( 268846 ) 2025/02/22 17:19:49 0 00 警視庁から任意で事情聴取を受けたとの報道を事実と認め、芸能活動の自粛を発表した令和ロマンの高比良くるまさん(左)(画像:令和ロマン公式YouTubeより)
吉本興業が所属する一部のタレントのコンプライアンス違反を公表、のちにお笑いコンビ「令和ロマン」の高比良くるまさんの、オンラインカジノへの関与が明らかになり、騒ぎとなっている。
今回の騒動を受け、初めて「オンラインカジノは違法である」という認識をもった人もいるのではないか。なぜ、その違法性は知られず、規制もされてこなかったのか。その背景を取材した。
■芸人の騒動が火をつけた議論
高比良くるまさんはオンラインカジノ(以下、オンカジ)への関与をめぐって、警視庁から任意で事情聴取を受けたとの報道を事実と認め、公式YouTubeチャンネルで相方の松井ケムリさんと登場し、謝罪した。
動画の中で、オンカジに関与した2019〜2020年当時は「『違法ではない』という認識だった」とコメント。その後X(旧Twitter)で、当面の間の芸能活動の自粛を発表した。これを受けて、視聴者や専門家らがオンカジの違法性の認識不足を問う声などが、SNSに次々とあがった。
長年、ギャンブル依存症問題に取り組んできた公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会(以下、考える会)」の田中紀子さんはこの件について、「(高比良くるまさんは)気の毒というか、被害者的な側面も感じましたが、一方で、これだけ大きな騒動になったことで、多くの人がオンカジの違法性を知るきっかけになったのでは」と述べる。
ニッポン放送は無料版のオンカジの広告を放送していたことを認め、広告放送を自粛する決定を下した。
田中さんはニッポン放送のこの迅速な対応を評価する一方で、「『無料版ならOK』は、オンカジ側が編み出した詐欺的手法。メディアがそうした広告を流すこと自体が大きな誤解を生む原因となっている。他社もこれに追随して、早急にあらためてほしい」と話す。
■違法性を知らない日本人
そもそも「オンラインカジノ」とは何か。
政府広報オンラインによると、オンカジは、インターネット上で運営される賭博場を指し、海外の合法ライセンスを持つ業者が運営している。日本国内では賭博行為が刑法で禁止されており、公営ギャンブル(競馬や競輪、宝くじなど)以外のギャンブルをすることはすべて違法行為だ。同サイトにも「オンラインカジノの違法性に『グレーゾーン』はありません」とある。
だが、「日本ではオンカジが違法である」という認識が十分に広がっていないのが実情だ。
田中さんは「その違法性をほとんどの人が知らず、混乱を招いている背景には、政府の周知不足と情報発信の遅れがある」と指摘する。実際、政府がオンカジの違法性を明言したのは、2022年に発生した山口県阿武町の給付金の誤振込事件からだ。
この事件では、阿武町が誤給付した新型コロナウイルス対策の臨時特別給付金4630万円を犯人がオンカジに使っていたことが明らかになった。これを受けて岸田首相(2022年当時)は、国会答弁で「オンラインカジノは違法である」と明言した。
つまり、それまでは事実上、政府による「黙認」状態にあり、事件後も政府の対応は後手に回り、オンカジに対する取り締まりや啓発活動はほとんど行われてこなかった。
「ですから、2019〜2020年に高比良くるまさんが違法性をわかっていなかったのも、さもありなんという感じです。政府の対応が遅れていることが、オンカジの拡大を助長してきたといえると思います」(田中さん)
また、2018年には「IR(統合型リゾート)実施法案」が成立し、特定の地域内で認められた施設型カジノが解禁された。このことも、人々のオンカジに対する認識を混乱させる大きな要因となった可能性がある。
「IR法案が成立したことにより、『日本でカジノが解禁されたのだから、オンカジも合法だろう』と誤解した人たちも多いと思います」(田中さん)
オンカジの急拡大は、コロナ禍が引き金となったことも否定できない。「考える会」でも、コロナ禍以降、相談の10〜20%がオンカジ関連になったという。
「コロナ禍で外出自粛期間中など、自宅にいる時間が増えた。スマートフォンやパソコン1つで、24時間どこでも賭け事ができるオンカジの特性から、ハマってしまう人が急増した。コロナ禍で日本からのアクセス数は、コロナ前の約100倍になったといわれています」(田中さん)
オンカジは業者の広告戦略が巧妙であることも問題だ。
YouTubeやSNSを通じて、有名スポーツ選手などをイメージキャラクターに起用したり、ターゲット広告を利用してギャンブルに興味がありそうな若年層に狙い撃ちしたりする手法で利用者を増やす。
無料版を入り口として誘導され、気づけば有料版に移行して本格的にギャンブルにのめり込むケースが増加している。
■依存で借金から犯罪への負の連鎖
オンカジの問題の本質は、違法であることだけではない。
多くの利用者が気軽に始めた結果、ギャンブル依存症に陥ることで、「それまで健全だった若者が心身ともに深刻なダメージを受けてしまうこと」の問題を田中さんは危惧する。
オンカジ利用者は20〜30代男性が中心だが、若年化が進んでおり、「考える会」にも大学生や高校生の保護者からの相談が増えている。
「やりだしたらあっという間に依存症になって、重症化して自殺にまで追い込まれる人もいる。ギャンブルにのめり込むことで、多くの人が人生を失うリスクがあります」(田中さん)
オンカジを危険なギャンブルにしている最大の要因は、「ゲームのスピード」だと田中さんは言う。
「1回負けても、すぐに次の勝負ができる。すると、取り戻したいという心理が働き、どんどんお金を突っ込んでしまう。負けを重ねているうちに、思考が麻痺していく」
ギャンブルに使うお金がなくなると、人に金を借りるようになる。消費者金融はもちろんのこと、友人や家族などから、一見もっともらしい理由をつけて、5万〜10万円単位でお金を借りるケースも多い。もっともらしい理由とは、たとえば、「飲み会の幹事になったから前金を支払わなければならない」「出張費の精算が遅れているので立て替えが必要」などだ。
さらに、借金が膨らみどうにもならなくなると、詐欺や横領、窃盗、闇バイトなどの犯罪に手を染めるケースも出てくる。借金から犯罪へとつながってしまうのだ。
■今後求められる対策とは
田中さんは「ギャンブル依存症はその人の性格とはまったく関係なく、誰にでも起こり得ること」と話す。「自分自身だけでなく、家族や友人が巻き込まれることもあるし、会社で横領などの被害にあう可能性もある」と警鐘を鳴らす。
もし、家族や友人がギャンブル依存に陥った場合、どうしたらいいか。
重要なのは「お金を貸さないこと」だという。ギャンブル依存者の借金を肩代わりすることは、依存症を深刻化させる最大の要因になる。
「ギャンブルの借金を肩代わりしてしまうと、本人は『また助けてもらえる』と考え、やめられなくなる。すぐにお金を貸さないで、周りの人が『考える会』のような支援団体にまずは相談してほしい。依存症のための自助グループもあり、そこでたくさんの人が回復しています」(田中さん)
オンカジを過去に利用してしまい、「捕まるのではないか」と心配している人や、「やめたいのにやめられない」という人も相談してほしいという。「支援団体はオンカジで通報したりしないので、安心して相談に来てほしい」と田中さん。
何よりオンカジ問題は単に個人の問題にとどまらない。
日本のオンカジ市場は2023年には1兆円を超える売り上げがあり、すでに競輪と同規模になっていることが、海外のシンクタンクや調査会社のレポートで明らかになっているという。
■早急に規制を強化すべき
「違法ギャンブルがここまで野放しになったのは、さすがに初めてのこと。国民がこれだけ被害に遭っている以上、放置してしまえば、日本の社会全体にとってさらに大きな問題になる。まずはその違法性を広く認識させるための啓発活動が不可欠で、早急に規制を強化していく必要がある」と田中さんは言う。
2018年には、内閣府にギャンブル等依存症対策推進本部が設置されている。策定中の基本計画案によると、最新のオンカジ対策として、①違法運営・賭客の取締強化、②違法性の周知・啓発、③アクセス規制や広告禁止、④決済手段の抑止の実施、 がある。
関係省庁が連携し、これら依存症防止対策を進めていくという。
「まだまだ、オンラインカジノの違法性への認識が低いことから、『違法性の周知や啓発にもっと努めるべき』という指摘が多い。そのため、特に啓発活動から徹底していきたい」(内閣官房ギャンブル等依存症対策推進本部事務局)
オンカジは国際的な問題も絡むため、「その撲滅も一筋縄ではいかない」と田中さんは言う。それでも、今回の騒動によって奇しくも、オンカジの違法性のリスクについて社会全体が認識したことは間違いない。議論される大きな契機になることを期待したい。
石川 美香子 :医療ライター
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