( 269136 )  2025/02/23 16:42:36  
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新幹線(画像:写真AC) 

 

 元国土交通相の赤羽一嘉衆議院議員が、新幹線の車内販売についてX(旧ツイッター)に投稿し、その後謝罪することになった。赤羽氏は「のぞみ」で炭酸水を注文した際、通常の「1.5倍以上の160円」という価格と、さらに300mlというミニサイズに不満を持った。 

 

 その上で 

 

「酷いな~ 二度と買うことはないでしょう」 

 

と批判した。この発言はインターネット上で物議を呼び、多くの反応を引き起こした。 

 

 では、新幹線の車内販売の価格は本当に「酷い」と言えるのか。本記事では、価格設定の合理性、サービスの成り立ち、比較対象の適正さ、そして交通インフラにおけるビジネスモデルの観点から、赤羽氏の発言が妥当かどうかを検証する。 

 

新幹線(画像:写真AC) 

 

 赤羽氏は炭酸水の価格を「通常価格の1.5倍以上」と指摘した。確かに、スーパーマーケットやコンビニエンスストアで販売されている炭酸水の価格は100円前後で、新幹線の価格は割高に見える。しかし、重要なのは「通常価格」が指す意味だ。 

 

 小売店で販売される商品と、移動中の特別な環境で提供される商品の価格を単純に比較するのは妥当だろうか。新幹線内での販売には、 

 

・輸送コスト 

・在庫管理 

・スペースの制約 

・提供にかかる人件費 

 

が加わる。航空機の機内販売やホテルのミニバーも同様の理由で市場価格より高い。 

 

 また、赤羽氏が注文した炭酸水は、すでにワゴン販売が廃止された東海道新幹線「のぞみ」で、グリーン車専用のモバイルオーダーサービスを通じて提供されたとされている。したがって、この価格設定は限られた利用者向けの特別なサービスであり、通常のスーパー価格との比較自体に疑問が生じる。 

 

 鉄道の車内販売は単なる「物の売買」ではない。移動中に商品を購入できる利便性そのものがサービスの一環となっている。 

 

 例えば、2023年10月に東海道新幹線の車内販売が終了する前、多くの乗客が出張や旅行の際にワゴン販売を利用していた。しかし、コンビニや駅ナカ店舗の充実により事前購入が一般化し、車内販売のニーズは低下。加えて、ワゴン販売用の人員確保が難しくなり、運営コストの観点から廃止が決定された。 

 

 この背景を踏まえると、グリーン車専用のモバイルオーダーは 

 

「必要な人に、必要な分だけ届ける」 

 

仕組みとして導入されており、通常の小売価格と比較して批判するのは本質を見誤っている。 

 

 

新幹線(画像:写真AC) 

 

 赤羽氏は「JR東海のサービスの概念はどうなっているのでしょう」と疑問を呈しているが、これは単に価格設定の問題なのか、鉄道会社の経営方針の問題なのかを整理する必要がある。 

 

 JR東海にとって、新幹線は収益の柱であり、ビジネスモデルの中心は旅客輸送だ。運賃収入が最優先されるため、車内販売のような付帯サービスは採算が合わなければ縮小されるのが自然な流れである。実際に東海道新幹線のワゴン販売は収益性の低下が大きな理由で廃止された。 

 

 また、鉄道業界全体を見ても、車内販売の縮小は世界的な傾向だ。例えば、フランスの高速鉄道TGVでは、かつては充実していた車内販売が縮小し、簡易的なカフェスペースでの販売に移行している。ドイツのICEでも、食堂車は存続しているが、ワゴンサービスは大幅に縮小された。 

 

 このように、鉄道会社はサービスの提供範囲を慎重に見直し、必要最小限の形に絞ることで収益性を維持しようとしている。つまり、JR東海のサービスの概念は、単に「削減」ではなく、「選択と集中」の結果だ。 

 

 赤羽氏の発言がここまで注目を集めた背景には、多くの消費者が「高すぎる」と感じる価格に対して反応しやすい心理があると考えられる。一般に、消費者は「公平な価格」を期待する傾向があり、日常的に購入している商品の価格が異常に高いと「ぼったくり」と感じやすい。特に、鉄道のように「公共性」の高いインフラに対しては、「適正価格であるべき」という意識が強いため、通常の市場メカニズムを無視して批判が生まれやすい。 

 

 しかし、前述のとおり、新幹線の車内販売価格は「移動中に購入できる」という付加価値を含んでおり、これを一般の小売価格と同列に語ることはできない。また、新幹線という高速移動手段自体が「時間を金で買う」サービスであることを考えれば、多少の価格差は「利便性の対価」として受け入れられるべきだろう。 

 

新幹線(画像:写真AC) 

 

 赤羽氏の発言を検証すると、新幹線の車内販売価格を「通常価格の1.5倍以上」と比較するのは適切ではなく、鉄道会社の経営判断や国際的なトレンドを考慮すれば、価格設定には一定の合理性があることがわかる。 

 

 一方で、消費者の心理として、日常的な価格感覚と大きく乖離した価格に不満を抱くのは理解できる。しかし、それが即「酷い」と断じるのは短絡的であり、鉄道サービスの提供形態の変化を踏まえた上で冷静に評価する必要がある。 

 

 新幹線の車内販売価格は、単なる「物の値段」ではなく、「移動空間におけるサービスの一環」として捉えるべきだ。今後、消費者と鉄道会社の間で価格に対する認識のギャップが縮まることが、より建設的な議論につながるだろう。 

 

 ただ、赤羽氏の発言に悪意があるようには見受けられず、軽いノリで発言した可能性が高い。そのため、SNSの自由な意見交換の場を守るためにも、過度な批判は避けるべきだろう。 

 

大居候(フリーライター) 

 

 

 
 

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