( 270901 )  2025/02/28 04:47:49  
00

榛葉賀津也幹事長(写真:時事) 

 

 通常国会での予算修正協議の「最大の焦点」(自民幹部)とされた「103万円の壁」引き上げ問題は26日、与党の自民、公明両党と国民民主党の大詰めの調整でも合意が得られず、協議は事実上打ち切りとなった。「178万円」への引き上げを強く求める国民民主と折り合いがつかなかったためだが、自公両党はこれまでの協議を踏まえ、従来の政府案で123万円としていた課税水準を160万円に引き上げる税制改正の修正案を28日にも国会提出し、日本維新の会(維新)など他野党の協力を得て、会期内の成立を目指す構えだ。 

 

 昨秋の衆院選での与党過半数割れを受けた「宙づり国会」で、政府予算などを巡る与野党修正協議の“主役”となったのが、玉木雄一郎氏(3月4日に代表復帰)が率いる国民民主。石破茂首相(自民党総裁)、斉藤鉄夫公明党代表ら与党最高幹部も、「安定的な政権維持には、国民民主の取り込みが必須」(自民幹部)として、自公国3党協議での合意取り付けに腐心してきた。 

 

 今回、与党が国会提出する税制改正修正案について、自公国協議の中軸となった宮沢洋一自民党税制調査会長らが「3党協議の集大成」と位置づけ、今国会での成立、早期実施を目指すのは、「国民の要求に応える与党」をアピールするのが狙いとみられる。これに対し、玉木氏が「理想とは程遠い」などと抵抗するのは、「わが党への国民の支持は高く、『要求貫徹』の姿勢を堅持すれば、次期参院選でも躍進が可能との読みに基づく」(側近)とされる。 

 

 ただ、こうした玉木氏について、与党は「これまで主張してきた『対決より解決』ではなく、『解決より対決』という真逆の対応」(自民税調幹部)と反発し、「現時点で実現可能な税制改正修正案を突き付けることで、圧力をかける」(同)ことに踏み切った格好だ。そうした中、他野党から「玉木氏の“政局優先”の態度はおかしい」(維新幹部)との声も出るなど、「今後の展開次第では、与野党攻防に絡めた“玉木潰し”の動きが顕在化することも想定される状況」(政治ジャーナリスト)となりつつある。 

 

 

■国民民主は年収制限の全面撤廃を主張しているが… 

 

 与党が提出する税制改正修正案は、「年収の壁」を160万円に引き上げたうえで、年収850万円を上限に、控除を4段階で上乗せするという内容で、「財務省の試算では、1人あたり年2万円前後の減税になる」(自民税調幹部)という。そもそも、「年収の壁」引き上げを巡って国民民主は年収制限の全面撤廃を主張しているが、有識者からも「それでは富裕層優遇となり、税の公平性に反する」(税制専門家)との批判がくすぶっていることも踏まえた「与党の強かな戦略」(政治ジャーナリスト)ともみえる。 

 

 そこで、「年収の壁」を巡るこれまでの与党と国民民主の協議を振り返ると、「内容や手続きを含めた“ボタンの掛け違い”ばかりが目立ってきた」(同)のが実態とみられている。この点について関係者は「3党それぞれに『党内の主導権争い』があり、とくに、国民民主内で交渉担当者となった古川元久代表代行(党税調会長)と玉木氏サイドとのあつれきが協議迷走の原因」(自民税調幹部)と指摘する。 

 

 そもそも、自民党の交渉責任者となったのは党執行部の森山裕幹事長、小野寺五典政調会長と宮沢税調会長の3氏。その中で、森山、宮沢両氏は「最初の段階から意思疎通を絶やさず、わざと対立するふりをしてまで、国民民主の懐柔を狙った」(同)とされる。というのも、衆院選敗北を受けて再編成された自民税調は、会長に再任された宮沢氏がまず決めたのが森山氏の最高顧問就任だが、「幹事長の最高顧問就任は極めて異例で、その時点から森山・宮沢コンビで対応することが固まった」(同)との見方が少なくない。 

 

■玉木氏の“不倫失脚”が「ボタンの掛け違い」に 

 

 4カ月近くが経過した「壁」引き上げ協議での最大の「ボタンの掛け違い」は、昨年11月の玉木氏の不倫問題発覚による「失脚」で、国民民主の交渉担当者が古川氏に代わった後の迷走ぶりだ。「古川氏は旧大蔵省入省年次で玉木氏の5期先輩で、強いライバル意識を持っており、あえて玉木氏に相談せず宮沢氏との交渉を進めたため、国民民主内で主導権争いが表面化したのが原因」(同)とされる。 

 

 

 それが昨年12月中旬の交渉大詰めの段階で、「玉木氏が腹心の榛葉賀津也幹事長を通じて森山氏と新たな合意を確認し、これを知らされていなかった古川氏が3党協議を打ち切るという想定外の事態」(同)につながり、「その時点から『壁引き上げ問題』が暗礁に乗り上げた」(自民幹部)というわけだ。 

 

 これを受けて、宮沢氏は森山氏の了解も得て「実質協議を当分棚上げとし、通常国会開幕後もすべてを予算委など表舞台での協議の結果に委ねる戦略に変更した」(自民税調幹部)とされる。 

 

■玉木氏らにとって「自公維合意」が大きな誤算に 

 

 そもそも、今回国会提出される税制改正修正案は「昨年の協議棚上げの前に提案すれば、玉木氏もすぐ、受け入れた内容」(同)だったとの見方も少なくない。そうした中、玉木氏らの大きな誤算となったのが、通常国会開幕後に急進展した与党と維新の「高校無償化」などを巡る修正協議。自民にとって「維新との合意のための財源は1000億円単位で、予算案の一部修正で実現可能」(自民国対)だったため、与野党協議が大詰めを迎えた26日に合意が成立。 

 

 その結果、石破政権が目指す「予算成立」が確実となり、自民党内からは「もう、ごねる国民民主に付き合う必要はなくなった」(同)との声が噴出する状況となったからだ。 

 

 一連の予算修正協議を巡る“騒動”が一段落したことを受け、玉木氏ら国民民主幹部は与党が国会提出する「最終案」についても「このような内容では到底、予算案や税制改正案には賛成できない」(古川氏)と憤る一方で、予算成立後の自公国協議再開は拒まない姿勢をにじませた。同党内に「わが党は完全に軽視されている。与党からすれば、維新の協力が得られれば国民民主に妥協する必要がなくなり、今後の法案審議などでも我が党の交渉力は低下する」(若手)などの執行部への不満、批判を意識した対応ともみえる。 

 

 これに対し、玉木氏周辺からは「むしろこれで支持者が増える。安易に妥協するより『178万円』の目標を掲げ続けて参院選になだれ込めば、議席倍増も夢ではない」(側近)との強気の声も相次ぐ。ただ、永田町関係者の間では「土壇場まで国民民主の味方だった公明も裏切ったことで、3月4日に代表復帰する玉木氏に対する他党の“玉木潰し”の動きも加速する」(政治ジャーナリスト)との見方が多く、玉木氏の“対決戦略”の成否はなお不透明な状況が続くことは間違いない。 

 

泉 宏 :政治ジャーナリスト 

 

 

 
 

IMAGE