( 267661 )  2025/02/19 17:30:27  
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(写真:時事) 

 

 前半国会の最大の焦点だった2025年度政府予算の年度内成立が確実視される状況となった。野党第1党の立憲民主が「年度内成立を阻まない」と表明する一方、日本維新の会、国民民主党が予算案賛成を視野に、与党との交渉を進めているからだ。 

 

 石破茂首相ら与党幹部は「少数与党下での熟議の国会の成果」(自民幹部)と胸を張るが、永田町関係者の間では「裏舞台での与野党駆け引きは複雑怪奇。夏の参院選をにらむ野党各党の得点争いを、与党が巧妙に利用した結果」(政治ジャーナリスト)との見方も広がる。 

 

 これを受け石破政権は、通常国会での「最初で最大の難所」(官邸筋)を乗り越えることで、「今国会での石破首相の退陣はなくなった」(自民幹部)と安どの表情を隠さない。ただ、「次なる関門となる『企業・団体献金廃止』や会期末に想定される『選択的夫婦別姓』で野党の攻勢をかわすことができるかは不透明」(同)で、石破政権にとって「宙づり国会での苦闘はなお続く」(同)ことは間違いない。 

 

■立憲・野田代表が「年度内成立は阻まない」と宣言 

 

 今回、来年度予算の年度内成立への道筋をつけたのは野田佳彦・立憲民主代表である。野田氏は17日の衆院予算委集中審議で「(来年度予算案については)いたずらに人質に取って衆院通過を遅らせ、2024年度内の成立を阻むことはしない」と明言した。 

 

 野田氏は石破首相との「現旧首相対決」の中で「与野党が知恵を出し合い、国民のためによりよい予算を作っていく姿をみせることが、政治に対する信頼を取り戻す第1歩になる」との認識を示し、石破首相も謝意で応じた。 

 

 その際、野田氏はまず、民主党政権下で首相を務めていた2012年当時の予算案審議を振り返り、「実はトラウマがあった。私(が首相)の時は、(予算の)年度内成立ができず暫定予算を組んだが、よくなかった。国民生活を考えた時に行政執行が切れ目なく行われること(が必要)。外交でも政権が不安定と思われると足元をみられてしまう。自分にとっては残念だった」と述懐した。 

 

 さらに、野田氏は「2012年の3月30日に暫定予算の審議が衆議院に戻ってきた時、厳しく責任を問うてきたのが、(野党)自民党の筆頭理事だった石破茂さん。その時に苦しい答弁をしたのが、私と安住財務大臣でした」と続け、予算委員長を務める安住淳氏に視線を向けた上で「ここはグッとがまんをして、思うところはありますけど、なるべくお互いにいい予算を作るために知恵を出したい」と石破首相に語りかけた。 

 

 

 この野田氏の「首相経験者としての異例の決断」(立憲民主幹部)で予算修正を巡る与野党交渉の構図は大きく変容した。与党側は維新、国民民主両党との修正協議に踏み込むことで、早急に予算案賛成を前提とした両党の取り込みを目指す方針を明確にした。これを受け、自民党は19日に維新と修正で合意し、国民民主の求める「103万円の壁の大幅引き上げ」についても「週内の21日までに、合意を取り付ける」(自民税調幹部)との戦略を描いているとされる。 

 

■松本氏の参考人招致を20日に実施、内容も公表へ 

 

 その一方で、野党側がそろって要求してきた旧安倍派の会計責任者・松本淳一郎氏の衆院予算委参考人招致については、18日午前の同委理事会で20日に実施することで与野党各会派が合意した。松本氏の意向も踏まえ、都内のホテルで安住委員長と各党理事が非公開で話を聞き取る形式で実施されるが、安住氏は、「応答は全部公表する。それはオフィシャルなものだと思って結構だ」と述べ、聴取後に聴き取り内容を公表する方針を明言した。 

 

 野党側は松本氏の聴取内容を踏まえ、裏金事件を巡って衆参の政倫審で「知らぬ存ぜぬ」を繰り返した旧安倍派幹部の発言との矛盾を明らかにすることで、今後の衆参の政治改革特別委で「虚偽発言」として追及し、夏の参院選に向け、国民の自民党批判につなげる構えだ。 

 

 そうした中、野田立憲代表が今国会会期末の最重要課題とするのが、「選択的夫婦別姓制度」導入問題だ。野田氏は17日の都内の講演などで、同制度導入に向けた法案を野党共同で提出する方針を示した上で、「導入に積極的な公明党との連携で衆院を通すことができる。参院法務委員長は公明党だから、衆院で通ったものを参院でつぶすことは難しく、成立する可能性が十分出てきている」と今国会での野党案成立への自信をにじませた。 

 

 こうしたことから、石破首相周辺からも「予算年度内成立がすんなり実現しても、まだまだ難題だらけで、状況次第では自民党内の反石破勢力による石破降ろしの動きも出かねない」(官邸筋)との不安の声が漏れてくる。そこで政界関係者が注目するのが内閣支持率の推移だ。 

 

■さらなる支持率上昇は“脱安倍”がカギに 

 

 日米首脳会談後に報道各社が実施した複数の世論調査で、石破茂内閣の支持率はおおむね上昇に転じている。ただ、「上昇幅はまだ限定的で、低迷状態から抜け出ることができるかは、今後の石破政権の政策決定や国会運営や状況次第」(政治ジャーナリスト)だ。内外で評価された8日(日本時間)のトランプ大統領との日米首脳会談だが、その後のトランプ氏の関税引き上げ発言などで、「評価が下がる可能性」は否定できない。 

 

 

 そうした中で石破首相周辺が支持率アップのカギと位置付けているのが“脱安倍”だ。これまで自民内保守派の牙城でもあった旧安倍派への忖度からか、昨秋の自民総裁選などで主張した「裏金事件解明」などについて、首相就任後は及び腰の姿勢が際立ち、それが支持率低迷の原因となってきたことは間違いない。 

 

 だからこそ石破首相は、長らく「政敵」でもあった故安倍晋三元首相の最大の“汚点”とされる「森友学園問題」などを、改めて政治問題として取り上げることで、「脱安倍の姿勢をアピールしたい考え」(側近)とみられている。その延長線上とみられているのが、「同問題での財務省の関連文書の改ざんを巡る石破首相の動き」(同)だ。 

 

 森友問題で国会が大騒ぎとなる中、当時、財務省近畿財務局職員だった赤木俊夫さん(54)が、2018年に森友学園への国有地売却をめぐる決裁文書の改ざんを強いられたことを苦に自殺し、同問題の闇の深さを浮き彫りにした。これに関し、故赤木氏夫人の雅子さんは2021年8月、財務省側に、検察に任意で提出した文書などを開示するよう要求したが、財務省側は文書が存在するかすら明らかにせず、開示しないと決定した。しかし納得しない雅子さんは決定取り消しを求めて大阪地裁に提訴、1審は敗訴したが、2審の大阪高裁は今年1月30日、開示しないとの決定取り消しを国に命じる判決を下した。 

 

■「財務省文書改ざん」での大阪高裁判決に「上告せず」を決断したが 

 

 これを受け、かねてから雅子さんと連絡を取り合ってきたとされる石破首相は「上告しない」ことを決断した。このため、今後、関連文書が開示されれば、改ざんの経緯などが明らかになる可能性が広がる。 

 

 この決断について自民党内では「石破政権が発足して4か月あまりだが、ようやく石破首相が安倍時代の『負の遺産』に対して、きちんと整理をしていくという姿勢を示し始めた」と受け止める向きが少なくない。ただ、石破首相周辺からは「大きな関門が控える国会運営も考慮すれば、いたずらに自民内保守派の反発を招きかねない“脱安倍”への傾斜は危険すぎる」(官邸筋)との声もあり、「石破首相がどこまで踏み込めるかはなお不透明」(政治ジャーナリスト)というのが実態だ。 

 

泉 宏 :政治ジャーナリスト 

 

 

 
 

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