( 269066 )  2025/02/23 15:23:34  
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Photo by Gettyimages 

 

「令和の米騒動」が収束の気配を見せないなか、ついに政府が「英断」を下した。2月14日にその詳細が明らかにされた、政府備蓄米の放出決定だ。 

 

備蓄米とは、深刻な凶作などの緊急事態を想定して、政府が備蓄している主食用米だ。その数は約100万トンで、日本全体のおよそ2ヵ月分の需要量とされている。 

 

今回の政府決定によると、まずはそのうち最大21万トンを市場に放出し、必要があればさらなる追加放出も想定しているという。 

 

筆者としてもまずは今回の政府による決定を歓迎したいと思う。だが、「もう少し早く動けていれば……」と思わなかったと言えばウソになる。その点は多くの読者の皆様も同じ感想ではないだろうか。 

 

昨年夏、スーパーの店頭から米袋が姿を消した。その後、新米が出回る秋になると、たしかに米は店頭に戻ってきた。だが、肝心の価格は消費者の期待を大きく裏切った。 

 

なぜ新米が出回ったのにもかかわらず、米の価格は下がらなかったのか。その理由は以前に筆者が別の記事で指摘した通りだ。つまり、空前の高値相場を見込んだブローカー的な業者が、農協などの提示額をはるかに上回る金額で生産者から米を買い集め、その結果、店頭の米価格が釣り上がったからだ。 

 

あまりに高い相場が続くので、米を抱えている一部の業者は「まだ上がるかも」という期待から、米の売り惜しみ行為に走った。2月16日には、九州の建設業者の倉庫から米の在庫が見つかったことが報じられたが、まさに「ブローカー的な業者」の実態を示す例と言えるだろう。 

 

また、こうした相場を当て込んで、「メルカリ」などのフリマサイトでも転売された米の出品が相次いでいる。一部報道では1kgで5,000円といった法外な金額の商品もあるとされ、主食用米がいわゆる「転売ヤー」の標的となる事態になった。 

 

相場への期待感から、米の在庫を持つ業者が売り惜しみに走り、流通が不足して相場がさらにつり上がる。これは1918年、「本家本元」の米騒動で見られた構図とほとんど同じだ。当時は、日本政府のシベリア出兵による米相場の高騰を見越した業者が米を売り惜しみ、民衆の怒りに火をつけた。 

 

1918年の米騒動は最終的に寺内正毅内閣の退陣へとつながり、日本の米市場のシステムも改善した。いや、改善されたはずだった。 

 

 

民衆の蜂起から100年以上が経った令和において、米は再び投機の対象となってしまった。農政をつかさどる江藤拓農相も2月3日の国会答弁において、現在の米相場の混乱について「マネーゲームであることは明らか」と述べ、投機的な動向に釘を刺した。 

 

だが、一連の騒動について、政府にもその責任の一端があることは記しておかないといけない。 

 

なぜならば、もっと早く備蓄米の放出を決めていれば状況は違ったはずだからだ。実際に放出はできずとも、「可能性をチラつかせる」だけでも、ここまで米市場が混乱することはなかったのではないかと思う。 

 

繰り返しになるが、米相場の混乱の原因は、各種業者が高値相場による「ひと儲け」に淡い期待を抱いたことにある。つまり、事前にその期待感を打ち砕いていれば、もう少し状況は落ち着いていたはずだ。 

 

そのカギとなり得たのが、政府による備蓄米放出だった。政府が保有する備蓄米は約100万トンある。これだけの量を抱える政府が「いつでも備蓄米を市場に流せる」というスタンスを見せていれば、需給緩和が進むという観測が立ち、ここまでの高騰につながらなかった可能性が高い。 

 

もっとも、仮に昨年夏の時点で備蓄米の放出を決めたところで、市場に出回る米の量がすぐに増えることはなかっただろう。一般的に備蓄米が市場に出回るのには3ヵ月ほどの時間を要するため、昨年9月に放出を決めても、実際に出回るのは年末に近かったと考えられる。 

 

それでも政府が「いつでも備蓄米を出すぞ」と、いわば「口先介入」をしておけば、相場が下降傾向になる前に米を売ってしまおうという心理が働き、売り惜しみが広がることはなかったのではないか。 

 

過去の失敗をあげつらっても仕方ないが、今回の決定にここまで時間がかかったのは政治のミスだったということは指摘しておきたい。 

 

………… 

 

【つづきを読む】《コメ高騰》転売ヤーが消えても、備蓄米放出でも「米の値段」は下がらない…《令和の米騒動》が今年も続く「最大の原因」 

 

市村 敏伸(農と食のライター) 

 

 

 
 

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