( 267961 )  2025/02/20 16:09:47  
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ベンツで「サイゼリヤ」はおかしい? (画像:Pexels、写真AC) 

 

「安くてうまい」として広く親しまれているサイゼリヤは、庶民的な価格設定と気軽に楽しめるイタリアンメニューで、多くの日本人にとって身近な存在だ。 

 

 その一方で、「高級車の象徴」ともいえるメルセデス・ベンツ。サイゼリヤの駐車場にそのエンブレムを掲げた車が停まっている光景を目にしたとき、周囲の人々はどう感じるだろうか。 

 

「身分不相応だ」 

 

と思うだろうか。それとも、「金銭感覚がしっかりしている」と評価するだろうか――。 

 

 この組み合わせが合理的な消費行動の結果なのか、それとも何らかの矛盾を内包しているのか。本稿では、個人の価値観や社会的視線を踏まえながら、この問いに迫る。 

 

ベンツ (画像:Pexels) 

 

 CMサイト(大阪府大阪市)が運営するランキングサイト『ランキングー!』は2024年10月、「好きな外食チェーン店人気ランキング」の結果を発表した。この調査では、10~50代の男女6204人(性別不詳を含む)を対象に人気の外食チェーン店をアンケート調査した。 

 

 1位は「サイゼリヤ」で、326票を獲得した。投票者からは、「安くて美味しい」「本格的なイタリアンがリーズナブルで楽しめる」などのコメントが寄せられた。2位には「マクドナルド」がランクインし、324票を獲得した。多くの投票者が「ハンバーガーが大好物」という理由で支持している。3位は「ケンタッキーフライドチキン」、4位は「モスバーガー」、そして5位は「餃子の王将」と続いた。 

 

 また、マイボイスコム(東京都千代田区)は、同年11月に実施した「ファミリーレストランの利用」に関するインターネット調査の結果を発表した(回答者数9194人)。この調査によると、直近1年間にファミリーレストランを利用した人は約55%に達し、そのうち月1回以上の利用者は約25%となっている。特に、10~30代の若年層で利用率が高い傾向が見られた。利用されたファミリーレストランのトップは「ガスト」で51.1%、次いで「サイゼリヤ」が44.5%を占めた。サイゼリヤには 

 

「家族がそれぞれ食べたいメニューがあること、値段を気にせずお腹いっぱい食べられること、家では食べられない味であること」(女性46歳) 

「安くて美味しいから。一品一品の量が多くなくて良い」(女性23歳) 

 

などのコメントが寄せられ、ファミリーレストランのなかでトップクラスの人気を誇っていることが改めてわかった。 

 

 さて、冒頭の「高級車の象徴ともいえるメルセデス・ベンツ。サイゼリヤの駐車場にそのエンブレムを掲げた車が停まっている光景」についてだが、経済的な視点から考えると、どんな車を所有していようと、手頃な価格の飲食店を選ぶことに問題はない。むしろ、富裕層ほど無駄な支出を避け、合理的な消費行動を取る傾向があるというデータもある。 

 

 例えば、米国の著名な投資家ウォーレン・バフェットは高額な資産を持ちながらも質素な生活を送っており、必要なところでお金を使うことを重視している。高級車を所有していても、高級レストランに行くわけではなく、むしろ「価格以上の価値を提供する」サイゼリヤのような店が、収入に関係なく多くの消費者にとって魅力的な選択肢となっている。 

 

 

ベンツ (画像:Pexels) 

 

 消費行動は合理性だけでは説明できない。特に日本社会では、車は単なる移動手段にとどまらず、ステータスを象徴するアイテムでもある。 

 

「高級車に乗る人 = 富裕層」 

 

という単純な図式が成り立つとき、その人物がリーズナブルな飲食店を利用することに対し、周囲は違和感を抱くことがある。それは、 

 

「高級車を所有しているなら、高級レストランに行くのがふさわしいのでは?」 

 

という暗黙の価値観が影響しているからだ。 

 

 この価値観が生まれる背景には、日本における「身の丈に合った消費」を求める文化がある。かつての高度経済成長期では、収入が上がればそれに応じた消費スタイルを持つことが当然とされていた。例えば、会社の役職が上がると、住む家も変わり、乗る車もワンランク上にすることが「ステータスの証明」と考えられていた。 

 

 しかし、近年の日本では「見栄を張る消費」は廃れ、 

 

「コスパ重視」 

 

の消費行動が一般化している。特に若年層を中心に、「必要なところにお金をかけ、不要なところは抑える」というスタイルが広まりつつある。 

 

ベンツ (画像:Pexels) 

 

 サイゼリヤの駐車場に並ぶベンツに違和感を覚える人がいるのは事実だ。その感覚の正体を探るため、もう少し詳しく見てみよう。 

 

 高級車は、そのブランドイメージとライフスタイルの一貫性が重視される。例えば、メルセデス・ベンツは「エレガントで上質なライフスタイル」を提案するブランドであり、その車を所有する人も、そうしたライフスタイルを送ることが期待されがちだ。しかし、サイゼリヤは「気軽でカジュアルな食事」を提供する場所であり、そのブランドイメージとは異なる。結果として、 

 

「この人はどういう価値観を持っているのだろう?」 

 

と周囲が戸惑うのかもしれない。 

 

 消費行動には「メッセージ性」がある。例えば、高級ブランドのスーツを着ている人がコンビニの100円コーヒーを飲んでいれば、それは「こだわりのない合理的な人」と見られるかもしれない。しかし、スーツとTシャツを組み合わせたファッションがときとして「ちぐはぐ」に見えるように、高級車と庶民派ファミレスの組み合わせも一部の人には違和感を与える。 

 

 日本では、富裕層には 

 

「それ相応の振る舞い」 

 

が求められる傾向がある。高級車を所有する人は、それにふさわしい店を選び、「格式に合った振る舞いをするべきだ」という暗黙の了解があるかもしれない。しかし、これはあくまで固定観念であり、実際の消費行動とは必ずしも一致しない。 

 

 

ベンツ (画像:Pexels) 

 

 結論として、ベンツでサイゼリヤに行くことは「合理的な消費行動」として成立する一方で、「社会的な視線」によって違和感を持たれる可能性もある。 

 

 だが、こうした違和感こそが、消費行動の変化を映し出しているともいえる。かつては「ステータスに応じた消費」が求められていたが、現在では「本当に価値のあるものにお金を使う」という考え方が浸透しつつある。 

 

「高級車に乗っているからといって、常に高級レストランに行かなければならないわけではない」 

 

 この事実を受け入れることで、消費行動に対する社会的な見方も変わっていくはずだ。ベンツでサイゼリヤに行くことが「身分不相応」なのか、それとも「合理的な選択」なのか――その答えは、これからの時代の価値観が決めるのかもしれない。 

 

作田秋介(フリーライター) 

 

 

 
 

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