( 270706 )  2025/02/27 17:07:59  
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 結局、破談となった日産とホンダの経営統合だが、両社には経営状態やその理念に加えて技術にも大きな違いがある。それを象徴するのが日産のe-POWERとホンダのe:HEV。今回の一連の報道では、この2つのユニットの違いが白日の下にさらされてしまった……。 

 

 文/長谷川 敦、写真/日産、ホンダ、CarWp.com 

 

 日産とホンダが袂を分かつ理由はベストカーウェブをはじめとするさまざまなメディアで語られているので、本稿でそれを詳しく書くことはしないが、基本的な図式としては経営が苦しい状態にある日産をホンダが子会社化しようとして、それに日産が応じなかったとされている。 

 

 ではなぜ日産が苦境に陥ったのか?その原因もひとつではないはずだが、大きな理由として北米市場での売り上げ低下がある。 

 

 日産車が北米で売れていないのは、同社の持つハイブリッドシステムが当地に適していないからだといわれている。 

 

 その日産製ハイブリッドシステムがe-POWER(イーパワー)で、日本国内では人気と評価を得ている(2024年コンパクトカー売上No.1)ものの、北米では思うように売り上げを伸ばせていない。 

 

 これにはe-POWER特有の理由があって、そのことについては後述する。 

 

 対するホンダのハイブリッドがe:HEV(イー エイチ イー ブイ)と命名されるシステムであり、こちらは全世界で高く評価され、実際にセールスも好調だという。 

 

 一見同じように思える両社のハイブリッドシステムだが、実際にはほぼ根本からの違いがあり、これが売り上げにも影響しているのは事実。 

 

 そこで次項からe-POWERとe:HEVの詳細を見ていくことにし、どうして評価に差がついたのかを考えてみたい。 

 

 日産のe-POWERが登場したのが2016年。2代目ノートのマイナーチェンジと同タイミングでラインナップに追加された。 

 

 e-POWERは世界で初めて量産コンパクトカーに採用されたシリーズ式ハイブリッドシステムであり、登場するやいなや注目を集めて好調な販売成績を記録した。 

 

 シリーズ式ハイブリッドシステムはそれまでのパラレル式とは異なり、走行用の動力はすべて電動モーターから得るのが特徴だ。 

 

 つまり車体に搭載されるエンジンは発電用であり、少々乱暴にいうとe-POWER搭載車は発電機を積んだ電気自動車ということになる。 

 

 e-POWERのポイントは、通常は走行に使う1.2リッター直列3気筒エンジンを発電用にしたことで、これに電動モーターとバッテリーを組み合わせてハイブリッドシステムを完成させている。 

 

 内燃エンジンにはエネルギー効率に優れた回転数があり、e-POWERでは走行を電動モーターに任せることによって、エンジンを最も燃費の良い回転数で回すことができる。 

 

 そのため燃料消費が抑えられ、結果として高い燃費性能を実現した。 

 

 この特性は電動モーターが得意とする発進〜低速走行で顕著に発揮され、いわゆる街乗りで燃料代を抑えることに貢献する。 

 

 だが、e-POWERには高速走行時の燃費が思ったほど良くないという弱点もある。 

 

 パラレル式ハイブリッド車が高速走行では主に内燃エンジンの動力を使うのに対し、e-POWERでは高回転時の効率が落ちてしまう電動モーターで高速も走らねばならず、結果としてハイブリッドでありながら燃費性能が低下してしまう。 

 

 これが時にe-POWERが「街乗り専用」と揶揄されてしまう理由だ。 

 

 低速走行の多い日本、特に都市部ではe-POWERの強みが発揮されるが、高速で長い距離を走ることの多い北米では高速燃費が良くないことが敬遠され、e-POWER車のセールスは苦戦している。 

 

 

 e-POWERはシリーズ式ハイブリッドだが、内燃エンジンと電動モーターのどちらも動力に使用するハイブリッドシステムはパラレル式と呼ばれる。 

 

 トヨタが採用するのがこのシステムで、低速走行は電動モーターが請け負い、高速ではエンジンとモーター両方の力で走行する。 

 

 エネルギーを効率良く使えるパラレル式ハイブリッドはきわめて高い燃費性能を発揮するものの、そのぶん制御が難しく、ユニットも高価になってしまうのが難点。 

 

 ホンダのe:HEVはパラレル式に分類されるが、低速では電動モーター、高速走行は内燃エンジンと、速度域によって動力を切り換えるのが特徴だ。 

 

 この方式ならばエネルギーの損失も少なく、低速から高速までのトータルで燃費が向上する。 

 

 つまりe:HEVは高速走行の機会が多い海外需要にもマッチしていて、実際に世界各国で人気を集めている。 

 

 そしてポイントなのが、e-POWERよりは複雑になってしまうが、トヨタ式ほど制御が複雑ではないためコストを抑えられることだ。 

 

 こうしたコストはもちろん車体価格に影響し、ホンダのe:HEV搭載車はリーズナブルな車両価格になり、かつ燃料代も抑えられるというメリットが得られる。 

 

 おそらく現状で最も効率の良いハイブリッドシステムはトヨタ式だが、同社はハイブリッドシステムに一日以上の長があり、後続メーカーがなかなか追いつけない領域にいる。 

 

 そのために日産、ホンダともに独自のハイブリッドシステムを開発したのだが、EV寄りの戦略をとった日産の判断が今のところは失敗に終わっているといえそうだ。 

 

 もちろん、燃費はドライバーの乗り方ひとつでも大きく変化するので、e-POWERとe:HEVのどちらが優れているかのジャッジは簡単にはできない。 

 

 とはいえ日産のハイブリッドシステムが世界では苦戦しているのも事実であり、それが現在の経営悪化の要因になっているのは間違いない。 

 

 初代ノートe-POWERの発売直後は高い評価を得て販売成績も大きく伸びたが、それはあくまで日本国内や欧州の一部などでの話だった。 

 

 そしてさまざまなハイブリッドシステムが出揃った感のある現在では、e-POWERの弱点が目立ってきてしまっている。 

 

 こうした状況を打破するためか、日産は開発中の第3世代e-POWERを前倒しで市場に投入するというウワサも浮上してきた。 

 

 従来のe-POWERで弱点だった高速燃費の不利を改善したといわれる第3世代e-POWERは、同時にコストダウンに成功したとの話もある。 

 

 これらのウワサが真実であれば、燃費性能に優れ、さらに車体価格も抑えられた新たな日産製モデルが登場する可能性も高い。 

 

 この第3世代e-POWERが日産復活の切り札となるのか?これからも注目していきたい。 

 

 

 
 

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