( 269546 )  2025/02/24 17:25:46  
00

(※写真はイメージです/PIXTA) 

 

キャリアアップを目指してバリバリ仕事をこなしていたサラリーマンのAさん。めでたく部長に昇進し、“部長手当”に喜んだのもつかの間。給料日に明細を確認したところ、思わず二度見してしまう事態に。いったいなにがあったのでしょうか。FPの武田拓也氏が具体的な事例をもとに、所得税や住民税の仕組みを解説します。 

 

都内の中小企業に勤めるAさんはとても上昇志向が強く、朝は誰よりも早くから、夜は誰よりも遅くまで働いていました。というのも、同期最速での部長昇進を目指していたからです。 

 

しかし、必死の努力も虚しく、その夢は叶いませんでした。同期で最初の部長が誕生してから2年後、Aさんは念願の昇進を果たします。 

 

部長へ昇進する前は営業部でバリバリ働いていましたが、部長として配属されたのは少人数の部署。辞令を聞いて少々肩透かしをくらったAさんでしたが「部長は管理職だから残業代もつかないし、仕事量が少ないならラッキーだな」と気持ちを切り替えます。 

 

昇進してからというもの、その日のうちにしなくてもいい仕事は翌日に持ち越すようになり、ほとんど残業をすることはなくなりました。そのおかげで以前より仕事を早く切り上げられ、時間に余裕が生まれたようです。これまでは断っていた飲みの席に参加したり、仕事帰りに趣味のゴルフ練習に行ったりするようになりました。 

 

そしてついに、昇進して最初の給料日。社内システムですぐに給与明細を確認しました。そこには、これまでにはなかった「部長手当」の文字が。 

 

「最速昇進は叶わなかったが、ここまで本当によく頑張ったよ俺は」 

 

これまでの努力を思い返してあふれそうになる涙をぬぐっていると……。 

 

「あれ……?」 

 

支給総額を確認したところ、これまでとほとんど変わらない金額が記載されていることに気づきました。 

 

「なんだこれ、間違っているんじゃないか?」 

 

思わず給与明細を二度見したAさん。しかし、何度確認しても金額は変わりません。 

 

そこで、懇意にしていた人事部の知り合いに内線したところ、衝撃の事実を告げられました。 

 

「A部長は前年の所得が900万円を超えていたので、所得税率が23%から33%に上がっているんですよ」 

 

「えっ……どういうこと?」 

 

一刻も早く昇進したいと目論んでいたため、なんとか成果をあげようとがむしゃらに仕事に励んできたAさん。その結果、残業代を含めた所得が900万円を超えてしまい、所得税率が上がってしまっていたのでした。 

 

 

1年を通じて勤務した給与所得者の平均給与は次のとおりです。 

 

給与所得者数は5,076万人で、その平均給与は460万円となっています。男女別にみると平均給与は男性569万円、女性316万円です。正社員と正社員以外の平均給与についてみると、正社員530万円、正社員以外202万円となっています。 

 

年収900万円超の給与所得者はどれくらいいるかというと全体の7%程度です。上位7%に入ったAさんですが、年収は900万円を超えているため高所得者となり、所得税の税率も高くなっています。 

 

[図表]所得税の税率と控除額 出所:国税庁『所得税の税率』 

 

所得税の税率は、分離課税に対するものなどを除くと5%から45%の7段階に区分されています。 

 

所得税は累進課税のため、所得が高ければ高いほど税率も高くなる仕組みです。所得が900万円を超えると、所得税率が23%から33%に10%上がります。そのため、所得が増えても思ったほどに手取り額は増えません。 

 

さらに社会保険料もAさんのように年収が上がるにつれて増加していきます。厚生年金や健康保険に加え、40歳以上の人は介護保険料も負担するようになり、額面に対して手取りは少なくなります。 

 

 

 

所得税の例 

 

年収800万円の場合………800万円×23%-636,000円=120.4万円 

 

年収1,000万円の場合……1000万円×33%-1,536,000円=176.4万円 

 

住民税の増加 

 

また、手取りが減る原因となる税金は、所得税以外にも住民税があります。住民税は前年の所得に基づいて計算されます。 

 

Aさんは昇進するために仕事を頑張っていたため残業も多く、住民税が思いのほか引かれていました。住民税は10%(道府県民税4%、市町村民税6%)が一律に課税されるため、年収増加に比例して負担する住民税も増えていきます。 

 

手取り額について 

 

年収900万円の場合、手取り額は約660万円です。 

 

年収1,000万円の場合、手取り額は約720万円となり、年収900万円と年収1,000万円を比較すると年収には100万円の差がありますが、手取りは年60万円ほどの差となります。 

 

管理職に昇進して年収が100万円ほど増えたとしても、月の手取りは約5万円の増加となるため、昇進前の残業代が月5万円ほどなら手取りはほとんど増えません。 

 

 

Aさんの場合、念願の部長に昇進して額面の給与は増えたものの、管理職となったことで残業代が付かなくなりました。また、これまでみてきたように、年収が増えると所得税と住民税の負担も増加するため、手取り額は思っているよりも増えません。 

 

特に所得税は累進課税のため、頑張って稼いでも一定の所得を超えると税率がアップし、手取りが増えにくい仕組みになっています。年収の高い人からすると、理解はできても国ばかりが得をするので納得がいかないかもしれません。 

 

「iDeCo」や「ふるさと納税」…自分に合った税金対策を探そう 

 

そのため、もしも「税金とられすぎじゃないか?」と感じている人は、iDeCoやふるさと納税、不動産投資などを上手く活用することをおすすめします。まだ税金対策に取り組んでいなければ、積極的に情報収集を行いながら、自分に合った方法を探してみてはいかがでしょうか。 

  

 

 

 

【参考】 

  

 

国税庁『令和5年分 民間給与実態統計調査』 

 

 

国税庁『所得税の税率』 

 

武田 拓也 

株式会社FAMORE 

代表取締役 

 

 

 
 

IMAGE