( 267571 ) 2025/02/19 15:48:20 0 00 息子の康平さんと
今年1月28日、経済アナリストの森永卓郎氏が死去した。
原発不明がんと闘いながらも、亡くなる直前までメディアに出演し続け、世界経済の行方に多くの警鐘を鳴らしてきた。
「AIバブルは崩壊する…」「日経平均はこれから大暴落する…」
彼がこう語った背景には一体何があるのか。そして残された私たちは、この先行き不透明な社会をどう乗り越えていくべきなのか。激動の時代を生き抜くための戦略と覚悟とは。
森永卓郎氏と、息子の康平氏がいまの日本のさまざまな病巣についてガチンコで語り合った『この国でそれでも生きていく人たちへ』より一部抜粋・再編集してお届けする。
『この国でそれでも生きていく人たちへ』連載第10回
『「農家をバカにする」政治家と庶民との隔たり…森永卓郎さんが「日本の馬鹿政治家」に最期の伝えたかったこと』より続く。
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政治家が現場を知らない理由は、結局彼らが東京に住んでいることから来ている。
地方の選挙区で選出された国会議員でも、普段は東京に住んでいる。赤坂に豪華な議員宿舎があるが、あれはまさに「港区のタワマン」そのもの。しかしながら、入居している政治家たちは月12万円程度の家賃しか払っていないという。そこに住んで、飲み食いするのは銀座や神楽坂の高級店ばかり。
そういう都会ならではの贅沢な生活を送っているので、地方の利益の代弁者どころか、金銭感覚も庶民とはかけ離れてしまっている。
私は以前、ある企業にお願いして、岸田元首相が愛用しているという料亭に連れていってもらった。
お座敷の前に池があって、1メートルもあろうかという錦鯉がたくさん泳いでいた。もちろん料理は着物を着た女将さんが取り分けてくれる。
正直言って、呆れてしまった。こんな贅沢な暮らしをしていたら、庶民が政治に何を求めているかわからなくなって当然だろう。
日本の政治を一手に動かしているのは、こういう人の集まりなのだ。この構造が日本の問題を深刻化させている。
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現代の日本社会の根本的な病理とは、「大都市依存症」に冒されている点にある、ということだ。
日本の人口の約6割はいわゆる「太平洋ベルト地帯」、とくに東京・大阪・名古屋の3都市に集中して住んでいる。付加価値で見れば日本経済の約8割がこうした大都市圏に集中している。
だが、大都市にばかり人口が集中すると、家賃が上がり、生活コストが非常に高くなる。そのため、その高いコストを賄えるくらいの高収入を得なければ、大都市に住むことはできない。
つまり、大都市圏の住人は、所得を必死に増やしていかなければならない宿命にあるということ。
そのため、人間の尊厳を売り渡して意に染まない仕事をしなければならないし、他人を騙して稼ぐことも必要になってくる。とにかくみんなそうやって必死に稼ぐので、大都市圏の経済の「規模」だけはどんどん発展していく。
しかし、どれだけ技術が発展しようとも、大都市に住める人口には限りがある。いずれどこかのタイミングで「東京の人口はこれ以上増やせない」という限界に直面してしまう。そこが発展のピークであり、その瞬間から東京の衰退が始まる。
東京をはじめ大都市圏が衰退を始めたなら、日本経済全体も衰退していくだろう。
「経済はずっと発展していく。株価は右肩上がり」だから「投資すべき」という考え方には、こういう落とし穴があるということだ。
そもそも、「高い生活コストを払うために、もっと稼ぐ必要がある」という考え方自体が根本的に間違っている。稼げないなら、生活コストを下げるという方法があるからだ。
つまり、「地方に住んで生活コストを下げる」ことで生活は豊かになる。
コロナ禍以降の3年間、私は「一人社会実験」を続けた。それまでは東京で過ごすことがほとんどで、埼玉・所沢の自宅に帰るのは週末に限られていたが、コロナ禍を境に、所沢での暮らしがメインになり、東京にはほとんど行かなくなった。
また、できるだけ自給自足する生活をはじめた。農業を始め、電気は太陽光パネルで発電している。水も自給するため井戸を掘ろうとしたが、水源が深すぎて無理だった。
ただ電気と食料の自給だけでも、生活費は各段に安くなった。すると、カネのために無理して働く必要がなくなるので、もっと自分のやりたいことに時間を使うことができる。ギャンブル性の高い投資を無理にやる必要もない。
私はこうした生き方が、近いうちにスタンダードになると考えている。
森永 卓郎(経済アナリスト・獨協大学経済学部教授)
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