( 268701 )  2025/02/22 14:36:29  
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去年1年間に自殺した児童や生徒は527人で過去最多。深い悩みを抱える子どもの多さが浮き彫りとなりました。いじめを受け学校に助けを求めても向き合ってもらえず、自ら命を絶った13歳の少年がいます。孤立する子どもを救うために何が必要なのか考えます。 

 

■13歳の死 届かぬ声 

 

亡くなった13歳の少年が過ごした部屋は当時のままだ。 

 

少年の母親 

「教科書やったら、こんなんで勉強していました。教材で。ペンも挟まったまま」 

 

不登校だった少年はもう一度学校に通いたいと勉強を続けていた。 

 

2022年3月、近所の空き地で自ら命を絶った松波翔さん。当時中学1年生だった。 

 

翔さんは正義感が強く、クラスの輪に入れない子がいると、声をかける優しい少年だった。しかし、クラスメイトとの関係が一変したのは小学3年生の時。2歳上の兄がいじめを受けるようになり、翔さんも身長が低いことなど、外見をからかわれるようになった。 

 

先生に相談しても真剣に受け止めてもらえず、時には「お前の言うことは信用できない」と言われたという。 

 

次第に学校に居場所を失い、不登校に。小学6年生の1年間は一度も学校に行けなかった。 

 

翔さんの兄は、学校への不信感を語っていた弟の姿をはっきりと覚えている。 

 

翔さんの兄(18) 

「先生のことはいじめも解決できないし、信用はできないと言っていました。他の先生も誰も信用できないと」 

 

将来は、司法試験を受けて正義を貫く検察官になりたいと話していた翔さん。中学から心機一転、学校に通うことを決心する。 

 

ところが、入学すると不登校の過去を馬鹿にされ、“少年院帰り”という言葉を廊下で耳にするように。担任に相談しても、「誰の発言かわからないと指導できない」と言われ、その後中学でも、夏休みが明けたころ不登校になった。 

 

母親の千栄子さんは、いじめに苦しみ「学校が信用できない」と訴える翔さんと共に教育委員会に転校を求めてきたが、受け入れられなかった。 

 

翔さんの母 千栄子さん(50) 

「早く本人の居場所を見つけてほしいとずっと訴えていた、教育委員会に。でも教育委員会はずっとのらりくらりと『わかりました』としか言わず、まともに取り合ってもらえなくて。『コロナで忙しいのであなたばかり構っていられません』と言われて終わり」 

 

 

泉南市教育委員会は当時の事を「翔さんが登校できる状態にならないと転校の判断ができなかった」と釈明した。 

 

泉南市教育委員会 岡田直樹教育部長(2022年7月) 

「(翔さんが)学校にも登校できるようになったうえで、この状況だったら転校しても構わないというお話ができるのかなと」 

 

—まず今の学校に行けるようにというのはそもそも無理では? 

 

泉南市教育委員会 岡田直樹教育部長(2022年7月) 

「例えば病院の診断書があるとかそういう場合ならば話は別になるかと」 

 

岡田教育部長は「精神疾患を証明する医師の診断書などがあれば、転校の判断ができた」と話した。 

 

教育委員会に転校を受け入れてもらえなかった翔さんは、亡くなる2か月前、大阪府の子どもの相談窓口にもメールを送っていた。 

 

翔さんのメッセージ 

「市の教育委員会に言うけど、ダメの一点張りで、あげく他の仕事があるから対応できないと、放ったらかしです」 

 

さらに、中学で不登校になった理由も綴っていた。 

 

翔さんのメッセージ 

「担任が少しでも学校に行きやすいようにはどうしたらいいか聞いて来たので、生徒達に僕の辛かったことを話してほしいといいました。理由は僕が6年の1年間学校に行けなかったことを、少年院に入ってたとかいわれてたから、しかしダメの一点張りで、信用がなくなり今にいたります」 

 

翔さんは自殺予防に取り組む団体など他にも民間の複数の機関に相談していた。しかし、どれも具体的な解決につながらないまま命を絶った。 

 

翔さんの死を教育委員会は把握していた。しかし、メディアが報道し表沙汰になるまで4か月間審議せず、学校はクラスメイトに半年以上、亡くなった事実さえ伝えていなかった。 

 

亡くなって7か月後、中学校の校長と教育委員会の指導課長が翔さんの自宅を訪ねてきた。 

 

■遺族を遠ざける学校や教育委員会 

 

翔さんの母 千栄子さん 

「亡くなったことをクラスメイトに伝えられずにいた翔君の気持ちをどのようにお考えですか?」 

 

 

中学校の校長 

「申し訳ないですけど、ここでは答えを控えさせてください」 

 

千栄子さん 

「翔君に対するいじめはあったんでしょうか?」 

 

中学校の校長 

「申し訳ないですけど、ここで答えるのは控えさせてください」 

 

泉南市教育委員会 指導課長 

「われわれも調査を受ける立場になるなかで、あのときこう言ってましたよねという話が今後またいろいろ出てくるわけです。個人の判断の中での反射的な答えはできづらい状況になっていることはご理解ください」 

 

また、教育委員会は翔さんと学校のやりとりを記録した文書を遺族に開示したが、すべて黒塗りだった。「調査に支障が出る」という理由だ。 

 

シングルマザーの千栄子さんは、高齢者施設で看護師として働いている。7年前に離婚した元夫から養育費の支払いは滞ったままで、1人で働きながら2人の息子を育ててきた。 

 

仕事が終わると週3回、透析治療を受けている。難病の「多発性嚢胞腎(たはつせいのうほうじん)」を患っているためだ。腎臓に水がたまった袋が無数にでき、お腹に膨らみが出てくる病気で、高齢になると腎不全になる人がほとんどだという。透析治療は毎回3時間もかかる。 

 

2023年3月、翔さんの一周忌。翔さんは亡くなる2日前、「ママには借りがある」と言って千栄子さんの肩をもんでくれたそうだ。忙しい母親を気遣って気丈に振舞っていたのかもしれない。 

 

千栄子さん 

「やっぱり申し訳ないなという思い。日々謝っている毎日です。彼の笑顔を壊してしまったし、幸せにしてあげられなかった。彼の居場所を見つけてあげられなかった」 

 

翔さんの黒塗りの記録を隠さずに見せて欲しいと、千栄子さんは教育委員会と交渉を続けてきた。この日役場を訪ねると… 

 

千栄子さん 

「指導課長はいらっしゃいますか?」 

 

職員 

「指導課長は代わっているんです」 

 

千栄子さん 

「代わっているんですか?岡田教育部長を出してください」 

 

職員 

「岡田教育部長も異動になっておりまして。4月で異動になっているんです」 

 

 

翔さんの死からおよそ1年が経ち、千栄子さんに対応していた教育委員会の担当者が知らない間に代わっていた。 

 

千栄子さん 

「中学の校長先生はどうなっているんですか?」 

 

現教育部長 

「代わっています」 

 

千栄子さん 

「校長先生も代わっているんですか?教頭先生はいらっしゃるんですか?」 

 

現教育部長 

「教頭先生も代わっていると思うんですけど」 

 

千栄子さん 

「みんな代わっているじゃないですか。去年の翔君のことを知っている人が誰もいないじゃないですか」 

 

現教育部長 

「一応ちゃんと引継ぎという形で...」 

 

黒塗りの部分を開示するのかについて明確な回答はなかった。 

 

10か月前、「診断書があれば転校の判断ができた」と話していた岡田前教育部長は... 

 

千栄子さん 

「代わられたんですか?こちらに」 

 

岡田前教育部長 

「4月1日にこちらに異動になりました」 

 

千栄子さん 

「どうして代わられた?」 

 

岡田前教育部長 

「それはわからないです。異動になりました」 

 

千栄子さん 

「翔君のことを誰もわかっていないじゃないですか」 

 

岡田前教育部長 

「私、その件についてお話できる立場ではございませんので。それは教育委員会の方で確認いただけましたら」 

 

子どもが何度もSOSを発し、命を絶っていても、学校や教育委員会は担当者の変更も伝えず、遺族を遠ざけ続けた。 

 

■第三者が即対応 大阪・寝屋川市の「監察課」 

 

子どもの声への向き合い方には、自治体によって大きな隔たりがある。 

 

教師 

「いじめや困っていることがあったら、ここに書いて出してくれたら、みなさんのことをすぐ助けくれる紙になっています」 

 

大阪府寝屋川市の小中学校で毎月配られるチラシがある。 

 

「監察課は、いじめを絶対に許しません。手紙を受けた時点で、動きます」。これは「いじめ通報促進チラシ」と呼ばれている。 

 

寝屋川市では、いじめ対応の専門の部署「監察課」を2019年から設置している。市長直轄の監察課はケースワーカーの経験がある職員など8人が、教育委員会とは独立した第三者の立場で調査にあたっている。調査に支障が出るため、メディアには職員の顔を出していない。通報があれば職員同士ですぐに情報を共有する。 

 

 

 
 

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