( 268841 ) 2025/02/22 17:16:06 0 00 日本製鉄
日米首脳会談では日本製鉄によるUSスチール(USS)の買収問題も俎上に載った。とりわけ、トランプ大統領が共同記者会見で放ったある発言が波紋を呼んだのである。
***
トランプ氏は2月7日の日米首脳会談後の共同記者会見で、日本製鉄をニッサンと言い間違えながら、以下の冒頭発言を行った。
「ニッサン(日本製鉄)はUSSを所有するのではなく、多額の投資をすることで合意した」
国際部デスクが、これまでの経緯を振り返る。
「日鉄が149億ドル(2兆3400億円)でUSSを買収すると発表したのは2023年12月のことです。しかし、全米鉄鋼労働組合(USW)が雇用への影響を主張。大統領選でUSWから支持を得るため、共和党のトランプ氏だけでなく、民主党のバイデン前大統領及びカマラ・ハリス前副大統領もUSS買収計画に反対を表明しました」
一方、日鉄側は雇用を削減しないと表明。27億ドル(4000億円)以上の追加投資も行うと明らかにした。しかし、
「最終的にバイデン氏は先月3日、米国の安全保障を損なう恐れがあるとの理由から買収禁止命令を発しました。日鉄とUSSは6日、買収禁止命令の無効などを求めて、複数の訴訟を米国で提起したものの、買収中止の判断を覆すのは困難だとの見方がもっぱらです」(前出の国際部デスク)
買収計画は大きな壁にぶち当たっていたのだが、
「トランプ氏は続く質疑応答の中でも『買収ではなく、投資として行われる』『投資なら大歓迎だ』と発言しました。この“投資”という言葉に解釈の余地があり、トランプ氏が買収容認に傾いたと受け止める向きもあったのです」(同)
政治ジャーナリストの青山和弘氏が明かす。
「石破首相に直接話を聞いたところ、“買収ではなく投資”は自分から提案したと語っていました。ただし、どこまでが“買収”でどこからが“投資”なのかは曖昧なままにして、USS株の取得割合についても“今後の話し合いだ”と。少なくとも日産とホンダの合併話のように、“ご破算になることだけは避けられた”とのことでした」
もっとも、トランプ氏の受け止め方は違った。
「トランプ氏は9日、記者団に対して、日本製鉄によるUSSの株式の取得は『過半数とはならない』と明言しました。トランプ氏がそう言い切った以上、日鉄のUSS完全子会社化の計画は変更を余儀なくされるでしょう」(前出の国際部デスク)
この点、読売新聞(2月9日付)は、〈(日本政府は買収計画の)修正案は日鉄側と事前調整した〉と報じている。だがしかし、明海大学の小谷哲男教授(国際関係論)の見方は少々異なる。
「そもそも、“買収ではなく投資”としたのは日本政府の発案であり、日鉄の同意をきちんと得ていなかったと聞いています。日本政府は日鉄と“投資”の中身も詰めていません」
事前調整は不十分だったというのだ。
先月7日、都内で会見した橋本CEO
経済部デスクが補足する。
「トランプ氏がUSS株の過半を日鉄は握らないと発言したことについて日鉄幹部は『関知していない』と説明しています。また、トランプ氏は会見で『来週にはニッサン(日鉄)のトップと会う予定だ。彼らが詳細を詰めるだろう』と述べていますが、当の日鉄の橋本英二CEO自身が、“聞いていない”と困惑顔だったそうです」
続けてこうも言う。
「日鉄はUSSの完全子会社化は断念せざるを得ない一方、石破氏がトランプ氏に“投資”を約束した以上、取引からの撤退の選択肢も取りづらい。事実上、日鉄には、“投資”という選択肢しか残されていません」(同)
経済ジャーナリストの町田徹氏は、
「今後、日鉄とUSSが50対50の比率で合弁会社を設立して、その合弁会社がUSSの事業を引き継ぐ形も想定されます。しかしこの場合、経営難に陥っているUSSの経営方針や企業体質が受け継がれて、経営再建が難しくなる恐れがある」
と指摘する。日米両首脳の非情な取引(ディール)が、日鉄をさらなる窮地に追いやりそうなのだ。
関連記事【「北朝鮮に対する戦術はシンゾーに聞こう」 なぜ安倍元首相はトランプ大統領に深く食い込むことができたのか】では、安倍元首相がトランプ大統領に深く食い込むことができた理由について、二人の“友情エピソード”などと併せて詳しく報じている。
「週刊新潮」2025年2月20日号 掲載
新潮社
|
![]() |