( 267516 )  2025/02/19 14:42:33  
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江藤拓農林水産相 

 

 ついに放出されることになった備蓄米。もちろん焦点は「これで価格は落ち着くのか」だが、昨年8月の「令和の米騒動」と、それに続くコメ価格の高止まりを招いたものは何だったのか。その背景をたどってみると――。 

 

 *** 

 

 現在スーパーなどで売られているのは主に2024年産のコメである。その生産量は前年より18万トン増えたものの、JA全農などの集荷業者が買い集めたコメは前年より21万トン少なかった。 

 

 果たして消えた21万トンのコメはどこに行ったのか。それについて江藤拓農水相は、 

 

「どこかにスタック(滞留)していると考えざるを得ない」 

 

 などと会見で述べている。 

 

 この点、坂本哲志元農水相に聞いても、 

 

「今まで買わなかった人たちがどんどん買い出した。投機の対象になってしまった、と。流通で不透明な部分があった。それを私たちが判断できず、これまでずっと高値が続いてきたのだと思います」 

 

 やはり同様の認識を示すのだ。実際、中国人までもがコメの買い付け競争に参入している、などと報じたメディアもあったが、 

 

「21万トンが全てそうした原因で不足している、というのはどう考えても説明がつかないと思います」(大手卸関係者) 

 

 さる集荷業者も、 

 

「転売で儲けようとしているのは一握りに過ぎません。一般の集荷業者はコメの在庫がなくなることが一番怖いので、普段10持つところを11持つ。その積み重ねです。保管場所も必要ですから、大量に抱え込むなんて普通の業者にはできません」 

 

 として、こう指摘する。 

 

「消えた21万トンの多くは“先食い”した分だと思います」 

 

“先食い”とは一体どういうことか。 

 

「令和の米騒動」でスーパーからコメが消える直前、 

 

「昨年7月末の民間在庫量は82万トンでした」 

 

 と、元農水官僚でキヤノングローバル戦略研究所研究主幹の山下一仁氏は言う。 

 

「23年9月にできた新米は10月から翌年9月まで食べることになります。だから7月末というのは端境期ですが、在庫量82万トンは空前の少なさです。前年と比較して40万トンも足りていません。1カ月分の流通数量は45万トンくらいですから8月9月の流通量を賄えないレベルの在庫量だったのです。不作になると大変でした」 

 

 そこで起こったのが先食いである。 

 

「コメが足らないので、24年産のコメで収穫されたものを先食いしたわけです。これによって今度は24年10月から25年9月までに供給される量がその分だけ減少します。その証拠に、24年11月、12月の民間在庫は前年同月と比べてそれぞれ43万トン、44万トン減っています」(同) 

 

 農水省は24年産のコメの農協など主要業者の集荷量が前年より21万トンも少なかった原因について、 

 

「前年比で生産量は18万トン増えているのでコメは不足していない。21万トンは業者が買い占めている、と言っていますが、この40万トンの先食い分を無視しています。単純にコメが足りていないだけなのです」(同) 

 

 

「週刊新潮」に寄稿した記事〈2025年も市場の“奪い合い”激化でコメ不足が起きる〉(1月2・9日号)で現在の状況を“予見”していたノンフィクション作家の奥野修司氏はこう話す。 

 

「通常、9月10月は残っている古米も新米と共に売られているものですが、昨年は古米がどこにもなく、新米の奪い合いになり、農協もなかなか確保できない状態でした。コメ不足が続き、価格が高止まりするのは昨年には予想できたはずなのに、農水省は備蓄米の放出を渋り続けたわけです」 

 

 政治部記者によると、 

 

「日本の農家の約7割を占める兼業農家は自民党農林族の票田。彼らの利益のためには米価を維持しなくてはならない。そのため農水省は備蓄米の放出に慎重な立場を貫いてきたのです」 

 

 山下氏も言う。 

 

「農水省はコメ不足を認めたくない。認めてしまうと備蓄米を放出せざるを得なくなり、放出したらせっかく史上最高水準になっている米価が下がってしまうからです」 

 

 そこで農水省が編み出したのが、「どこかにコメがスタックしている」という詭弁(きべん)である。 

 

「普通、何か問題があれば事実を確認してから対応策を講じます。しかし今回は確認もしていないのに、業者が買い占めている、と言っているわけです。コメが不足していることを認めず、あるかどうかも分からない問題を“ある”と言い、業者で滞留しているコメを市場に出すために備蓄米を放出する、という論理を作り上げました。もし業者が米価低下で抱えている21万トンを吐き出せば米価は暴落します」(同) 

 

 しかも、農水省はコメがどこに滞留しているのかを調べようと思えば調べられるのだという。 

 

「日本には米トレーサビリティ法というものがあり、生産者から農協、農協から卸売業者、さらにスーパーなどの小売りへと、搬出入した場所も含め全ての取引について帳簿をつけ、その記録を保存しなければならない、と定めているのです。農水省は全てのコメの流通・在庫状況が分かるのに、分からないと言っている。これは役人的なウソなのです」(同) 

 

 2月20日発売の「週刊新潮」では、農水省がかたくなに「コメ不足」を認めない理由について詳報している。 

 

「週刊新潮」2025年2月27日号 掲載 

 

新潮社 

 

 

 
 

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