( 270726 ) 2025/02/27 17:32:28 0 00 2025年2月13日、ホンダの三部敏宏社長と日産の内田誠社長がそれぞれ会見し、昨年末から進めていた「両社の経営統合に関する検討」を終了すると発表した。事実上の「破談」となり、両社は(協業の協議は続くものの)経営戦略の見直しを進めることになる。この「破談」の内幕について、経済誌やSNSではさまざまな憶測が乱れ飛んでいるが、実際のところ、なぜ日本自動車界最大級の資本提携の話がわずか1カ月半で協議され、終了し、破談となってしまったのか。ファクト(事実)を元に、経緯を辿って内幕を考察してみたい。
文:池田直渡/画像:日産自動車、本田技研工業、ベストカー編集部
ここしばらく自動車業界の話題を独占していたのは、ホンダと日産の経営統合の二転三転するドタバタ劇だった。すっかり悪者にされて、批判にさらされている日産だが、どうも話がおかしい。
おそらくほとんどの人は、「経営に失敗して倒産が目前に迫った日産が、無駄なプライドで、ホンダの風下に付くのを拒否して、さらなる苦境に陥っている」という理解だと思う。
だが、これはまったく話が違う。そこへ誘導していったのはまたもや大手マスコミである。時系列に沿って、ファクトを並べてみよう。
まず、2023年4月から2024年3月の日産自動車の決算(現時点の最新本決算)は、近年稀に見る好決算であった。
・小売販売台数 344万2,000台(前年比 104.1%) ・売上高 12兆6,857億円(前年比 119.7%) ・営業利益 5,687億円(前年比 150.8%) ・営業利益率 4.5%(前年比 プラス0.9ポイント) ・当期利益 4,266億円(前年比 192.2%)
もちろんこの時点では日産の経営不安など口にするものはなく、日産のV字回復を誉めそやす記事が多かった。
問題は2025年4月から9月の上半期決算、つまり新年度開始後の半年で、対前年比99%減と急転直下の悪化をしたことである。確かに上半期の日産の決算は悪かったが、それはたった半年の話である。日産の規模の会社がたった半年で倒産の危機に陥ることなどありえない。
実際日産の財務状態に関しては、上半期決算で最高財務責任者(当時)のスティーブン・マー氏が以下のように発言している。
「決算をご覧いただければ、ネットキャッシュは自動車事業でも1.3兆円と健全な水準です。流動性も健全で、未使用のコミットメントラインは1.9兆円。キャッシュ相当は1.4兆円。十分なキャッシュは確保できています」
筆者の計算では、日産の経営がまったく回復しないままだとしても、手元の資金だけで丸1年以上、銀行からのコミットメントラインを合わせれば5年半は持ちこたえられる。その間に手を打ちさえすれば良いのだ。
さらに2024年12月23日のホンダ・日産・三菱自動車による合同会見の内容をサマリーすれば以下のようになる。
・日産は2026年までに自力再建を実行し、健全な財務体質に復帰する。万が一それができなかった場合は、経営統合は白紙撤回する ・日産の自力再建後は、ホンダと日産は、持ち株会社の下で対等の立場で経営統合を進め、シナジー効果を高めていく
つまり、「まずは自主再建ありき」であり、「再建が済めば対等」というのは当たり前の話である。
しかも日産は、新規で設立する持ち株会社は「ホンダからの初代社長擁立」と、「株価総額比率による役員配分」について合意しており、常識的な範囲で譲るべきところは譲っている。
ところが大手メディアは、この記者会見の話を完全に無視して、あくまでもホンダによる日産の救済であるかのように書き立てた。それがホンダの判断を狂わせたのではないか。
自主再建ありきの統合と、対等の立場については、2024年12月の時点ではホンダの三部敏宏社長も同意している。ホンダの公式YouTubeに会見の模様はすべて残っているので誰でも再確認できるはずだ。
おそらくは、メディア報道に煽られたホンダOBをはじめとするホンダのステイクホルダーが、三部社長を突き上げ、「瀕死の日産を救うとは何事だ。ましてや対等など話にならん」と詰め寄ったものと思われる。
あまりの剣幕に社内調整がむずかしくなった三部社長は、やむを得ず日産に対して、子会社化ということでまとめられないかと打診したのではないか。
日産としては、それは最初の話とあまりにも違う、すでに持ち株会社の件で譲歩もしている上で、さらに手のひら返しの条件変更を持ち込まれたのでは条件の飲みようがない、となる。
つまりは、ホンダ三部社長と日産内田誠社長の間で重ねてきた話し合いの前提を正しく報道しないメディアによって、この経営統合は破壊されたと言ってもいい。
【本稿は「後編」に続く】
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