( 267019 )  2025/02/18 06:01:14  
00

石破首相が日米首脳会談で一定の評価を得たが、筆者は彼を批判し、経済を重視せず既得権益を優先していると指摘している。

石破首相はトランプ大統領との会談で振り付け通りに対応し、日米安全保障や経済関係の重要性が再確認された。

しかし、経済成長を促進する政策が不足しており、税制改革や民間企業の対外投資を促進する必要があると指摘されている。

また、現政権の消極的な姿勢や金融市場の動向についても懸念が表明されている。

(要約)

( 267021 )  2025/02/18 06:01:14  
00

日米首脳会談で一定の評価を得た石破首相。だが筆者は「経済を重要視せず、既得権益を重要視している」と手厳しい(写真:ブルームバーグ) 

 

 石破茂首相とアメリカのドナルド・トランプ大統領が初の首脳会談を2月 7日に行った。 

 

■振り付けどおりに対応した石破首相 

 

 共同宣言では日米関係の「新たな黄金時代」を追求すると謳うなど、会談は友好的なものであったとされている。 

 

 周到な事前準備にそって石破首相が「振り付けどおり」に対応したことで、日米の安全保障、経済関係が従来から変わらないことが改めて確認された。トランプ大統領が安倍晋三元首相との信頼関係をあえて述べたことに、石破首相が何を感じたかはわからないが、とりあえずは日米間の外交儀礼が無事に行われたということだろう。 

 

 すでにトランプ大統領は、カナダやメキシコなどに対して関税引き上げを突き付け、またパナマや中東地域などへの圧力を強めていた。こうした中で、トランプ政権は「日本との関係はこれまでどおりでおおむね良い」と現時点では認識しているとみられる。 

 

 石破首相から「対米投資残高を1兆ドルに引き上げる」との考えを示したが、対米直接投資の金額は、アベノミクスが発動された2013年度以降増え続けており、すでに約8000億ドルに達している。 

 

 これらのほとんどが民間企業による投資だが、日本企業によるアメリカへの直接投資がこのまま増えれば、今後2〜3年で十分実現できる水準である。 

 

 つまり、トランプ大統領への約束は、すでに公表されているソフトバンクグループによる大型投資などを前提に、日米関係を保つために事務方が用意したレトリックであり、これを実現するための政策発動は不要だろう。 

 

 もっとも、民間企業がリスクを伴う対外投資を順調に増やすには、日本の経済成長が順調に高まることが前提条件になる。具体的には、GDP成長率を高めて、2%の安定的なインフレを完全に実現することだ。ただ、これまで石破政権から、これを後押しする政策発動は実現していない。 

 

■最小限の税制改正にさえ消極的な政府の姿勢は理解不能 

 

 そもそも、2024年度の日本経済について、日本銀行の審議委員は2024年1月時点で1.2%の経済成長を想定していた。 

 

 実際には、2023年後半から個人消費の不調を背景に経済成長にブレーキがかかり、2024年度の経済成長率は0.5%に下方修正されている。2月17日に2024年10〜12月期のGDP統計が発表されたが、同期の個人消費はほぼ横ばいと停滞しており、今後、GDP予想はさらに下方修正される可能性がある。 

 

 

「円安批判を忖度した日銀の利上げは間違っている」(2月3日配信)で述べたように、2024年7月の日銀による追加利上げを経て、経済成長の停滞が続いているのが実情である。 

 

 しかも、日銀は「人手不足の深刻化」という論理転換によって、成長が停滞する中で2回目の追加利上げを2025年1月に行った。この判断は極めて危ういと筆者は考えているが、日銀は追加利上げに前のめりな姿勢をまったく変えていないとみられる。2024年7月11日に最高値を更新してから日本株市場がやや下げ基調となっているのは、日銀の政策姿勢が根本的に変わったことを株式市場が警戒しているためである。 

 

 その後、2024年10月の「まさかの石破政権誕生」に日本株市場は再び失望した。石破首相らは「経済は重要」と口では言うが、停滞している個人消費をささえるために、「手取りを増やす」として躍進した国民民主党の政策を完全には受け入れないとみられる。 

 

 国民民主党の政策は、ブラケットクリープ(インフレによる物価上昇で、賃金上昇よりも所得税額がそれ以上の比率で上がり、実質所得が目減りする現象)対応の観点から生じる必要不可欠な税制の見直しにすぎず、これが実現しない事情を、筆者は理解できない。 

 

 邪推かもしれないが、税金に依存する官僚組織や既得権益のほうが、石破首相にとって重要なのかもしれない。トランプ政権は、政府効率化省(DOGE)を創設することで、肥大化しているという認識のもと、公的部門の役割を見直す対応を行っている。これと同時に減税政策の実現を目指しているわけだが、石破政権はトランプ政権の政策姿勢を見習う余地があるだろう。 

 

■金融市場の警告を無視するなら日本経済の停滞が続く 

 

 石破政権は、「地方創生」を重視している。具体的な政策は曖昧であり、地方政府への税金を通じた所得移転が実現する見込みである。日本国全体の国益よりも、自らの権益者への配慮が優先されるのは時代錯誤としか言いようがないが、それを後押しする政策が実現しつつあるわけだ。それゆえに、減税を求める多くの日本国民の声が届かないのだろうか。 

 

 

 日本経済がデフレに戻るリスクは限定的と、筆者は現時点で考えている。ただ、既得権益への配慮に政治家が注力する一方で、保守的な経済官僚が金融財政政策の主導権を握れば、1990年代半ば以降のように再び日本経済が停滞するシナリオは十分ありうる。 

 

 石破首相らのこれまでの発言を踏まえると、悪夢の展開を懸念せざるをえないわけだが、経済成長停滞が続けば、トランプ政権から今後強まるだろう、さまざまな負担の要求に対応することは難しくなる。 

 

 2025年になって、欧州株が大きく上昇する一方で、日本株市場は年初からやや下げた水準で停滞している。日米首脳会談は成功して、石破首相らは安堵しているのかもしれない。ただ、最近の金融市場のシグナルを、石破政権を支える政治家が軽視し続けるなら、日本経済の停滞は2025年も続くだろう。昨年の夏場からレンジが続く日本株市場が再び高値に向けてトライするのは難しい、と筆者は予想している。 

 

 (本稿で示された内容や意見は筆者個人によるもので、所属する機関の見解を示すものではありません) 

 

村上 尚己 :エコノミスト 

 

 

 
 

IMAGE