( 269921 )  2025/02/25 17:13:11  
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石破首相も「金利ある世界」の利払い費について「重大な課題」と答弁(写真:Bloomberg) 

 

 2月21日、加藤勝信財務大臣は閣議後会見で、長期金利上昇を踏まえて「金利が上昇することで利払い費が増える。政策経費を圧迫する恐れがある」との認識を示した。 

 

 2月20日には、新発10年国債の利回りが一時1.44%と2009年11月以来の高水準となっていた。 

 

 この加藤財務相の発言に対し、「金利が上昇して利払い費も増えるが、政府の受取利息も増えるから、財政は悪化しない」という見方がある。それは、本当なのか。 

 

 政府は、利息を支払うだけでなく、受け取ってもいる。では、どのような形で利息を受け取っているのか。そこが重要である。 

 

■米国債の利息は防衛費に回る 

 

 一般会計と特別会計を合算した「国の財務諸表」をみると、利息を生み出しそうな有価証券は、その大半が外国為替資金特別会計において保有する外貨証券であることがわかる。その多くは米国債である。 

 

 だから、そもそも日本国債の金利上昇とは無関係な受取利息である。日本国債の金利が上がっても、この受取利息は増えない。 

 

 仮にこの受取利息が使えるとして、今後日本国債にまつわる利払い費を賄うことはできるのか。外国為替資金特別会計において保有する外貨証券等から得た収益は、すでに、防衛費の財源に回すことを法律で規定している。 

 

 2023〜2027年度における5カ年の防衛力整備計画に必要な予算規模40.5兆円(防衛力整備の水準は43兆円だが、2.5兆円はさまざまな工夫によって捻出)の財源として、防衛増税を極力少なくするために、税外収入を充てることが予定されている。その税外収入の中には、外国為替資金特別会計における収益が想定されている。 

 

 だから、外国為替資金特別会計における収益は、一般会計の利払い費に回すことよりも、防衛費に回すことが念頭にある。仮に防衛費に回さないなら、その分防衛増税を多くしなければならない形で影響が及ぶ。 

 

■年金積立金の利息は流用できない 

 

 他にも政府の受取利息はあるだろう、と漠然と思う人はいるかもしれない。年金積立金で国内債券に運用している分から上がる受取利息はどうか。 

 

 確かに、金利が上がれば、その受取利息は増える。しかし、年金積立金を運用して得た受取利息は、当然ながら年金給付に回すものであって、一般会計の利払い費に回るはずはない。 

 

 

 年金積立金の運用で得た受取利息を、年金給付の増額(ないしは減額の抑制)に充てずに一般会計の利払い費に回した、となると、国民はどう思うだろうか。「利払い費なんかに回すのではなく、年金給付に回せ」、多くの国民は当然そう考えるだろう。だから、受取利息が増えても一般会計の利払い費には回せないのである。 

 

 さらに、財政投融資で独立行政法人などにお金を貸していて、貸出金から得る受取利息があると想起するかもしれない。 

 

 そもそも、財政投融資は、財投債という国債で資金を調達して、独立行政法人などにお金を貸している。通常は、調達側の国債は10年前後の満期で借りていて、貸出側は20〜40年程度の長期固定金利で利ザヤなしで貸している。金利低下局面では、借りる国債の金利が低下する一方で、すでに貸している貸付金の金利の方が高いから、差益が出る。しかし、金利上昇局面では、その逆になる。 

 

 調達側の国債の金利が上がって直ちに費用が増加する一方で、貸出側は金利が固定されているから収益は増えない。いわゆる逆ザヤになってしまう。 

 

 財政投融資は、逆ザヤになって赤字が出ても直ちに国民に迷惑をかけないように、金利変動準備金を用意している。 

 

 ただ、「金利が上がれば受取利息も増えるから財政は悪化しない」という言説が間違っているということだけは確かである。 

 

■利払い費はすでに増加に転じている 

 

 おまけに、財政投融資は、国の特別会計で運営されているが、財政健全化目標の指標である国と地方のプライマリーバランス(基礎的財政収支)の対象外の会計である。だから、財政投融資で収支が改善しようがしまいが、国と地方のプライマリーバランスには何の関係もない。 

 

 だから、どう逆立ちしても、「金利が上がれば受取利息も増えるから財政は悪化しない」というのは間違いで、金利が上がった分、一般会計の利払い費が増え、税収が増えない限り、増えた分は政策経費を切り詰めないといけなくなる。 

 

これまで利払い費はどんどん減っていて、当初予算で利払い費を多く見積もっては補正予算でそれを減らして財源として使っている、という批判がある。しかし、東洋経済オンラインの拙稿「『金利ある世界』で一つの『財政の神話』が終わった」でも触れたように、一般会計の利払い費はすでに2023年度決算から反転増加している。国債残高は増える一方であり、利払い費が今後さらに大きく減ることは見込めない。 

 

 

 では、物価上昇局面で税収も増えているのだから、それで増える利払い費が賄えるという見方はどうか。 

 

 確かに、税収が増えた分は、国民に「還元」しなければ、財政収支の改善につながるし、利払い費にも充てられて、政策経費をそれだけ圧迫しないで済むかもしれない。 

 

 しかし、増えた税収を国民に「還元」せよという声は大きい。国民に還元、つまり減税すれば、それだけ財政収支は改善しないし、利払い費に充てる税財源も減って、政策経費をそれだけ圧迫する。この関係だけは不変である。 

 

■増える税収で利払い費を賄えない 

 

 そういえば、2010年代に消費増税の是非が問われていたころ、「景気をよくすれば、増税をせずとも税収が増えて、それで財政赤字も減らせるから増税は必要ない」という言説があった。今となってはどうだろうか。 

 

 2019年10月に消費税の標準税率を10%に上げて以降、大きな増税はせずとも税収は増えている。しかし、物価高の生活苦を緩和すべく減税や給付が大規模に行われている。そして、内閣府の中長期試算では、2025年度のプライマリーバランスの黒字化は達成できないという結果が示されている。 

 

 結局、「増税せずとも税収が増えて、それで財政赤字も減らせる」という言説は、空手形に堕している。この言説が、いかに場当たり的だったか。 

 

 それに、税の自然増収では利払い費を賄いきれないのが実態である。 

 

 2025年1月に国会に提出された「令和7年度予算の後年度歳出・歳入への影響試算」によると、想定よりも名目成長率が1%上昇した時の一般会計税収は、3年後には増税をせずとも3.1兆円増えるのに対し、金利が1%上昇した時の一般会計の利払い費は3年後に3.7兆円増える。 

 

 つまり、成長率と金利が同率で上昇しても、税の自然増収より利払い費の増加の方が多いのである。 

 

 現実に反した脳天気な財政の見方は政策判断を狂わせる。わが国の財政構造は、そうした状況にあるという現実を直視しなければならない。 

 

土居 丈朗 :慶應義塾大学 経済学部教授 

 

 

 
 

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