( 267956 )  2025/02/20 16:03:14  
00

(c) Adobe Stock 

 

「103万円の壁」問題を巡り、自民党は「年収200万円以下は非課税枠を160万円程度に拡大」する案を国民民主党、公明党に提案した。2024年12月の3党幹事長の合意文書では「178万円を目指して、来年から引き上げる」と明記されていたがこの案にネットからは「実にセコい」などと批判が集まっている。この問題について経済誌プレジデントの元編集長で作家の小倉健一氏が解説するーー。 

 

 安倍晋三元首相がせっかく取り戻した政権の座を、宮沢洋一税調会長と石破茂首相は、手放したいようだ。 

 

 せっかくトランプ大統領からもらったラッキーな外交的成果で、支持率が微増したことで気が大きくなったのだろう。国民民主と公明とで、178万円にすることで合意した年収の壁の撤廃を、非課税枠を103万円から178万円に一律に上げるのではなく、年収200万円以下で非課税枠を150万円超とする案などが提示された。 

 

 完全な騙しであり、国民の期待を根底から裏切った所業であることは間違いない。私も今、文字をうちながら、怒りに打ち震えている。 

 

 私は今年に入って、石破首相にインタビューしたが、本当に残念な思考しかできないのだなと、短いインタビュー時間で心からそう思った。 

 

 まず、聞いたのは、減税については「財源、財源、財源はどこ」というが、減税の財源には3つある。一つは、増税。一つは借金。そして、ムダ遣いの削減である。どう考えても、大半の日本国民が望んでいるのは、増税でもなく、借金でもなく、ムダ遣いの削減である。なぜ、自民党は、ムダ遣いを削減しようとしないのか、聞いたところ、石破首相は、こう答えた。 

 

<歳出削減の話になると、例えば「議員が多いのではないか」「議員を減らすべきではないか」という意見が出る。これには賛成する声も多い。しかし、具体的に「この選挙区の議員を減らしましょう」となると、反対意見が出るのが現実だ。「地域の声を反映するための議員が減るのは困る」という反発が必ずある。一方で、自分の地域と関係ない議員を減らす話には賛成するという傾向が見られる。これは良し悪しの問題ではなく、多くの人がそう感じるという現実だ> 

 

 

<無駄なものというのが本当に誰にとっても無駄なものであれば、とっくに削減されているはずだ。ある人にとって無駄なものが、別の人にとっては必要なものになる場合が多い。例えば、7割や8割の国民が「これは無駄だ」と感じるものがあれば、そういったものから削減する議論が進む。しかし、すべての人にとって無駄だと言えるものは非常に限られている>(みんかぶマガジン、1月17日) 

 

 石破論法と呼ぶべきものなのか、意味のない言葉の羅列が続いている。政策の正当性や実効性を説明するのではなく、ひたすら冗長な表現を用い、聞き手に考える余地を与えない話法に終始している。具体的なデータや根拠を提示せず、あたかも議論を深めているかのように見せかけるが、その実、何も本質的な内容を語っていない。このような話し方が続く限り、国民の信頼を得ることは難しく、政策の妥当性も検証できないまま進行することになる。 

 

 石破首相は、すべての人にとって不要な支出以外は削減しない考えのようだ。しかし、そうした発想自体が本末転倒である。政策の是非を判断する基準は、主観ではなく客観的なデータやエビデンスに基づくべきであり、それが欠けている以上、無駄を省く判断も正しく行われることはない。政策の効果が証明されておらず、成果も確認できないものを継続する合理性はない。実績が示されず、期待される効果が明確でない施策を漫然と続けることこそ、税金の浪費につながる。 

 

 無駄をなくすと言いながら、何が無駄であるのかを定義せず、恣意的に判断を避ける姿勢には大きな問題がある。政治の本来の役割は、限られた財源を最適に配分し、国民生活を向上させることである。明確な効果が立証されていない施策を放置し、不必要な支出を削減しないままでは、持続可能な財政運営など不可能である。言葉を弄して問題を先送りするのではなく、具体的な数字と根拠をもとに、実効性のある政策判断を行うべきである。 

 

 例えば、少子化対策として巨額の予算を育児中の家庭にばらまく政策が続けられているが、効果がないことは明白である。学識者の間では常識とされているが、日本の少子化の主因は未婚率の上昇と晩婚化にある。 

 

 

 出生率低下の大半は結婚しない、あるいは結婚が遅れることによって発生しており、結婚後の子育て支援を強化したところで根本的な解決にはならない。育児支援を強化すれば子どもが増えるという発想自体が根拠を欠いた思い込みであり、政策の方向性が誤っている。にもかかわらず、毎年のように巨額の税金が投入され、ほとんど意味のない施策が繰り返されている。 

 

 晩婚化や未婚率の上昇の要因として、女性の高学歴化が大きく関与していることは統計的に示されている。女性の学歴が上がると、就職、キャリア形成の期間が長くなり、結婚適齢期が後ろ倒しになる。さらに、高学歴の女性ほど未婚率が高くなる傾向も確認されている。筆者は女性の高学歴化を肯定的に捉えているが、それが少子化を加速させる要因となることもまた否定しがたい事実である。社会全体が学歴偏重の価値観を持ち、特に女性のキャリア形成が強く推奨される環境が整うほど、結婚が遅れ、結果として出生率が低下するという現象が起きる。 

 

 こども家庭庁に投入される予算の大半が、少子化対策としてほとんど無意味である。補助金を配るだけの育児支援が、未婚率や晩婚化の問題を解決することはない。 

 

 教育無償化(税負担)と出生率向上の因果関係は何も証明されていない。根本的な課題に向き合わず、ただ金をばらまく政策を続けても、税金の浪費が拡大するばかりである。真の少子化対策とは、結婚の障害となっている要因を取り除くことである。現在の政策はそれとは真逆の方向に進んでおり、結婚しない人が増える状況に対して、全く効果のない支援策を続けている。根本的な原因を直視せずに、無駄な予算を投じるだけでは、少子化が進行するのは当然の帰結である。 

 

 維新の吉村洋文代表は、教育無償化(税負担)を推進する際に、それが少子化対策であるかのように説明しているが、これは完全な虚偽である。教育無償化(税負担)と出生率向上の因果関係は何も証明されておらず、むしろ逆の影響をもたらすことが予測される。政策の方向性が誤っているにもかかわらず、税金を浪費し、誤ったメッセージを発信し続けている現状は、厳しく批判されるべきである。 

 

 維新の教育費の税負担が進めば、当然、増税が待っている。維新は結果として、明らかに、国民のための減税の邪魔をした主犯格である。石破首相、宮沢氏、吉村氏、前原誠司氏は、グルになって日本と日本人の未来を奪っている。4人はそのことを自覚すべきである。 

 

 

 維新の教育費の税負担が進めば、当然、増税が待っている。維新は結果として、明らかに、国民のための減税の邪魔をした主犯格である。石破首相、宮沢氏、吉村氏、前原誠司氏は、グルになって日本と日本人の未来を奪っている。4人はそのことを自覚すべきである。 

 

 さて国民民主党の玉木氏は先月、みんかぶマガジンの取材にこう答えていた。 

 

ーー現在の石破政権についてお伺いします。前回の衆院選は、自民党が国民から「ノー」を突き付けられた結果だと思います。そのような中で石破政権が継続している状況ですが、玉木さんは石破首相をどのように評価されていますか? 

 

「石破首相のリーダーシップは、かつてのような鮮烈さを失い、「脱色」された印象を受けます。安倍政権時代には、党内の野党的な立場から正論を述べる姿勢があり、それが石破カラーとして際立っていました。しかし、現在はその方向性を見失っているように感じます。例えば、今回の「103万円の壁」を178万円に引き上げる政策を石破首相自身が主導していれば、自民党の人気は大きく回復していたでしょう。しかし、現状では、私たち野党と同じ課題に取り組みつつも反対の立場を取るなど、方針が迷走している印象があります」 

 

 石破政権の迷走が終わる日はくるのか。 

 

小倉健一 

 

 

 
 

IMAGE