( 270026 )  2025/02/26 03:29:55  
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夜の街・歌舞伎町にはホストクラブが300以上あるという(写真:玉置じん/アフロ) 

 

蓄積した多額の飲食代を売掛金としてホストが立て替え、その返済のために女性客を国内外の性風俗店などに紹介する悪質ホストクラブ。この問題をめぐって、警察庁では2024年夏から有識者を交えた議論がなされ、今国会で“悪質ホストクラブ規制法案”が審議される予定だ。禁止行為が明示され、罰則規定も強化される予定にある。ただ、それでもなお、そうした法規制の実効性に疑問の声もある。どこに問題があるのか。ホストクラブに通う女性当事者、国会議員、ホスト事情に詳しい記者に話を聞いた。(文・写真:ジャーナリスト・岩崎大輔/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部) 

 

「私がホストクラブに行きだしたのは2020年12月。コロナで街が静かだった頃でした。当時、SNSで知り合った大学生の男の子がいて、その子がアルバイトでホストを始めて1週間で、指名がまだないと言うんです。『じゃあ、行ってあげるよ』で行ったのが、最初のホストクラブでした」 

 

そう語るのは、優香さん(45)。東京郊外に住み、夫もいる既婚者だ。結婚前の8年間は専門学校の講師として勤め、若い男子と会う機会が多かった。そのため、新宿・歌舞伎町のホストクラブに初めて入ったときも驚きや違和感はなかったという。 

 

「初回は1万円でした。彼はとくにイケメンというわけじゃないし、私もイケメンを求めていたわけじゃない。若い子たちの元気な感じがなんか懐かしいな……という感覚でした。で、1回行っただけでは悪いので、1週間後に2回目、3回目と行った。そのときの料金は3万円ずつでした」 

 

ホストクラブに通って4年ほどという優香さん 

 

本格的に通いだしたのは翌月、2021年1月からだ。当時の優香さんは主婦。昼間ホストととりとめのないメッセージを1日20通近く交わし、配信での課金という形で参加した。次第にリアルの店へ行く回数も増え、春になると週4回店に通いだした。60分1万円のクイックというコース。夫が帰宅する22時前後までに帰ってくるという生活が始まった。 

 

はまった理由は三つあると優香さんは言う。一つはホストクラブ体験のSNSの発信、二つ目は疑似恋愛の楽しさ、三つ目が不妊治療などで悩む日常からの逃避だったという。 

 

「ツイッター(現X)に『こんなことしたよー』とホストクラブでのことを書くと、リアクションがあってフォロワーが増える。それがまず楽しい。それから疑似恋愛。私は性的な関係は望んでなかったし、それをしたら終わりだなと思ってた。それに、私は不妊治療を数年やっていて、そのつらさがありました。夫の家は素封家で、義母も跡取り息子の誕生を強く望んでいた。でも、なかなか恵まれない。そういうプレッシャーからの逃避もあってホストにはまっていった感じでした」 

 

 

バー、カラオケ、キャバクラ、ホストクラブ、など多くの飲食店がある歌舞伎町(写真:momo.photo/イメージマート) 

 

美容院で髪をセットし、歌舞伎町に向かう。シャンパンを入れると1回の会計が30万円を超える。その領収書をツイッターに上げると、フォロワーが増える。次第に歌舞伎町こそが私の居場所だと感じ、歯止めが利かなくなっていった。「担当」のホストは1年で3人ほど代わり、店の移籍もあった。担当の移籍のときはまとまったお金が必要だった。夫はそんな優香さんの変化に気づかず、時間が過ぎた。 

 

破綻は1年でやってきた。優香さんが使っていたお金は、子どもができたときのためにと貯蓄しておいた2800万円。2022年1月、確定申告の時期が近づくなか、その口座がゼロになったのを夫に打ち明けねばならなかった。優香さんは「話があるんだけど……」と夫に説明したという。 

 

「『じつはホストにはまって……』と打ち明けました。それに対し、夫は『マジか……』と、静かに驚いていました。怒りはしなかった。彼は物事に対して、すべて受け止めて対策を考えるタイプ。このときもすぐに『じゃあ、今後どうしようかね……』という話になりました」 

 

優香さんは不妊治療の悩みなどを打ち明け、自ら離婚も切り出したが、夫は「離婚しなくていいよ」と結婚を維持するよう勧めた。それでは申し訳ないと優香さんが別居を切り出し、籍はそのままで別居生活となった。そして、自身も心機一転、飲食店で働きだし、新たな生活を送りだした。 

 

だが、優香さんはホストクラブ通いをやめなかった。 

 

多額の費用を使い込んでも「やめられない」という優香さん 

 

クイックを週2回というペースをその後も維持し、現在に至っている。ただし、借金の返済をし、ホスト通いをするには、飲食店の給与だけでは足りない。そこで月に数回デリバリーヘルスという性風俗のアルバイトを入れることで、この生活を維持しているという。なぜそこまでして続けるのか。優香さんは「依存なんですよね……」と話す。 

 

「それは自分でもわかっています。でも、やめようとも思わないし、やめられないと思う」 

 

だから、これから議論される予定の悪質ホストクラブ規制法案については、効果があるのかなと疑問を語る。 

 

「私は強制もされていないし、だまされて風俗をしているわけでもない。ホストから無理やりやらされているわけじゃないんです。あくまで自分が好きでやっている。それを思うと、その法案がどこまで意味があるのかわからないなぁと思いますね」 

 

 

シャンパンを入れると数十万円、シャンパンタワーとなるとその数倍かかるという(アフロ) 

 

今国会に提出される予定の悪質ホストクラブ規制法案こと風俗営業法改正案。多額の飲食代を売掛金として女性客に背負わせ、手元のお金がなくなると消費者金融を使わせ、多額の返済のために性風俗店に紹介したりして、売春をさせる。人身売買とも言える問題だ。この対策のため、2024年夏から警察庁では有識者を交えて「悪質ホストクラブ対策検討会」を開催。5回の検討会での議論とその報告書を踏まえ、法改正が予定されている。そこではおもに四つの柱が規制として掲げられている。 

1)料金支払いのための売春などの要求の禁止、2)性風俗店による紹介料(スカウトバック)の禁止、3)無許可営業などへの罰則強化、4)風俗営業不適格者の排除だ。 

 

無許可営業等への罰則として、従来は法人に対して200万円以下だった罰金が、改正案では最大3億円以下という案が上がっている。「200万円などの罰金ではホストクラブの一晩の売り上げにも満たず、効果がない」という指摘もされていたためだ。また、禁止行為も明確にし、料金支払いのための売春、性風俗店勤務、AV出演等の「要求」をした時点で、「6か月以下の拘禁刑または100万円以下の罰金」と罰則も強化される。実際に働かせていなくても、「要求」をした時点で罪に問えるようになったことは小さくない。一方で、グループ経営の場合、仮にある店舗が許可取り消しの処分となっても、他店舗はその対象とならないなど、課題も残っている。 

 

「2023年5月、国会の本会議場で私が歌舞伎町の“トー横キッズ”について質問をしたところ、ポカンとした表情をした議員が多数いました。悪質ホストクラブの問題も、当初はホストと女性客の色恋事だからと問題意識を持ってもらえない状況でした」 

 

そう語るのは、立憲民主党の吉田晴美・衆議院議員だ。吉田さんら立憲の議員は2023年11月、悪質ホストクラブ被害対策推進法案を議員立法として提出。いち早く悪質ホストクラブ規制の立法化に動いてきた。いまのホストクラブは若い人がアクセスしやすくなっているところにまず問題があると吉田さんは指摘する。 

 

「これまでホストクラブに縁がなかったような若い女性が、SNSやマッチングアプリをきっかけにホストと知り合える時代となりました。ホストクラブは店が関与せず、個人の出会いの場であるという建前ですが、女性客に多額の支払いをさせ、債務を負わせるため、ホストはさまざまなやり方で店に招きます。すでにホストにハマった女子大生を使って、大学内やアルバイト先の女子大生に『初回は無料だから』と誘ってみたり、アマゾンギフト券を渡したりして、店に来るハードルを下げています」 

 

 

吉田晴美・衆議院議員(2期)。証券会社や経営コンサルティング会社等を経て、政治の道へ。1972年生まれ。 

 

最初は少額の支払いでも、「◯◯ちゃんだけだよ」「一緒に店を開こう。そのためにホストで開業資金を貯めないと」と甘い言葉を投げかけ、10万円、20万円と支払額を上げていく。気がつけば、女性客は数百万円、数千万円という売掛金を背負わされる。結果、性風俗店で働いたり、犯罪に手を染めたりと追い詰められると吉田さんは言う。 

 

「高額な売掛金を返済するため、『稼げるリゾートバイトがあるよ』と軽い言葉で海外売春までそそのかすところも出ています。海外に飛ばされれば、暴力にさらされるだけでなく、薬物中毒などのリスクもあります。海外売春は人身売買と同義です。国をまたいで連携している犯罪組織の影も見え、闇バイトでも注目が集まったトクリュウ(匿名・流動型犯罪グループ)にお金が流れている強い疑いもある。これは立法府として対処せねばならないと痛感し、それで議員立法で出したのが一昨年と昨年でした。それらは審議には至りませんでしたが、今国会では政府から風営法改正案として提出されてくるとのこと。石破茂首相も施政方針演説で言及しており、成立への道筋が見えてきたと思います」 

 

今回の規制法案で主要な改善点がいくつかある。ホストが女性客を性風俗店に紹介した際にもらうスカウトバック。これは違法として禁止され、6カ月以下の拘禁刑または100万円以下の罰金が見込まれている。また、恋愛感情につけ込んだ飲食等の要求などについても禁止行為と盛り込まれ、罰則も強化されると吉田さんは言う。 

 

シャンパンをあけてもホストが飲んでいくため、女性客が飲めるのはわずか(アフロ) 

 

「例えば『自分をナンバーワンにしてくれ』のような恋愛感情が交じるような発言は禁じられます。また、酔っ払って判断がつかない状態で頼んでいないシャンパンを入れたりするのも禁止。法人に対しては、無許可営業等に対する罰則で最大で200万円以下だったのを3億円以下と大きく引き上げる。これまでまかり通っていたことはさまざま禁止事項となる予定です」 

 

ただ、それに対してホスト側もいち早く対策を打ち出しているという。 

 

「われわれが動き出して以降、歌舞伎町も対応に迫られたようで、ホストはLINEで『好きだよ』などの文言は送らず、それらしきスタンプを女性客に送るようにしているようです。法的に言質を取られないようにしているわけです。法規制前の現在でも売掛金をやめるなど一定の動きが出ているようですが、法案成立後に網の目をかいくぐろうとする者もいるでしょう。そこをどうするか、今後の国会で議論が必要です」 

 

 

 
 

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