( 269501 ) 2025/02/24 16:34:13 0 00 京葉線(画像:写真AC)
2020年代も折り返し地点に差し掛かっている――。
2020年代前半は、コロナウイルスの感染拡大が鉄道業界に大きな変化をもたらした。それまでダイヤ改正の度に増発やサービス向上が行われていたが、コロナ禍では減便や減車対応を余儀なくされることとなった。
最近では、私鉄を中心に元のダイヤに戻す動きが強まり、歓迎される一方で、サービス低下や実質的な値上げが影響し、JRに対する不満が高まっているのも事実だ。
コロナ禍をきっかけに、今まであまり注目されてこなかった国鉄民営化の課題が浮き彫りになった。また、整備新幹線計画も転換点を迎えており、制度設立当初には想定されていなかった問題が次々と現れている。本稿では、2020年代後半に向けて検討すべき制度や政策について考えてみたい。
2020年代の始まりは、コロナ感染の影響で外出を控える動きが広がり、それにともない減便が相次いだ。特に、通勤時間帯以外は街や駅、列車から人々が姿を消す状況が特徴的だった。
東海道新幹線では、「のぞみ12本ダイヤ」の実現直後に一時的に定期列車が削減され、日中の「のぞみ」は1時間に3本まで減便されることとなった。それでも、車内は空席が目立ち、乗客の中には、車内での感染を恐れて、ペットボトルの緑茶をティッシュに染み込ませて、自席周りや窓枠、手が触れる部分を拭いてから着席する人も見受けられた。
その後の5年間、需要回復の状況は路線によって異なった。需要が回復した地域では、混雑問題が顕在化し、特に京都のJR嵯峨野線では、減車で一度他線区へ転出させた車両を戻せず、インバウンド需要の増加に対する対応が遅れたことがあった。また、東京ではJR山手線の混雑が問題視され、2025年のダイヤ改正でようやくラッシュ時の本数がコロナ前の体制に戻り始めた。
一方で、サービスの低下が影響し、乗客の回復が思うように進まなかったのが、京葉線で注目された通勤時間帯の快速全廃問題だ。減便や利便性の低下が続いたことが、回復の遅れを招いた要因のひとつと考えられる。
私鉄だったらここまでやっていたであろう京葉線理想ダイヤ(画像:北村幸太郎)
千葉市長によれば、議論も予告もなく、ダイヤ改正発表の前日に突然JRから京葉線の通勤快速と通勤時間帯の快速廃止が告げられたという。
2024年春のダイヤ改正で通勤快速が廃止されることにより、東京~蘇我間の所要時間は片道24分、往復で50分近く延びることになる(2023年春改正時の通勤快速減速分も含めて)。これにより、東京のベッドタウンを抱える千葉市や房総半島の各市町村にとって、沿線の魅力が大きく損なわれることとなり、一宮町長が
「公共交通機関としての自覚をかなぐり捨てた暴挙」
と表現したことにも理解が得られるだろう。
JR沿線の自治体は、地域の発展が民間企業の意向に左右される状況にあり、ダイヤ作成や経営に対する発言権がほとんどないという現実がある。地域の発展が特定の民間企業の裁量で決まることが許されるべきかどうかは、再考の余地があるのではないだろうか。
今回の京葉線の問題において、千葉市と房総半島全体が声を上げ、一部快速の復活やダイヤ変更が2度行われたことは一定の評価に値するが、完全に元通りになったわけでも、抜本的な改善がなされたわけでもないのが現状だ。今後、毎年継続的な改善を行っているという印象を与えるために、快速の本数が戻されているペースはやや遅く、小出しにされていると感じられる。このような中で、地域の発展を左右される沿線自治体がもっと関与できるよう、権限を強化する仕組みが求められるのではないか。
自治体は鉄道会社を選ぶことができない現状がある。運営会社によって発展する自治体とそうでない自治体が分かれてしまう状況が続くことは、このままでよいのだろうか。
交通行政においては、道路や土木計画の専門家が鉄道行政を担当することが多いが、鉄道の本質的な議論ができる専門家はあまり多くないのが現状だ。これが、自治体が鉄道に関する情報の非対称性を抱え、発言力が低下してしまう一因になっていると考えられる。
そのため、地域全体のグランドデザインを描き、鉄道事業者と十分に意見交換をすることが難しく、一方的な要望が押し付けられる場面が見受けられる。例えば、2023年春に発生した東海道線の快速アクティー廃止という出来事が、その典型的な例だ。
神奈川県鉄道輸送力増強促進会議という団体をご存じだろうか。この団体は、行政が関わり、県内の各市町村からの鉄道事業者への要望を取りまとめる活動をしている。例えば、この団体は、快速アクティーの通過駅である辻堂、大磯、二宮、鴨宮の自治体からの停車要望をそのまま鉄道事業者に送るリストを作成していた。
この対応に対して、JRは緩急接続などで通過駅の速達性を改善する措置を講じたが、県側がもう少し深く考え、要望を整理して提案すべきだったように思える。しかし、県は停車要望を引き続き行い、その結果、2023年春のダイヤ改正で、すべての列車が普通列車に変更されることとなった。
このような事例を踏まえ、各都道府県の担当者は、利便性向上のための方法を研究し、県全体でバランスの取れた輸送体系を議論し、最適な提案をJRに行うための力を養っていくことが重要だろう。
コロナ緊急事態宣言下の渋谷駅構内と中央線の車内(画像:北村幸太郎)
JRは2002年(平成14年)のJR東日本の完全民営化を皮切りに、西日本、東海、九州と順次、完全民営化を達成した。
完全民営化は、民間による自立した経営という印象を与えるが、実際には、利益を上げにくい部分を削減する方向性も見受けられる。JRは公共性を考慮しながらも、すべてを切り捨てるわけにはいかず、法的な問題や社会的な批判を回避しつつ、コスト削減の方法を模索しているように感じられる。
一部の経済専門家からは、「JRは株主資本利益率に過度に注力しているのではないか」という指摘もあり、外国人投資家による圧力が強いともいわれている。
しかし、京葉線においては、海浜幕張駅周辺の空き地を購入し、タワーマンションの開発によって利益を得る選択肢があったのではないかとも考えられる。それにもかかわらず、他社による開発を許し、その外部収益効果を取り込む機会を逃している点がある。
株主は、鉄道事業の経費削減や利益率の向上を求めるだけでなく、鉄道の利便性向上と、その結果としての外部収益効果を逃した点にも責任を感じるべきかもしれない。
利益率の向上を目指したのか、通勤ライナーは次々と特急に名称が変更され、着席料金も引き上げられた。当時、JR東日本のコーポレートスローガン「どこまで、行けるか」に従い、着席料金の引き上げ、どこまで可能かとでもいわんばかりに、区間によっては2倍以上に値上がりしたところもあった。
観光や出張用の特急ならば、千円以上かかるのも仕方がないかもしれないが、毎日の通勤に使う列車の料金が500円台から急に1000円に引き上げられるのはどうだろうか。その結果、特急「湘南」では、湘南ライナー時代には東京から51kmを超える藤沢や茅ヶ崎まで利用する人も多かったが、特急化後は料金が760円に収まるように、大船で多くの人が降り、その後は空いていることがしばしば見られ、最終的には一部列車で運行区間や時間帯が短縮されることになった。
また、京葉線では廃止された通勤快速の代わりに新たに特急が設定されたが、通勤快速時代より4分遅くなり、速達サービスが有料化されたことで、沿線住民からの不満も大きかった。
お得な切符や割引制度の見直しも進んでいる。最近では、青春18きっぷの仕様変更や往復割引の廃止、首都圏での運賃大幅値上げが話題になったが、2024年春には新幹線と在来線特急の乗継割引が廃止され、多くの人々が驚いたことだろう。
筆者(北村幸太郎、鉄道ジャーナリスト)もかつて東洋経済オンラインで、新幹線と特急が並走する区間で、往路の特急に対して復路を新幹線にすることで、特急往復より安くする方法や、在来線特急区間に挟まれた新幹線区間の途中駅で特急券を分割購入し、前後の特急列車両方に乗継割引を適用する方法を紹介し、割引制度の新たな利用方法を広めてきただけに、その廃止には残念な思いがある。
着席料金の吊り上げ、どこまで、行けるか(画像:北村幸太郎)
整備新幹線事業は現在、重要な転換点に差し掛かっていると言える。2022年に西九州新幹線が部分開業し、2024年には北陸新幹線敦賀延伸が実現したが、その後の開業計画についてはまだ具体的な進展は見られない。西九州や北陸地域では、中心都市から離れた沿線自治体が新幹線の整備に反対する傾向が見られる。
例えば、佐賀県、滋賀県、京都府などがその例にあたる。これらの地域は、すでに別の新幹線が通っていたり、中心都市に近いため、費用負担に見合うメリットを感じにくいという理由がある。このように、2020年代前半は整備新幹線事業が制度疲労に直面していた時期と言えるだろう。
そのなかで、北陸新幹線の小浜ルートについては強引な誘導が問題視され、整備新幹線ルートの議論においても同様の誤りが繰り返されるのではないかという懸念がある。
北陸新幹線のルート問題については、筆者が国の試算が米原ルートを不利に見せるために数字を操作していた点を指摘し、また他の専門家や地元政治家からも小浜ルートへの異論が広がっていることが明らかになっている。
最近では、「米原ルート議論は雑音だ」といった過激な意見も出てきている。しかし、もしJRの主張をそのまま受け入れ、北陸新幹線ルートの再考が行われないのであれば、整備新幹線の議論で再度誤りを犯すことになるかもしれない。
2020年代前半に直面した課題を踏まえ、2020年代後半にはどのような方向性を取るべきかについて考える。主に3つの重要な柱が挙げられるべきだと考えている。それは、
・JRから鉄道を国民の手に取り戻す時代 ・鉄道事業者にも寄り添った政策の実現 ・整備新幹線制度の抜本的見直し
である。
まず、JRから鉄道を国民の手に取り戻すためには、自治体の発言権を強化し、鉄道に対する理解を深めるための政策を実行する必要がある。具体的には、鉄道の専門家を各都道府県に配置することが第一歩となる。鉄道運行サービスについて深い理解を持つ人材を常勤で配置することが望ましい。
次に、鉄道の利便性を評価する指標として、有効本数と有効列車間の運転間隔を導入すべきだ。運行本数や運転間隔を評価に用いることは多いが、実際には列車の追い抜きや接続先路線の制約により、すべての列車が目的地に実質的に利用可能とは限らない。したがって、実際に利用可能な列車だけを数える有効本数や有効列車が重要な評価基準となる。
さらに、自治体がJR株を取得できるよう、財政的な支援を行うべきだ。2024年7月に岡山県真庭市がJR西日本の株を1億円で取得した事例が話題となったが、こうした発想は好ましいものである。自治体が一方的な要望を出すのではなく、資本参加することで発言権を持つことは理にかなっている。他の自治体が同様の措置を取れるよう、国が株の転売を禁止する条件で購入費を支援することを考えてもよいだろう。また、これに合わせて鉄道事業者の取締役に都道府県庁の関係者をひとり以上入れることを義務化することも、鉄道事業法改正を通じて実現できるかもしれない。このような施策を講じれば、JRから鉄道を国民の手に取り戻すことが実現可能だろう。
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