( 269141 )  2025/02/23 16:50:25  
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「かつや」の姉妹チェーン、からやま。赤い鶏のロゴが目印です(写真:鬼頭勇大)/配信先では画像を全て見ることができません。本サイト(東洋経済オンライン)内でご覧ください 

 

ライター・編集者の笹間聖子さんが、誰もが知る外食チェーンの動向や新メニューの裏側を探る連載。第2回はからあげ専門店からやまが「一人勝ち」するなぜに迫ります。 

 

■からあげブームの栄枯盛衰 

 

 「からあげブーム」が終了し、閉店の報道をよく耳にするようになった。「日本唐揚協会」の発表によると、2022年4月時点で、からあげ専門店の数は4379店舗(推定)。前年比40%増で、集計をスタートした2012年の450店舗から約10倍に膨れ上がった計算となる。 

 

 東京商工リサーチの調査でも、からあげ専門店を運営する企業は2017年3月末の109社から、2021年9月時点で235社へ。コロナ禍も追い風に、一気に2.1倍に増加している。これが、世にいう「からあげブーム」だ。   

 

 しかし、急速な市場拡大には反動がつきもの。「ステイホーム」需要の減退に加え、食用油や電気代高騰が直撃し、拡大路線を突き進んだからあげ専門店の多くが今、閉店を余儀なくされている。業界に冬の時代が訪れたのだ。 

 

 そんななかで、着実に成長を続けているのがからやまだ。現在の店舗数は国内121店舗、海外12店舗で合計133店舗(2025年1月末現在)と、最盛期に近い店舗数を維持している。  

 

【画像19枚】美味しそうすぎる…!  看板商品「カリッともも」など、からやまの人気メニュー 

 

 先日、ランチタイムを少しずらした14時頃に尼崎下坂部店を訪れてみたところ、それでも4、5組待ち客がいた。週末ともなれば、時間を問わず各店行列は当たり前だという。 

 

 なぜ、からやまだけがこの安定感を保てているのか。答えを探るべく、運営するエバーアクションのSV部部長山田桂也さんに話を聞いた。 

 

■開店当初から「ブームで終わらせない」決意で 

 

 からやまは2014年にブランドが立ち上がって以来、売上を伸ばし続けている。 

 

 コロナ禍においてもイートインが減った分、急激に高まったテイクアウト需要が売上を支えた。店によってはテイクアウトの売上比率が7割を占めたそうだ。 

 

 好調の理由を問うと、「大前提としてからあげは国民食。みんなが好きな商品ですから」と山田さん。続けて、「でもからやまが選ばれ、生き残っている一番のポイントは、お店で仕込みから行っている地道な姿勢にあるのではないでしょうか」と静かに語りだした。 

 

 

 からやまでは創業当初から、「ブームで終わらないようにしていこうね」と話していたそうだ。もちろん当時は、その後のブームを予測していたわけではない。だがその話があったからこそ、実際にブームが来ても動じることなく冷静を保てた。 

 

 「よそはよそ、うちはうち。からあげ1つひとつに『一品入魂』で仕込みをし、味をぶらさずに淡々とやっていたら、いつの間にかライバルが消えていった感じです。だから、ブームに乗ったと思われるのは迷惑ですね」 

 

 回転率の高さも好調を支える要因となっている。イートインでは基本10:30〜23:00(ラストオーダー22:30)の営業時間のなかで、平均10回転はするそうだ。 

 

 高い回転率は、「飲みに来る」よりも「ごはんとして定食を食べに来る」客が中心で、平均滞在時間が短いため実現しているのだろう。 

 

 客単価は、1人1000円強。「ごはんとして定食を食べに来る」客筋を最初に狙ったわけではない。当初は「飲み需要」も想定して酒やつまみも用意していたが、客にはまらなかったのだ。 

 

 もちろん、家族やカップルの滞在は「お一人様」よりは長いが、筆者が訪れたときに観察していると、長くても1組40分程度で店を後にしていた。 

 

■「一品入魂」の仕込みとおいしさを解剖 

 

 そして、飲食店である以上、あくまでも集客の要は「味」にある。からやまの味の決め手は、秘伝の漬け込みダレを使った仕込みにある。 

 

 手順はこうだ。まず、使用する鶏は解凍後、余分なドリップをしっかり切って味が染み込みやすい状態にする。次に、「レシピは極秘」というタレをしっかり揉み込み、1滴も残らず染み込ませるためにひと晩寝かせる。その後、馬鈴薯でんぷんをつけて形を整え、2時間寝かせて完了だ。 

 

 揚げるまでに、実に10時間以上の手間暇をかけている。それを惜しまないことで、外はカリッと、中はジューシーなからあげに仕上がるのだ。身にはしっかりと、醤油ベースの濃い目の味が付いていてごはんが進む。 

 

 大きさもポイントだ。からやまのからあげは、直径約5センチ。少し大きめだが、食べた瞬間に肉汁がジュワッと染み出す最適サイズなのだという。 

 

 揚げ油には、さっぱりと揚がる植物油をセレクト。その表面でからあげをくるくる回して余分な水分を飛ばしながら揚げることで、カリッと仕上がるそうだ。 

 

 

■コスパの時代に「手間暇」をかける 

 

 おいしさの秘密はまだある。成形だ。 

 

 からやまのからあげには、2種類の看板メニューがある。「カリッともも」と「ジューシーもも丸」だ。2つの違いは成形にある。カリッとももは俵に近い形で、ジューシーもも丸は球状。俵形は全体に火が通りやすく、表面がカリッと揚がる。 

 

 対して、ギュッと丸めるジューシーもも丸は、肉汁がより内部に閉じ込められ、噛んだ瞬間にあふれ出すのだ。どちらも1個約50gだが丸めるため、揚げ上がりのサイズ感はジューシーもも丸のほうが小さい。 

 

 この2種類のうち、主役を選ぶならどちらなのか。「一番食べてもらいたいからあげは、衣がカリッとして、中身はジューシーなカリッとももです」と山田さんは断言する。 

 

 その言葉通り、カリッとももの個数を3、4、5、6個から選べ、ごはん、みそ汁、キャベツをつけた「からやま定食」がメインメニューに据えられている。 

 

 しかし、「コスパ」「タイパ」が重視される時代に、なぜからやまはここまで手間暇をかけるのだろう。そこには、「他がオートメーション化しそうなところも手作業でしっかり行い、おいしいものを提供しよう」という企業文化があるそうだ。 

 

 同グループ運営の、とんかつ専門店かつやでも、パン粉をつける仕込みから店内で行っている。 

 

 また、その精神と姿勢を全スタッフに浸透させるため、アルバイトにも入店前にハンドブックを配り、店長が座学で説明する時間も設けている。 

 

 「売上や客数ももちろん大事ですが、一番は、おいしい料理でお客様が笑顔になって、『この店が日本一だね』と言ってくれることです。そういう意味での『日本一』の飲食チェーンを目指しています」 

 

■縁のからあげをかつやのオペレーションで 

 

 からやまのはじまりは2014年。当時の社長が偶然、テイクアウト専門の「からあげ縁‐YUKARI‐」(以下、縁)と出会い、あまりのおいしさに、「このおいしいからあげで、日本一のチェーンをつくろう!」と思い立ったことにある。 

 

 調べてみたところ、その頃は、「からあげ専門のレストランチェーン」は一軒もないブルーオーシャンだったそうだ。 

 

 ならばと、「縁のからあげをご飯のおかずにして、定食スタイルで提供したら面白いんじゃないか」「自社ブランド かつやのオペレーションにからあげを乗せたら面白い業態ができるのでは」などのアイデアが生まれた。 

 

 

 これを受けて、約40店舗をフランチャイズ展開していた縁の運営企業をM&Aし、新ブランドとして組み立てていくことになったのだ。 

 

 虜になったからあげをつくる技術は、縁のスタッフに教わった。反対にイートイン業態のオペレーションは、からやま側が教えた。反発などはなく、お互いにリスペクトがあり友好的だったという。その証拠に、同社は今も縁の事業を存続しつづけている。 

 

■40時間かけて、指導を行っている 

 

 からやまのからあげのレシピはその頃から変わらず、縁のものを再現している。味を守るため、新人アルバイトは調理場に入る前にタレの揉みこみや粉打ちを経験し、「からあげをつくる仕組みがどうなっているのか」を知ってもらうところから教わるという。 

 

 「ここを適当にすると、からやまのからあげじゃなくなってしまいますから」と山田さんは力を込める。1人につき、約40時間かけて指導するそうだ。 

 

 また同じ理由から、特別な事情がない限り、キッチン、ホール担当を分けずに採用している。たとえホール担当であっても、からやまのからあげの仕組みやレシピを理解していることが重要であり、客への説明もスムーズだからだ。 

 

 ここまで、仕込みのこだわりや味の魅力について語ってきたが、からやま好調の理由はそれだけに留まらない。 

 

【もっと読む】からやま「永遠リピートする人」生む“戦略”の妙 唐揚げブーム盛衰を乗り切ったのも納得のワケ では、「リピートしたくなる」付加価値や、お値打ち感の演出について、詳しく解説している。 

 

■後編で紹介している画像はこちら 

 

笹間 聖子 :フリーライター・編集者 

 

 

 
 

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