( 270721 )  2025/02/27 17:26:58  
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(※写真はイメージです/PIXTA) 

 

FP office株式会社の髙屋亮FPによると「年収1000万円前後の世帯ほど『老後破綻』に陥りやすい」そうです。現役時代にしっかり稼いでいれば老後は安泰のはずですが、いったいなぜなのでしょうか。年収1,000万円のサラリーマンAさんの事例をもとに、老後破綻に陥る原因と解決策をみていきましょう。 

 

国税庁「令和5年分 民間給与実態統計調査」(2024年)によると、日本人の平均給与は下記のようになっています。 

 

 

 

■給与所得者※数……5,076万人 

 

男性:2,887万人(前年比1.3%減、39万人の減少)、女性2,189万人(同1.8%増、38万人の増加) 

 

  

 

■平均給与……460万円(同0.4%増)。 

 

男性:569万円(同0.9%増、5万2,000円の増加)、女性316万円(同0.7%増、2万1,000円の増加)。 

 

正社員:530万円(同1.3%増、7万円の増加)、正社員以外:202万円(同0.7%増、1.4万円の増加)。 

 

  

 

・給与階級別分布をみると、男性は年間給与額400万円超〜500万円以下の者が構成比17.5%(504万人)ともっとも多くなっている一方で、女性は100万円超〜200万円以下の者が同20.5%でもっとも多い。 

 

※ 1年を通して勤務した給与所得者。 

 

日本の平均年収は460万円で、年収1,000万円以上のビジネスパーソンは5.5%程度しかいません。しかし、高所得だからといって油断は禁物。年収1,000万円台前半の世帯は、老後に家計破綻を起こす傾向があるのです。 

 

52歳のAさんは、年収1,100万円のサラリーマンです。妻は週に3回程度パートをしていますが、家計は主に世帯主であるAさんが支えています。このほか、大学3年生の長男と、高校3年生の長女がいます。 

 

ある日「相談がある」と筆者のもとを訪れたAさん。貯蓄額が心もとなく、老後の生活が不安だといいます。 

 

年収1,000万円を超える世帯は、先述のようにごくわずか。Aさんも、迷わず「エリート」の部類に入るはずです。しかし、Aさんの預貯金は現時点でも600万円ほどしかないといいます。 

 

「そんなに贅沢しているつもりはなかったんですが、継続的に貯蓄することが難しかったんです」 

 

Aさんは苦い顔で言いました。 

 

 

Aさん「学資保険は準備していたので、子どもたちの学費については問題なし。あとは退職金と年金でなんとか暮らせるだろうって、漠然と思っていたんです。 

 

50代以降のねんきん定期便には、65歳時点での年金受給額の目安が書いてあると聞いて、こないだ初めてちゃんと見てみたんですが……いやはや、思わず二度見してしまいました。 

 

そこには、私の年金額は190万円、ひと月分に直すと16万円程度と書いてあったんです。妻の分を足してもせいぜい月25万円。年収が増えるにつれて厚生年金の天引きも増えていたから、もっともらえると思っていました。自分で言うのもなんですが、年収1,000万円以上の給与をもらっている日本人って5%くらいですよね? だから、この金額はなにかの間違いだろうと思ったのですが……」 

 

年金「月25万円」は平均額を上回っているが… 

 

Aさんが不満を漏らす「月25万円」の年金受給額は、他の世帯と比べると「平均より少し多い」といえます。 

 

2019年にメディアで話題となった「老後2,000万円問題」は、高齢者夫婦世帯の平均年金収入が月21万円であることを根拠に、それに対して平均生活費は月26.5万円のため、毎月5.5万円不足×30年=約2,000万円が不足するという試算をもとに出てきたキーワードでした※。 

 

※ 計算上、数値は概数としています。 

 

よって、A夫妻の年金受給見込額は平均的な年金収入よりも月4万円ほど上回っています。 

 

しかし厄介なことに、A家の生活費は月50万円以上。出費は平均値より23.5万円も上回っているのです。このままでは「老後破綻」も免れません。 

 

ハウスメーカーや外資系保険会社など、さまざまな職種で働いてきた筆者自身の所感も含みますが、数字が好きな男性はよく「年収1,000万円」を目標にします。日本の数%しかいない存在ですから、それを達成すると社会的ステータスが上がる感覚になるのもたしかにうなずけます。 

 

しかし、収入が増えると欲が出てきます。 

 

「もっといい家に住みたい。どうせだったら、都心の快適な住環境がいい」 

 

……悪いことではありませんが、これを叶えると、いつのまにか近くに並ぶお店もいいお値段がするところばかりになっていきます。 

 

また、子どもがいる場合は「教育の質」にもこだわります。高所得世帯はわが子を中学から私立に通わせるケースも多いですが、世帯年収1,000万円程度の場合、学費が着実に家計を圧迫していくのです。 

 

Aさんも、わが子の教育や住環境、身に着けるものの「質」にこだわった結果、ほとんど貯金ができていないということでした。 

 

 

52歳のAさんは、65歳で年金受給が始まるまでまだ10年以上あります。「もちろん出費は減らそうと思っているんですが、なんせ老後の暮らしが心配で……。これから貯蓄を増やしたり、年金受給額を増やしたりする方法はないでしょうか?」 

 

Aさんの話を聞いた筆者はまず、A家の今後の収支についてシミュレーションを行いました。その結果、Aさんが言うように、子ども2人の学費は学資保険で賄える見込みです。 

 

そして、Aさんの望みである「貯蓄」と「年金受給額」の増額も、次の方法で実現できます。 

 

1.生活費を見直す 

 

「年収1,000万円」にあぐらをかき、これまで食費から趣味にいたるまであまり金額を気にとめず使っていたA家。これからは、支出額に気をつける必要があるでしょう。 

 

A家の現在の支出内訳を確認したところ、さほど利用していないサブスクリプションサービス(動画・音楽)やジムを解約し、毎週の外食や惣菜購入を抑えるだけで、月12万円も見直し余地があることがわかりました。 

 

とはいえ、月50万円も出費していたところ、いきなり1ヵ月10万円以上の節約は厳しいかもしれません。金融サービスと自動連携できる家計簿アプリも存在しますが、半年間はエクセルで週次の記録を取り、月次の波をならして支出額を継続して抑える感覚を身に染み込ませる方法をとることにしました。 

 

2.年金「繰下げ受給」の活用 

 

年金受給時期を繰り下げて受給額を増額する方法があります。ひと月繰り下げるごとに0.7%受給額が増えるため、仮に5年繰り下げて70歳から年金受給開始とすれば、受給額が42%増える計算です※。 

 

※ これにより所得税・国保なども増額されるため注意が必要。 

 

しかし、繰下げ受給を選んだ場合、本来の受給開始時期から繰り下げた時期まで、年金収入がゼロとなってしまいます。 

 

幸いにもこの点、Aさんは仕事が嫌いでなく、また人材不足に悩む勤め先も意欲ある社員には嘱託で70歳まで働くことを歓迎しているとのこと。 

 

現在よりも年収は下がるでしょうが、本人の希望と実現性を鑑み、この方法も選択肢のひとつとなりそうです。 

 

 

筆者「収支改善が達成したらやりたいことや老後の夢はありますか?」 

 

Aさん「実は、妻も私も、旅行が大好きなんです。でも、息子の中学受験が始まったころからまったく行けておらず……娘が無事大学に受かったら家族旅行をしようと話していたところなんです。そしてゆくゆくは、妻と2人で色々なところへ行きたいと考えていました」 

 

筆者「では、家計改善の目標を『旅行』にしましょう! 生活費を月12万円ずつ削減できたら、そのうち年50万円を旅行代金に充ててはいかがでしょうか」 

 

Aさん「それはいいですね。大好きなことのための節約であれば、俄然やる気が出てきました」 

 

A家の「その後」 

 

それから3年後、「ライフプラン点検」をすべくAさんを訪ねたところ、A夫妻は喜んで出迎えてくれました。 

 

「月によって多少ムラはあるものの、妻と『年100万円は絶対に貯蓄しよう、その半分の50万円で旅行を楽しもう』と決め、この3年実行できています。 

 

長男は社会人2年目になり、長女も来年で大学卒業です。長女が大学に入ってから、国内をメインに回ってきましたが、長女の卒業祝いにはハワイに行こうと家族で話し合ったんです。毎年の楽しみも増えて節約もできて、一石二鳥です」 

 

家計改善をはじめる際、ただ生活水準を下げるだけでは辛く感じてしまい、長続きしないケースも少なくありません。A夫妻のように「目標」を決めて、その目標に向かって楽しく節約することが家計改善成功の秘訣といえるでしょう。 

 

髙屋 亮 

FP Office株式会社 

1級ファイナンシャル・プランニング技能士/CFP® 

 

 

 
 

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