( 267526 ) 2025/02/19 14:55:26 0 00 ドラマ「マイ・ワンナイト・ルール」のワンシーン ©「マイ・ワンナイト・ルール」製作委員会
“女性の性欲”に正面から切り込んだ、テレビ東京の深夜ドラマ「マイ・ワンナイト・ルール」(主演・足立梨花)が注目を集めている。性衝動と理性のはざまで揺れながら、“ワンナイト”の恋を実践しようともがく主人公の姿には、共感、時には反感も寄せられる。「女性は貞淑であるべき」というステレオタイプに挑戦状をたたきつけるような本作。ドラマの原作となった漫画の作者が明かす、そこに込められた思いとは。
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「彼氏はいない。けれどセックスはしたい」
足立梨花が演じる主人公の成海綾は33歳の会社員。独身で彼氏はおらず、行き場のない性衝動を誰にも言えずに悩んでいた。悶々とする日々の中、恋はせずに一夜限りの関係を楽しむワンナイトに救いを求め、後悔しないための“マイルール”を定めて突き進んでいく。
「オトナ女子の性サバイバル」と銘打たれたこの物語は、いったいどのようにして生まれたのか。
原作漫画の作者であるなかおもとこさんは、数年前、女性の性欲をテーマに据えた作品を出版社から提案された。しかしその時は、「賛否両論あるセンシティブなトピックなので……」と断ったという。
「当時は、『夫婦や恋人間のセックスレス』や『サレ問題』など、性の悩みを描いた作品が急激に増えてきた時期でした。一方で、女性が不倫をしたり風俗に行ったりと性欲を前面に出すと、激しくたたかれる風潮もあって。バッシングへの恐怖がよぎり、筆が止まってしまいました」(なかおさん)
だが、その後少しずつ意識が変わっていった。
パートナーとのセックスレスについて友人から相談を受けたり、女性の性について論じた上野千鶴子氏の著書を読んだりする中で、「性欲を持て余す女性たち」に対して共感はできなくても理解はできるようになった。
女性向けのセルフプレジャー用品やエロティックな漫画作品が広く出回るなど、社会にも変化の兆しが見えてきた。
「性に対してオープンになりつつある今、エンタメというオブラートに包んで女性の性欲を描いたら、面白いと受け入れてもらえるかもしれない」
勇気を出して、作品と向き合うことに決めた。
■ワンナイトを推奨しているわけではない
主人公を未婚の女性にしたのは、「カップル間だけでなく、パートナーがいない人にも性の悩みはあるはず」という、なかおさんの独身としての実感からだ。
ただ、性欲を満たすために、自分なりのルールに沿った“一夜限りの恋”を追い求めるという尖ったキャラクター設定については、「あくまで漫画としての誇張表現で、ワンナイトを推奨しているわけではありません」と苦笑する。
「多くの女性たちはかつて、恋愛→性行為→結婚→出産という一連の流れを“幸せ”としてイメージしていたと思いますが、年齢や恋愛を重ねるにつれて、それだけではない現実を目の当たりにするものです。結婚を前提にしない性行為を楽しむ人がいれば、自慰で十分という人もいる。性欲との向き合い方はそれぞれです。誰かに迷惑をかけない限り、世間から責められる必要はないのでは……?と感じていました」
ドラマ化によって作品に大きな注目が集まる中、タイトルだけを見て嫌悪感を示す人も一定数いる。SNS上では「ワンナイトなんてろくなものじゃない」「風俗に行けばいい」といったコメントも寄せられた。だがなかおさんは、女性の性欲の“リアル”についてこう考えている。
「よく言われることですが、男性の性欲は発散したいという差し迫った必要に駆られたものである一方、女性の性欲は心も伴っていないと満たされないという違いがある気がします。性行為というと男性向けアダルトビデオのような過激なものを想像する人もいるかもしれませんが、多くの女性が魅力に感じるのは、愛情や安心感を得たうえで行うセックスだと思います。だから主人公のワンナイトのルールには『自分が一緒にいて楽しいと思える魅力的な相手である』『避妊は必ずする』といった内容を入れました」
■ワンナイトは現実世界では難しい?
作品をしっかり読み込んだ読者からは、「私のことを描いているのかと思いました」といった共感の声も数多く届く。ただ、ワンナイトについては「無理だけどしてみたい」という反応が多く、あくまでも憧れ止まりの女性が多いようだ。
女性誌の“抱かれたい男ランキング”に名を連ねるようなイケメンが突然目の前に現れ、精神的・肉体的・社会的な安全が確保された上で、「今晩どう?」と誘われる……。そんな夢のような展開は、現実世界ではまず起こらない。
本作の担当編集者である高澤里実さんによると、ワンナイトの代わりに欲求不満な女性たちの受け皿となっているのが、“TL(ティーンズラブ)コミック”と呼ばれる、男女の性愛を描いた漫画だ。
「ある人気作品の読者イベントでは、20代から40代まで大勢の女性ファンが訪れ、『この漫画が私の生きがい』とまでおっしゃる方もいました。男性の性欲は実際の行為がないと解消されない一方、女性の場合は心の潤いがあれば割と満たされるというのも、男女の違いかもしれませんね」(高澤さん)
作者のなかおさん自身も、ワンナイトの経験については「創作の域を出ませんね…」とのこと。高校では「男の人と二人きりになったら妊娠する」と言わんばかりの性教育ビデオを見せられるなど、育ってきた環境の影響により、性に奔放になることへの躊躇(ちゅうちょ)がぬぐえないという。
これまで社会の中で見ないふりをされ、ふたをされてきた、女性の性欲。令和の世に放たれたワンナイトをめぐる奮闘劇は、女性たちの“解放”を後押しする一手となるか――。
(AERA dot.編集部・大谷百合絵)
◆『マイ・ワンナイト・ルール』はコミックシーモア(www.cmoa.jp/title/276806/)をはじめ各種電子書籍サイトで掲載中
大谷百合絵
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