( 268751 ) 2025/02/22 15:35:45 0 00 「うるさい、黙れ、黙れ、黙れ、黙らなお前殺すぞ」
「言うこと聞けよ、言うこと聞いたら何もせえへんから」
小学生の女児10人に性的暴行を加えたとして強制性交致傷罪などに問われた元病院職員・柳本智也被告(28)。2月18日に大阪地裁で下されたのは、求刑通りの無期懲役判決だった。裁判長は男の犯行を〈卑劣、悪質の極み〉と断罪。その判決文には、男の異常な言動、そして鬼畜の所業が克明に記されていた――。
判決文から見えるのは、その手口のおぞましさだ。まず一つ、共通するのは、冒頭のような数々の脅し文句である。
柳本が強制性交などの容疑で大阪府警捜査1課に逮捕されたのは2022年7月22日のことだ。逮捕容疑は同年5月、大阪府内の集合住宅に侵入し、9歳の女児2人に目隠しをして全裸にさせ、そのうち1人に暴行するなどした疑いだった。
だが、現場周辺では2016年頃から同様の事件が多発していた。判決文に書かれた〈罪となるべき事実〉の冒頭でも、2016年3月29日の事案が1件目の事件として記されている。
判決文によれば、柳本は当時10歳だったAさん宅に電気業者の設備修理を装い、玄関から侵入。Aさんの両肩を両手で押さえて押し倒し、冒頭のような言葉を吐きながら暴行に及び、体にも傷を負わせている。
2件目の事件は翌17年11月16日。今度は当時9歳のBさんに対し、カッターナイフを示しながら襲い掛かった。柳本はBさんの口を塞ぎ、
「静かにしろ」
「はよせな言うこと聞かな終わらへんで」
こうした言葉で脅迫しながら犯行に及んだ。
3件目は翌18年3月13日。当時12歳のCさんが玄関ドアを開けた瞬間、柳本も続いて自宅内に押し入り、2件目と同様にカッターナイフを示し、口を塞いで言った。
「ちょっと保健体育の授業を……言うことを聞いてくれたら、痛いこと何もせえへんから」
「泣いたら殺すぞ」
写真はイメージ ©︎Aflo
胸が苦しくなる言葉ばかりだ。この年、柳本は連続して犯行に及び、4件目は同年3月30日、5件目は同年4月11日、6件目は9月14日。立て続けに事件を起こす中で、柳本は女児への脅し文句を微妙に変えている。例えば5件目の犯行では警察官を装い、こう脅している。
「警察だ」
「言うこと聞いてたら刺せへん」
「通報あったからさあ、ほんまはお母さんに言わなあかんかなあと思ってんけど。言うこと聞いてくれたら黙っといてあげようかなあと思って」
さらに6件目の事件では、女児を裸にさせた上で、スマートフォンで撮影しながらこうも言い放っている。
「誰かに言ったらもう終わりや」
「君がもし誰かに言ったら、この写真ネット上にばらまくよ? ネット上とか、印刷してその辺に貼り付けるで」
柳本は約6年間もの長期にわたり、当時8歳から12歳までの女児合計10名に対して、こうしたおぞましい脅しの言葉を並べ立て、犯行を繰り返していたのである。
もう一つ見えてくる異常さは、被害者を観察して物色するストーカーのような執着性である。
被害者のうち複数人は団地住まいだった。その団地内に繰り返し侵入するなどして、柳本はストーカー的な行動をとっている。
ある事件では、女児の〈帰宅状況や保護者の在宅状況を把握し、その容姿を秘匿撮影するなどの目的で〉、1か月余りの間に5回にわたって〈団地敷地内に侵入〉した。
別件でも女児の姿を路上などで〈撮影しながら、その住居付近において見張り〉をして、〈つきまとい等を反復〉していた。
こうした付随する罪も判決文は列挙。柳本のこうした癖について、
〈通常の社会生活を維持してきた経歴の中で、各犯行に先立つ数日ないし相当長期間を通じ、被害女児の自宅や付近を見張って人の出入りなどの行動確認をし、在宅状況などを把握してスマートフォン内のメモに残し、近くに潜んで様子を撮影するなどしていた〉
と指摘している。
犯行前に何か月もかけて、女児の生活状況を知ろうと付きまとい、隠れて撮影。そしてある日、業者などを装ってドアから押し入り、カッターなどの凶器とおぞましい脅し文句を口にして、犯行に及ぶ。こんな生活を秘かに、表向きの人生とは別に、何年も何年も続けていたのである。
裁判長は〈量刑の理由〉について、こう述べている。
〈被告人は、そのような幼い被害女児らに対し、口を塞ぐなどの暴行を加えるほか、殺すぞ、黙れなどと申し向け、あるいは母親ら家族も殺すと申し向け、文言それ自体から強度の脅迫を加えており、更にカッターナイフを示すなどの脅迫を強めていた犯行も多く、強烈な暴行・脅迫である〉
こうした柳本の犯行について裁判長は〈女児らの受けた恐怖や精神的苦痛は想像を絶するものがある〉とし、〈刑事責任はまことに重い〉とした。
なお柳本は裁判で〈自分も年若いときに年長の女性から性的加害を受けた経験がある〉等と述べ減刑を求めたが、判決はこれについても、一蹴した。前述のように「見張り」を繰り返して下準備をした上で、
〈被害女児に口止めをしたり、通りかかった男性に捕えられそうになって逃走したり、犯行後に現場近くに潜んで警察の捜査を探るなどした一連の言動によれば、判断や統制の能力不足はうかがわれない。むしろ、各犯行は、著しく高度の計画性を備えており、(中略)女児の嫌がる様子をよく認識していても凌辱しようとする強固な犯意が認められる。これらの事情からすれば、非難が減じられることはなく、かえって強まるというほかない〉
そして、判決文はこのように締め括られる。
〈被告人が、基本的な事実関係を認めて争わず、一応の反省の弁を述べたことや、性的認知の歪みを自覚したとして治療を受ける意思を表明し、(中略)今後も被害弁償を続ける旨述べたこと、前科がないことなどの諸事情も、よく踏まえて検討したが、被告人に対しては、無期懲役刑をもって臨まざるを得ないと判断した〉――。
ちなみに柳本は最終意見陳述で、被害女児に対してこのように謝罪している。
「もし性犯罪に死刑があれば私は死刑にされて当然です。精神的苦痛を与えてしまい、申し訳ございませんでした」
どんな量刑であっても、償いきれない罪だ。
「週刊文春」編集部/週刊文春 電子版オリジナル
|
![]() |