほかにも、以下の契約形態では相続税の課税対象となります。 

 

契約者:夫 被保険者:夫 受取人:妻   

 

以下の場合には一時所得とみなされます。 

 

契約者:妻 被保険者:夫 受取人:妻 

 

結果、妻が受け取った保険金3,000万円のうち約1,200万円もの税金を課されました。 

 

「どうしてこんなことに……」せっかく亡き夫が遺してくれたはずの生命保険金の多くを税金として納めなければならない現実になかなか納得ができません。「相続税を抑えるために、夫が準備してくれたはずなのに……。こんなことなら普通に相続したほうがよかったじゃない!」佐藤さんは「余計なことを……」と草葉の陰の夫を恨めしく思ってしまいました。 

 

今回のケースで課税されることになった原因は、生命保険の課税の関係を知らずに安易に契約してしまったことです。生命保険は相続対策に有効な商品で、遺産分割対策を行いつつ税金をお得に残すことができます。しかし、佐藤さんの夫の失敗は、できるだけ妻にお金を残してあげたいという想いから、子供たちに贈与したお金も妻を受取人とした保険に入れてしまったことです。 

 

そもそも、配偶者が相続した金額は1億6,000万円まで、もしくは法定相続分までであれば相続税は課税されません。そのため、わざわざ契約した生命保険によって、余計な税金を払うことにしてしまったのでした。 

 

税金の仕組みは大変複雑で、少し知識をかじっただけで自己流で対策をしてしまうと、今回のような大失敗をしてしまうことがあります。ネットの情報を鵜呑みにしたり、書籍などで調べても一部を読んで理解した気になったり、そうした人は意外と少なくありません。一人で安易に判断せず、相続税については税理士に確認しながら、自分にとって最善の対策を考えて実行していくことが必要です。 

 

また、生命保険の利用に限らず、さまざまな制度がありますので、自分に合った対策を選び、組み合わせて活用していきましょう。 

 

 

2015年の相続税法改正により、相続税の課税対象者は大幅に増加しました。 

 

国税庁の「令和5年分相続税の申告事績の概要」によると、令和5年(2023年)分における被相続人の数(死亡者数)は全国で157万6,016人であり、そのうち相続税の申告書の提出に係る被相続人の数は15万5,740人、割合にして9.9%とされています。課税割合は長期的にみると増加傾向にあります。 

 

そのため、相続税の負担を軽減するために生命保険や不動産の活用などを行う人も増えています。 

 

しかし専門家から意見を求めず安易に判断すると、行き過ぎた対策をしてしまうなど、かえって望まない結果を招くケースもあります。遺産分割や相続税の対策は、専門家の意見を聞きながら自分に合ったプランを考えていくことが重要です。 

 

小川 洋平 

 

FP相談ねっと 

 

CFP 

 

小川 洋平 

 

 

 
 

IMAGE